レコードは買えなかったしライブも観られなかった、But it's all right

毎回、仕事でアメリカに渡るたびに楽しみにしているのが当地でコンサートを観ることと激安中古レコードを漁ること。コンサートは運良く日程が合わないかぎり仕方ないとして、レコード漁りもできなかった。最終日は早い時間に職場から解放されてレコード屋に行けることを期待していたのだが、今回はそれもかなわず。打ち上げからホテルに戻ったのは夜の8時半だった。それでも、その打ち上げ会場のバーではクラシックロックのカバーバンドが演奏していて、トム・ペティの「I Won’t Back Down」をやってくれた。言わずと知れたトラベリング・ウィルベリーズの副産物。ジェフ・リンとの共作で、ジョージがコーラスとアコースティックギターで参加している。イントロと間奏のリードギターはハートブレイカーズのギタリスト、マイク・キャンベルが弾いているのだが、自分が勝手に全ジ連ギタリストの筆頭に認定しているマイクのスライド、ジョージが弾いているものとしばらく思い込んでいたほど、ジョージの演奏にしか聞こえない。ああ、ここにもジョージが現れて、異国で2週間働いた労をねぎらってくれたんだ、と自然に思った。

唯一の休日に近代美術館に行って、そこのショップで買った本がある。ブルース、ジャズ、カントリーの偉人たちをひとりひとりイラストで紹介した本。これはとてもいい、もしミシシッピ・ジョン・ハートが載っていたら絶対に買うよ、と思いながらぱらぱらとページをめくった。

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載ってた。載ってるだけでなく最高に格好良く描かれている。表紙裏にもこのイラストが使われていた。

ビッグ・ビル・ブルーンジーというブルースマンも載っている。ジョージの「Wreck of the Hesperus」に名前が出てきて印象に残っているのだが、音楽のことはよく知らなかった。Youtubeで観られる「Hey Hey」は、エリック・クラプトンがアンプラグドで演奏していたので知っている。しかしこの映像でのビッグ・ビル・ブルーンジーの演奏、安定した力強さといいドライブ感といい、すごい。


「Wreck of the Hesperus」は、むかし読んだ日本盤「クラウド・ナイン」のCDライナーでは「金星の崩壊」と訳されていたように記憶している(後記:あとで思い出したが訳詞どころか曲の邦題自体が「金星の崩壊」だった)。直訳すればそうなのだが、調べてみると、これは1842年に出版されたヘンリー・ワーズワース・ロングフェローによる詩の題名で、「Hesperus」は帆船の名前。つまり「ヘスペラス(金星)号の難破」が正しい意味らしい。さらにネットで複数見つかる情報では、この「金星号の難破」は俗に別の意味にも使われているという。男の子が髪をぼさぼさにしたままだったり、汚いしわくちゃの服を着ていたりと、ひどい身なりをしているとき、そんな「金星号の難破」みたいな格好してないできちんとしなさい、と子供を叱るのだそうだ。この「The Wreck of the Hesperus」は学校の国語の授業で教わるような広く知られた古典の詩であり、古い世代の英語圏の人々には普通に使われていた言い回しだという。難破船の船長みたいなぼろぼろの格好、という意味なのだろう。ジョージの「Wreck of the Hesperus」もこれを念頭に置いているに違いない。この歌詞を訳してみようと思ったが、このたぐいの英語圏で育っていないと正しく理解できなさそうな含みのある表現が多くて、自分がちゃんと訳すにはまだまだ時期尚早。少しずつ解読していかなければならないようだ。元ネタであるヘンリー・ワーズワース・ロングフェローの詩もちゃんと読んでみよう。

「Wreck of the Hesperus」に出てくる「But it’s all right」というリフレインが頭の中をぐるぐるする出張終盤だった。レコード屋もライブも行かれなかったけど、大丈夫。そもそもやるべき仕事はきちっとやれたし、ブルースマンの素敵なイラスト本も買えたし、ジョージにも労をねぎらってもらえたので、大丈夫。明日やっと帰れる。

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僕は「金星号の難破」みたいなオンボロじゃない、もっとビッグ・ビル・ブルーンジーみたいにいかしてるんだ

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