「I Want To Tell You」のコード進行が表現する、もどかしい気持ち

今年もとうとう11月。毎年、この月に入って寒さが増してくると、今年もジョージを偲ぶ時期が来たのだな、と肌で感じる。11月1日の朝、日常的にシャッフルで流しているプレイリストを立ち上げたら一発目にかかったのが、ビートルズの「I Want To Tell You」だった。


先週リリースされたスペシャル・エディションのおかげで、最近の自分はすっかり「Revolver」に脳内を占領されていて、「I Want To Tell You」もしょっちゅう頭の中で流れてはいたけど、5000を超える曲が入っているプレイリストから11月に入った途端にこれが選ばれて、やっぱりジョージの月なのだなと改めて感じさせられた。1991年の来日公演で、ジョージがステージに登場して最初に演奏した曲でもある。自分は1990年のポール来日を観に行っていないので、「I Want To Tell You」は元ビートルが自分の前でライブ演奏してくれた初めての曲。特別な存在である。

この曲で一番特徴的なのは、E7b9というコードが使われていること。9度のフラットとは、1オクターブより半音上。つまり、ルートのEに半音上のFがぶつかる、不協和音を含むコードなのだ。ピアノの白鍵でド・ミ・ソの和音を押さえながら、ドの両隣の黒鍵を同時に鳴らすことを考えてみればわかりやすい。あの決して気持ちよくはない不協和音の響きが、この曲のテーマである「伝えたいことが心にあふれているけど、言葉でうまく言い表せない」というもどかしさと一致するということで、ジョージは意識的にこのコードを選んだらしい。
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上のコードフォーム表の元画像はOnlineGuitarBooks.comより。赤で囲んだフォームは、自分がビートルズの響きに一番近いと思うもの。ただ、この曲でのギターの出番は、イントロから繰り返されるあの印象的なリフにほぼ限定されていて、肝心のE7b9を奏でるコード楽器はギターでなく、ポールの弾くピアノなのである。また、ベーシックトラックの段階でベースを入れず、後からポールがベースだけ重ねるという手法を取り入れたのも、この曲がビートルズ史上初めてだという。だからベースもブンブンと前面に出て聞こえる。ポールって、ジョージの曲になると演奏面で普段以上に張り切って前に出るところは確実にあったと思う。もちろん、レノン=マッカートニー曲に比べれば地味に聞こえるジョージ曲を盛り上げようという気持ちからだろうけど、末っ子からすぐにおもちゃを取り上げようとする次男坊みたいな感じも、自分には若干しないでもない。それでも、この天才次男坊はやることなすことバッチリ決まってしまうので、まったく文句は言えないのである。ポールの圧倒的な音楽的才能と、弾かないリードギタリスト、ジョージの引きの美学が絶妙の均衡を保っているからこそ、ビートルズのマジックは光り輝くのだ。

このE7b9コード、上の表にある高い方のポジションで弾いてみると、ジャズやボサノバの曲で多用されるオシャレコードでもあることがわかるのだけど、「I Want To Tell You」での聞こえ方はまったく違う。既存の用法にとらわれずにコードの響きを自分なりに探求し、その意味を再定義して独特の使い方をするのがジョージ。ジャズの文脈ではなく、不協和音の側面に着目して曲の中心に据えたから、あれだけ印象的に響くのだ。後年、ソロになってからジョージのトレードマークになったディミニッシュコードの使い方もまさにそうで、偉大なる発明と言って差し支えないほど独自性の強いもの。そのディミニッシュが、世に出たジョージ曲で初めて使われたのも「I Want To Tell You」なのである。
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ここではBm→Bdim→A→B→Bm→Bdim→Aと、同じルート(B)の上でマイナー/ディミニッシュ/メジャーが交錯する進行になっていて、これもまるで、どのコードでもうまく言い表しきれない、というもどかしさを表現しているように感じられる。バキッと白黒付けてしまわずに、グラデーションの中間を曖昧にさまよう感覚。この進行を聴いていると、流れる雲に太陽が遮られたり、また晴れたりという空の下で、日照の微妙な変化をぼんやり眺めているような気持ちがするのだ。ジョージの音楽から木漏れ日や月明かりを想起させられるのは、こういうところ。「I Want To Tell You」は色々な面で、「Revolver」に入っている3つのジョージ曲の中でも後年のジョージの音楽につながる要素が一番強いと思う。

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