「All Things Must Pass」50周年記念2020年ミックスを一周聴いた

8月6日にとうとうリリースされたジョージの「All Things Must Pass」50周年記念盤。5枚組のスーパーデラックスエディションはさっそくSpotifyで聴けるようになっていて、もちろん当日中に5枚組全編を5周繰り返し聴いた、と言いたいところだが、情けないことに今の自分はこの超弩級の大物を受け入れる態勢にまったくなっていない。仕事の方で厄介な大物をまた抱え込んでしまい、しばらく体験していなかった猛暑もあって心身ともにヘロヘロで思うように作業が進まず、どうにか頼み込んで納期を延ばしてもらい……という苦しい状況。ジョージ一世一代の金字塔「All Things Must Pass」、その記念すべき50周年盤には、こんな仕事のことは忘れてじっくり集中して向かい合いたいという思いがあったけど、リリース日の6日は結局、仕事を終えたら電池切れになってしまいすぐ寝た。ようやく聴けたのは翌7日の夜、昨晩のことだった。それも、「Apple Jam」までは行けず、「Hear Me Lord」を聴き終えたところで日付が変わったので寝た。まあとにかく、一番聴くべき部分、アナログでは1~2枚目に当たる部分の2020年ミックスは堪能できたのだ。そんな夜が明けた今は「Apple Jam」を聴きながらこれを書いている。

2020年ミックスを聴き始める前にちらりと思ったのは、ニルヴァーナの「In Utero」20周年ミックスのことだった。「All Things Must Pass」と「In Utero」のオリジナルバージョンの共通点は、プロデュース方針による演出が音楽全体に大きく影響していること。スティーヴ・アルビニのプロデュースによる「In Utero」は本当に極端なバランスのミックスでリリース当時から物議を醸していたけど、その過剰さを排した20周年ミックスを聴いてみたら、普通のロックすぎてちょっと物足りないと思った。あのアルビニの異常さが「In Utero」の世界には不可欠な要素だったとよくわかったのである。フィル・スペクター色が薄まったという今回の「All Things Must Pass」はどうなんだろう、もしかして「My Sweet Lord」とか「Isn’t It A Pity (Version One)」とかも、スペクターの魔法が解けて普通のフォークロックに聞こえるんだろうかと、その点に興味津々だった。


聴いてみたら全然そんなことはなかった。「My Sweet Lord」の世界は、ミックスが変わったぐらいでは微動だにしない。イントロのギターのストロークが始まった瞬間から、どうしようもなく「My Sweet Lord」だった。元々あれだけたくさんの楽器が入っていて、あのスライドギターがあって、ハレルヤがいつの間にかハレクリシュナにすり替わっていく世界観があって、ジョージの心からあふれ出す神への真摯な思いがあって、スペクターの「音の壁」を取り除いたとしても、元から森羅万象があちこちで鳴り響く極限まで密度の高い4分半なのである。「Isn’t It A Pity」しかり。普通ではない。よくわかった。やっぱりジョージは凄い。

逆に、「普通」に近いものになってぐっと来た曲が2つ。「If Not For You」「Behind That Locked Door」と穏やかな2曲が続くところが、昨晩の自分にとっては最高のハイライトだった。「If Not For You」はフォーク感が増してディラン寄りになり、曲の良さをさらに引き出していた。アコースティックなスライドギターの音色も耳の近くでよく聞こえるようになった。素晴らしい。「Behind That Locked Door」に関しては、一昨年にジョージの命日に寄せて当ブログに書いたとおり、ジョージの本物の優しさが初めて自分の心に直接語りかけてきた曲だったんだけど、その優しい声がぐっと前面に出た2020年ミックスは、そのときの気持ちを再び思い出させてくれた。もうそれだけで本当に心が満たされてしまって、やっぱりジョージはいい、としか言いようがなくなった。



今のところ2020年ミックスを聴き通すのが精一杯で、デモやアウトテイクに関してはまだ手を付けられていない。実は「ブツ」すらまだ手元にないのだ。あの超高額アイテムは元より視界に入れていないが、たいていのジョージファンがそこに落ち着くだろうCD5枚組エディションに決めるまでの踏ん切りもなかなか付けられず、発注が遅れてしまった。本当に今年は何かと物入りで参ってしまう。まあ、そんなマテリアルのことはともかく、精神的、時間的な受け入れ態勢もなかなか整えられないヘタレっぷりで、お前はそれでも全ジ連か、と自分でも思う。とにかくまずは生活上の大物をどうにかやっつけた上で、50年前のジョージが残してくれたこの途轍もない大物にじっくり向き合いたい。

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