チェリー味の制酸薬

アメリカ出張も回数を重ねているので、日本から必ず持って行くもの、持って行くと便利なもののリストを作り、経験に基づいてそのつどアップデートしている。リストの中に「胃薬」が入っている。太字で「重要!」との但し書きもある。自分が書いたのだが、日本にいるときに見ると、なぜ胃薬がそんなに重要なのかピンと来ない。それでも「重要」ということなので持ってきてみると、たしかに重要だったと実感するのである。ここでの自分は日本にいるときのように飲み食いの制御ができない。当地のお気に入りスーパーで買える、まるまる一羽分8ドルで売っているローストチキンが大好きだし、ビールもワインも毎晩たくさん飲む。胃に負担がかかって胃薬が必要になるときが必ずあるのである。日本の自宅でもっと抑制の利いた日常生活をしているときの自分には、こういう状況があまり実感としてピンと来ないのだ。

どこにいても変わらない、唯一の確固たる自分というものは存在しないのだと思う。「自分」とは不定型のもので、居場所や状況に応じて変化する。アメリカではアメリカの自分、日本の自宅では自宅の自分。ムンバイ、東京、そのほか自分がかかわってきたさまざまな場所に、自分のかけらを置いてきた気がする。その場所に行くと、その場所に残してきた自分に会える。だからまたムンバイに行きたい。5年前に一時停止してきた自分をいつか再稼働させてみたい。

アメリカでの自分はニルヴァーナをよく聴く。シアトルからはずいぶん離れた場所にいるが、同じアメリカ西海岸であり、少し彼らに近づけた気がする。アメリカという国にいることも、オフィスに通って仕事をすることも、自分に向いていることでは決してなく、疲れとストレスが溜まって心がささくれ立つ。こうなるとニルヴァーナを大音量で聴きたくなる。Spotifyで彼らのアルバムを見ていたら「Live And Loud」という新しいライブアルバムが今年出ていたことを知った。このタイトルのライブ映像や音源が存在することは90年代当時から知っていたけど、2013年にライブDVDとしてリリースされ、今年になってストリーミングでライブアルバムとして公式に出たようだ。さっそく聴いた。「Pennyroyal Tea」ではニルヴァーナのライブにしては珍しく、もうひとりのヴォーカルが上のハーモニーをしっかり歌っていて、ダブルヴォーカル状態で非常に格好いい。デイヴが歌っているのかと思ったが、映像を見るとサイドギターのパット・スメアだった。パット、こんなにガツンと力強い歌が歌えるんだ。とてもいい。


アメリカで胃薬が必要になったとき、当地で手に入る胃薬を試してみたが、自分には全然効果がなかった。たぶんアメリカで育った人たちとは普段の食生活が違うから効かないのだろう。「Pennyroyal Tea」の歌詞に「Cherry-flavored antacids」というものが出てくる。「Antacids」とは胃酸を中和する制酸薬のことで、当地のスーパーの薬売り場でよく売られている。胃薬を探しているときにこれを見つけて、「Pennyroyal Tea」を思い出した。色々なフレーバーの制酸薬が売られていて、チェリーのイラストが入ったものもあった。慢性的な胃痛に悩まされていたというカート・コバーン、実際にチェリー味の制酸薬をよく飲んでいたのだろう、きっと。

IMG_20190902_192720.jpg
IMG_20190902_192819.jpg
チェリー以外にもさまざまなフレーバーの制酸薬がたくさん売られている

タイトルとURLをコピーしました