セロニアス・モンクのレコードを父が持っていた(とは知らなかった)

インド暮らしから帰国後も実家から遠く離れて暮らしているが、親族の動向はわりと細かく把握している。現代っぽくFacebookでつながっているのだ。こちらから投稿することは色々な意味で面倒くさいのでめったにしないが、特に父はちょくちょく趣味を楽しむ様子を垣間見せてくれる。一昨年は突然ビートルズにはまってポール来日公演まで一緒に行くことになり、大いに驚かせてくれた父だが、最近はジャズに熱中しているようだ。自分も近ごろは、夜中の落ち着く時間にジャズのレコード(前に、ジャズピアノを弾く親族に数十枚もらった)を聴くことが増えた。さらに、先日触れたNHKドラマ「心の傷を癒やすということ」でもジャズが重要な役割を果たしていたりと、何かとジャズに縁がある今年である。

そんな父の新しい投稿をのぞいたら、セロニアス・モンクのレコードの話をしていた。1967年に出たアルバム「Straight, No Chaser」のLPを69年に買っていて、図書館で借りた同じアルバムのCDと聞き比べをしたというのだ。69年、まだ自分が生まれる前のことだ。そんな昔から実家にモンクのレコードがあったなんて、まったく知らなかった。実家にあったジャズのレコードはデイヴ・ブルーベックの「Time Out」ただ1枚だと思っていた。あのテイク・ファイブが入っているアルバム、中高生の頃に実家のレコード棚で見つけて自分が初めて聴いたジャズだけど、モンクのレコードがあったのには不思議と気付かずじまいだった。実家にあったレコードはそんなに多くなく、めぼしいレコードは隅々までチェックしたつもりだったのに。

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レコードとCDを並べた写真、投稿から無断拝借。父が持っていた日本盤レコードのジャケは、CDとはデザインが少し違って背景が黒い。

「心の傷を癒やすということ」は最終話まで見た。すべてが素晴らしかった。このドラマでバド・パウエルの楽曲が印象的に使われていたのは先日書いた通りだが、セロニアス・モンクの名前も出てきていた。第1話、高校生時代の安先生と、進路に悩む親友(この登場人物も実際に安先生と深い親交があった精神科医がモデルとのこと)が夜の公園で語り合うシーンの会話に、モンクの名前が登場するのだ。このあと、進学した二人がジャズバンドを組んでバド・パウエルの「クレオパトラの夢」を演奏するシーンにつながる。この親友は安先生と同じ道に進んで精神科医の湯浅先生になり、ドラマの最後まで二人の固く結ばれた友情が慈愛あふれる眼差しで描かれていた。

パウエルとモンクの二人は互いに尊敬し合う関係で深い親交があり、一説によればセロニアス・モンクの「In Walked Bud」はバド・パウエルへの感謝の気持ちを表した曲だという。いくつかの伝記に書いてあるという話によれば、モンクが出演するクラブに警察の手入れがあり、身分証の提示を拒んだモンクは警官に暴力を受ける。そのとき助けに入ったのがバド・パウエルで、「やめろ、何をしてるか分かってるのか。世界一偉大なピアニストを手荒に扱っているんだぞ」と言ったそうだが、今度はパウエルが警官に頭を殴られ、そのとき受けた傷がもとで精神病を悪化させることになった……というエピソード。曲のタイトルは逆さ読みすれば「Bud walked in」で、このときの状況を表していたことになる。こういう話がどこまで本当かはわからないけど、この二人が固い友情で結ばれていたことは事実だったようだ。ピアノのスタイルも両者は全然違うように思えるけど、並べて聴いてみるとやはり意外なほど共通する雰囲気が強く、同じ時代に生きて同じ空気を吸っていたのだなあと感じる。あのドラマで描かれていた、安先生と湯浅先生の強く深い友情も、これを思い出させる。ドラマ制作陣のスタッフブログ(後記:現在はリンク切れ)によれば、実際の安先生も、セロニアス・モンクとバド・パウエルの二人が特にお好きだったという。


父が持っていたレコードはほとんどがクラシックだった。ジャズはデイヴ・ブルーベックと今回わかった「Straight, No Chaser」の2枚だけ。若き日の父がなぜめったに買わないジャズのレコードを買ったのか、父が投稿に書いていた説明によると、アルバムに入っている「荒城の月」を当時ラジオで聴いて気に入ったかららしい。

自分は中途半端なジャズリスナーなので、このアルバムもちょうど最近になってSpotifyで聴くまで知らなかった。「荒城の月」はモンクが来日公演時に聞き覚えたメロディを持ち帰ってジャズ化したものらしく、当初は「Japanese Folk Song」というタイトルで作者不詳の民謡扱い。後年の再発で瀧廉太郎の名前がクレジットされるようになったようだ。このジャズ版「荒城の月」、とてもいい。日本人の耳で聴いても決して珍妙には感じられず、マイナー調のテーマを持ったモダンなジャズとしてモンクなし、いや文句なしに格好いい演奏。モンクのピアノはとても溌剌としていて、バンドアレンジも冴え、演奏時間は長いけど全然退屈しない。69年当時の父がラジオで聴いて気に入り、アルバム購入に至ったのも納得。

このアルバムにはさらにもうひとつ、重要な曲が入っている。「Between the Devil and the Deep Blue Sea」である。


ジョージファンならすぐにウクレレの音色が浮かんでくるあの曲。モンクはソロピアノで持ち味を十二分に出している。自分はモンクのソロピアノアルバム「Thelonious Himself」と「Solo Monk」を昔から愛聴してきたので、このスタイルでこの曲をやっていたのはとてもうれしい。ジョージはウクレレ、モンクはソロピアノで、それぞれの魅力を余すところなく発揮しているこの曲がさらに好きになった。この曲の演奏者としてジョージとモンクは名前を並べ、つながるのだ。「荒城の月」とこれが入っている「Straight, No Chaser」、すっかり自分のお気に入りジャズアルバムの仲間入りを果たした。

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