行人~僕をあまり厳しく裁かないでください

2月、3月と個人的にかなりしんどかった。今月はドアの前に「Do Not Disturb」の札を掛けて、ひたすら静かに部屋に閉じこもっていたい。誰もドアを叩くな。波風を立てるな。今月はとにかくゆっくりのんびりやるのだ。仕事も入れすぎないようにする。実はこれが難しい。メール(たまに電話)で案件の打診を受けて、対応するかしないか返事するだけなのだが、依頼を断るのもストレスなのだ。とくに、同じ人が毎日毎日依頼してくる時期があって、忙しいときは毎日繰り返し断らなければならないのがつらい。日々さまざまな案件の依頼があって有り難いことなのだが、せっかく自分に持ってきてくれた案件を断りたくないあまり、時間的余裕が少しでもあると限界ギリギリ以上まで詰めてしまおうとする。これが良くない。いい顔をしようとせず、仕事なんだから事務的に冷血に対応をすればいいだけなのだが。自分のマネージャー役をAIがやってくれればいいと思う。AI版ブライアン・エプスタインを作って、自動的に切り盛りしてもらう。かえって初期ビートルズ級の殺人的スケジュールになりそうだ。こんなことを言っていても仕方がないので自分が努めて冷血になろう。

先日まで夏目漱石の「行人」という小説を読んでいた。何年か前、Twitterをやってた頃に「こころ」を何十年かぶりに再読した感想を書いたら、「行人」も面白いから読むようにと勧めてくれた人があって、ずっと頭の片隅にあった。こないだ隣の市の図書館を訪れたらこの本があったので借りてみたのだ。決して読書人ではない自分には難しい内容かと思ったが本当に面白くて、後半はかなりの勢いで読み切ってしまった。読書感想文という柄でもないのであんまりたいしたことは書けないが、とにかく読者は固唾をのんで主人公の兄、一郎の行く末を見守るという物語だった。この一郎にまったく肩入れができなければ、読んでも得るところはないだろう。自己の観念の世界を追求するあまり周囲から疎外され、書斎にこもって暮らす男。自己の中に「絶対」を確立しようともがき、不完全な人間としての矛盾に苦しむ。こんなのは周囲から見れば迷惑な甘えでしかないのかもしれない。読書感想サイトで「行人」の感想を見てみると、こんな人間力に欠けた独善的な人物にはまったく共感できない、と断じている人たちもいた。わがままで、幼稚で、無意味に自分を追い詰めているだけ。まあ、言ってしまえばそうだろうね。でも自分はブライアン・ジョーンズが親に向けて書いたという一文「僕をあまり厳しく裁かないでください」(Please don’t judge me too harshly)を思い出してしまった。一郎はとにかく自己に誠実で100%真剣だった。度外れて誠実すぎたのかもしれないが、どうしても適当なところで加減して生きられず、人間としての限界を超越しようと苦闘する姿はとても貴重なものに自分には思えた。周囲は大変かもしれないけど、こんな苦しい誠実さには、できれば裁きではなく慈愛が訪れてほしいと、これだけ書いて終わりにする。

ありのままの自分でいるだけで毎日のように厳しく裁かれた時期があった。ありのままの自分でいていいはずの場所で、数年間、逃げ場がなかった。あれはつらかった。それで「僕をあまり厳しく裁かないでください」というブライアンの言葉が印象に残っているのかもしれない。もう厳しく裁かれるのはごめんだ。とにかく今月はほっといてほしい。Do Not Disturb。これを書いている間にも案件の打診が2件あり、どちらも冷血に断ったところだ。この調子である。

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先日の旅行中に高速サービスエリアで見かけた可愛いツバメの夫婦。本文とはまったく関係ありません。

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