誰も知らない私の悩み カワセミは知っている

「Nobody Knows the Trouble I’ve Seen」はいわゆる黒人霊歌のひとつで、何かといえば自分の脳裏に浮かんでくる大事な曲。誰も知らない私の悩み。イエス様だけが知っている、と歌われることも多いようだが、自分がよく聴くサム・クックのバージョンではこのくだりは歌われない。自分は神に帰依しているわけではないので、神様だけは自分のことを何でもかんでも知ってくれている、と信じることはできない。誰にも言ったことのない、ここにも書かない、誰も知らないことは、誰も知らないまま消えたり、墓場まで持ち込まれたりするのだろう。墓場から先のことは、そのときになってみないと自分には何とも言えない。


この曲はメロディーが美しいのでジャズインスト版も非常に好きで、生涯大切に思うだろうハンク・ジョーンズ&チャーリー・ヘイデンの演奏、そして最近知ったレッド・ガーランドの演奏と、色々書きたいことがかねてからあるのだが、今日は音楽話が書けない。目の前のことしか見えない状況である。少しひまな期間があったりすると、先々の仕事を無理してあれこれと入れてしまう。先方から強制されたわけではない。予定を入れる時点では、これぐらいなら大丈夫だろう、と見込みを立てて無理なく入れたつもりなのだが、そこに人間心理のバイアスが働くのか、現実に取り組んでみてはじめて、見込みが楽観的すぎたと悟る。さらに、予想外の日に一日がかりの用事が入ったり、何だかんだであっという間に首がぎりぎりと締め上げられてしまった。いつものことだ。同じ稼業を何年やっていても、ときどきこういう「詰んだ」状況になる。今朝は目覚めた瞬間から疲労とプレッシャーを感じて気分は真っ暗、布団から出るのが嫌で仕方がなかった。先日、食事中に歯の詰め物が取れてしまったので今朝は歯医者にも行かなければならず、どうしてこんなときに、とそれもまた面倒だった。

歯医者さんの予約は朝一なので朝の散歩ついでに行くことにした。今週は天気の悪い日が多かったので、今朝は晴れていただけでも救いだった。いつもなら散歩コースは山と水の2パターンを日替わりで歩くのだが、今朝はそんな都合でいつもと違うところを歩いた。

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お城跡の公園、冬に訪れることは滅多にないけど、冬支度のされた木々を眺めながらぶらぶら歩いていると、池にちょっと目立つ野鳥が一羽。よく見ればカワセミではないか。近辺の川でたまに見かけるけど、ここの公園で見たのははじめてだと思う。しばらく見ていたら、あの鮮やかな青い羽根をぱっと輝かせて飛び立ち、向こうの木にとまった。いちおう写真を撮ってみたけど、望遠レンズの付いてないスマホでは何も写らないことはわかっている。

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写真の真ん中の木にとまっていたのだが、やはり画像をめいっぱい拡大してみても青い羽根は写っていない。でも自分は確かに見た。青い鳥、カワセミの姿を見ると、自分は大丈夫だとなぜかいつも思う。カワセミのいる場所で暮らしていれば大丈夫だと。インドにもいたし、その前に住んでいた東京の多摩地域でもたまに見かけた。コンクリートしかない実家周辺では見かけた記憶が全然ない。カワセミはいつも一羽で気まぐれに行動していて、決まった場所に行けばいつでも会えるようなものではない。運良く見つけてもすぐにどこかへ飛んで行ってしまう。だから、たまに姿が見られると得した気分がしてうれしい。今朝は、久しぶりにカワセミが見られて、憂鬱だった気分が少し良くなった。歯医者さんの治療はさくっと終わった。虫歯ではなかったようで、こちらもひと安心。これだけのことでも、真っ暗だった気分を変えるには十分だった。詰んだ状況はまったく変わっていないが。

自分の悩みや苦しみなど誰も知らない、しんどいときはそう思って自分の中に閉じこもるのだが、世界とつながりがある以上、やはりそれは違うのかなと思った。歯の詰め物にトラブルが起きて、歯医者の予約をして、治療に行くためにいつもと違う道を散歩したら、カワセミが姿を見せてくれた。互いに全然無関係に見えるあれこれのつながりで世界は成り立っていて、あのカワセミもつながっていて、自分のどうでもいいような苦しみを知っていてくれたのだと思った。それで綺麗な青い羽根をぱっと見せて元気づけてくれた。だから、カワセミがいる場所なら大丈夫。

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近所のスーパーでもらった野鳥カレンダーより。スーパーのお客さんから一般公募された野鳥写真13点、どれもすばらしい。このご当地スーパー、安さだけでなく健康にも配慮の行き届いた自社ブランド商品、お酒、その他あらゆる品揃えがすばらしく、こんな自分のツボを絶妙に突いてくるカレンダーまで無料配布してくれる最高のスーパーである。ここにもカワセミはいる。

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