David Bowie「Metrobolist」~去年が「世界を売った男」50周年だった

デヴィッド・ボウイの「世界を売った男」は、数多いボウイの作品中でも自分が一番深くのめり込み、一番よく聴いたアルバムかもしれない。1970年にリリースされた作品ということで、去年の11月に50周年を迎えたのだけど、そのタイミングで50周年リリースが出ていたことに、つい先日まで気付かなかった。Spotifyのボウイのアーティストページにちゃんと上がっていて、目にする機会はいくらでもあったはずなのに、スルーしていた。アルバムタイトルが「Metrobolist」なる見慣れないものに改題されていたことも、自分がしばらく存在に気付けなかった一因だったかもしれない。ディスクユニオンのサイトに載っている詳細情報によれば、「Metrobolist」とはボウイ側が元々考えていたタイトルで、リリース直前にレコード会社によって「The Man Who Sold The World」に差し替えられたのだという。ジャケットも、当初原案通りの頭を吹っ飛ばされたカウボーイのイラスト。1970年から50年経ってようやく、ボウイが意図した通りのものが出たということらしい。

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肝心の音は、トニー・ヴィスコンティが手がけた2020年ミックスで収録されている。過去の名作の50周年記念リリースに最新リミックスを施すのはすっかり近年の定番コースのようになったけど、トニー・ヴィスコンティはオリジナルのプロデューサーでもありベーシストでもあった当事者中の当事者だけに、かなり大胆な演出を加えた仕上がり。曲によっては、別物に再構築されたと言ってもいいぐらい。中でも衝撃的だったのが(従来の)タイトル曲の2020年ミックスである。もしまだ聴いたことのない方がこれを読んでくださっているのなら、まずは以下を聴いてから読み進めてほしい。


とにかくドラムのドカドカと生々しいサウンドに驚かされてしまう。これは本当に当時の演奏のリミックスなのか、実はドラムだけ新しく再録したのではないか、と勘違いしそうになるぐらいで、最初はそちらにばかり耳が行ってしまう。手数がものすごく多い演奏なので、非常に目立つ。何度か聴き直して少し落ち着いてみると、なぜか笑えてきてしまった。いやいや、これはこれで非常に面白いけど、これはもはや「The Man Who Sold The World」じゃないよ、何か別のものだろう、と感じた。あの、いびつ極まりないバランスのオリジナルミックスをさんざん頭に刻み込んできた自分からしてみると、この「普通」のバンドサウンドが逆に笑えるほどアンバランスに聞こえるのだ。オーディオで聴く音楽作品にとって、ミックスとはどれだけ重要な要素なのか、つくづく思い知らされる。素材としての音は同じでも、リミックスのやり方次第ではまったくの「別物」を作り上げることができるのだ。「Metrobolist」は「世界を売った男」の2020年アップデート版というよりは、不安そのものを音にしたかのようなオリジナルにどっしりとした安定感を加えて、わかりやすくヘヴィーロック寄りに構築し直した別の作品、という風に自分はとらえた。「世界を売った男」が聴きたければ自分は今後も1970年のオリジナルを聴くし、「Metrobolist」もこれはこれでロック的な魅力があるので、時にはこちらを聴きたくなることもあると思う。

そんなこんなで「Metrobolist」の発見をきっかけに改めて「世界を売った男」に向き合った流れで、昨晩は「Blackstar」も久しぶりに聴いた。1970年の「世界を売った男」から45年経って、ボウイの遺作は奇しくも同じトニー・ヴィスコンティのプロデュースによって生み出されたのだ。「Blackstar」が出た当時から感じていたことだけど、やはりこの2作には年の離れた兄弟のように共通する雰囲気があると思う。どちらの作品にも死と接近したどん詰まりの切迫感があるし、両アルバムのオープニング曲「The Width Of A Circle」と「Blackstar」はどちらも聴く者にダークな影を落とす長大な組曲。考えてみれば、1970年の時点ですでに遠く45年後の遺作につながるような作品を生み出していたなんて、もの凄いことじゃないか。そもそも「世界を売った男」は「Space Oddity」の次に出たアルバムなのだ。繊細なフォーク風味だった前作の面影はほとんど消え失せ、ミック・ロンソンの歪んだギターがうなりまくる異形のハードロック。「異形の」という形容がこれほど似合う音楽もめったにない。以降のグラムロック時代の先駆けとも言われるけど、そちらとのつながりも自分にはあまり見えてこなくて、これだけが異端として突出しているように感じられる。どうして初期ボウイからこんな作品が突然生まれたのだろうか。「Blackstar」とボウイの死を同時に迎えたとき、自分がずっしりと受け止めた何かが「世界を売った男」にはすでにあったのではないか、と思えて仕方がないので、この両作品を並べてもう少しじっくり考えてみたい。

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