Beck「Totally Confused」

94年4月にカート・コバーンが突然亡くなって、自分の心にぽっかり空いた大きな穴を埋めたのが、ちょうどその頃ニルヴァーナと入れ替わるように「Loser」で華々しく表舞台に登場したベックだった。自分が最初に買ったベックのCDは、「Mellow Gold」のアルバムよりも先に「Loser」のシングルだったと思う。そのシングルに入っていたカップリング曲、「Totally Confused」は自分にとって「Loser」と同じぐらい、いや「Loser」よりも大切な曲。


元は、1994年初頭に10インチアナログ盤という形態でFingerpaintというインディーレーベルから出たミニアルバム「A Western Harvest Field by Moonlight」に収録されたのが初出という。これと「Loser」のシングルのほかに、「Beercan」のマキシシングルにも収録されているが(曲名表記は「Totally Kunfused」)、それ以降には何かのCDに入ったことは多分ないと思う(後から訂正:2000年に日本限定で出たB面曲コレクション「Stray Blues」に収録されたのが最後)。だから現時点では配信でも聴くことができない。21世紀の現在ではすっかり忘却の彼方に押しやられてしまった最初期ベックの名曲なのだが、当ブログではこの曲のことを忘れない。

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「Loser」シングル内ジャケに、この曲の参加メンバーのクレジットがある

コーラスと演奏で参加しているのはThat Dogのメンバー、アンナ・ワロンカー、レイチェル・ヘイデン、ペトラ・ヘイデンの3人。アンナの兄、ジョーイ・ワロンカーは言わずと知れた当代一流のセッションドラマーで、後年ベックとも組むことになる。そしてレイチェルとペトラのヘイデン姉妹は、偉大なジャズベーシスト、チャーリー・ヘイデンの実の娘たち。最初はそんなことまったく知らなかった。父チャーリー・ヘイデンとハンク・ジョーンズがデュオで演奏した「Steal Away」も、自分にとって本当に大切なアルバムだけど、これに出会ったときもまだ「Totally Confused」のヘイデン姉妹と父娘のつながりがあることを知らなかった。かたやジャズ界の大御所ベーシスト、かたやローファイなインディーロックと、音楽的にはまったく関連性がないけど、この父娘が関わったどちらの作品も、自分の中で別々にとても重要な位置を占めている。不思議なものだ。

レイチェルがウィーザーにゲスト参加してヴォーカルを取っているこの曲も、超絶大好き

「Totally Confused」という曲自体について、言葉で表現できることはあまりない。自分は本来、ドラムがしっかりしていない音楽は聴くのがしんどい。しかしこの曲には、このたどたどしいドラムしかあり得ない。ベースと対のハーモニーをなす訥々とした単音弾きのギターと、ひなびたバイオリンの音色と、ボロをまとった天使のような女声コーラスが織りなす、崩壊寸前の微妙なバランス。べっとり張り付いたどん詰まりの疲労感と、屋根裏部屋に打ち棄てられた埃まみれのどうしようもないガラクタが放つ美しさ。ベックがこういうくたびれきった持ち味を出していたのは、最初期だけだった。もちろん「Odelay」も大好きで90年代当時は本当によく聴いたけど、もう最近はめっきり聴かなくなった。「One Foot In The Grave」と「Mellow Gold」に入っている何曲かと、この「Totally Confused」は、今に至るまで何度聴いても自分の心の中にすっと入ってくる。

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94年か95年当時、実家の近くにあった輸入レコード屋で普通に購入した10インチ盤。Fingerpaintというレーベル名のとおり、実際に指でペイントされたカードが封入されていた。

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