日本酒と私

現在暮らしているところは、日本でも有数、とまで言えるかはわからないけど、知る人ぞ知る酒造りの名所である。インドで暮らしていたときは、日本酒がおいそれとは手に入らなかったので、毎晩ビールやラム酒を飲みながら、日本酒の夢ばかりを見ていた。今では、毎朝の散歩ついでに近所の酒蔵に寄り、瓶詰めされたばかりの地酒を手に入れては、夜な夜な取っ替え引っ替え飲むことができる。まさに夢のような暮らしである。それでも、帰国してから何年かはお酒の味を楽しむどころではない飲み方をしていた。毎晩、まずストロングチューハイの缶を大きなコップに空けて一気に飲み干した後、量販店で買った激安の紙パック酒を同じコップについで、水のように飲んでいた。せっかく地元で美味しいお酒がいくらでも手に入るのに目もくれなかったのは、そんな飲み方をするには値段が高かったからである。

帰国からしばらく経ち、3年前に受けた健康診断で内臓脂肪過多と判定され、減量に取り組むようになってから、そんなお酒の飲み方も改めた。もう毎晩がぶ飲みをするのは楽しみというより止められない習慣になっていて、身体にも辛くなってきたし、こんなに飲む必要あるんだろうかと自分でもうっすら疑問に思っていたのだ。実際、必要はなかった。飲まなければ寝付くことができないという長年の思い込みがあったのだが、飲まずに寝てみたところ、普通に眠りに就くことができた。若い頃は不眠症気味だったけど、年を取ったらもう眠るのに苦労しなくなったのだ。もう20代、30代の続きで同じことをやっているのは間違いだったと気付いた。そんなこんなで、チューハイはやめ、お酒とも良い付き合い方ができるようになって、地元のお酒に目が向くようになった。

IMG_20201116_132432.jpg

日本酒は小さなお猪口で飲むようにしている。必ず2銘柄、タイミングによっては3銘柄用意して、少しずつ味比べを楽しみながら飲む。近所には数軒の酒蔵があって、同じ地域で同じお米を使っていても、蔵それぞれの違いがある。地酒を買うようになってから、ここのは特別に美味しいと初めて思った、今でも一押しの小さな酒蔵があって、散歩ついでに通ううちに、季節ごとに色々なお酒が造られていることが分かってきて、新しいのが出れば買って飲み比べるうちに、季節や造り方による味の違いが楽しめるようになった。きちんと醸された日本酒をじっくり味わって飲むのは本当に楽しい。今では大切な生きる喜びのひとつになっている。頻度は、がぶ飲み生活をやめてから去年ぐらいまでは2晩空けていたが、最近は1晩おきになっている。出張とそれに準ずるリモート仕事のときだけは、ストレス解消のために毎晩飲むことを自分に許している。普段、一晩に飲む量も、近ごろは徐々に増えてきた。それでも、お猪口が小さいので度外れた量を飲むことはないし、現状の体重は減量が一段落してからは微増程度でほぼ一定。また内臓脂肪過多に逆戻りする気配は今のところはない。

毎朝目覚めると、これからまた布団に戻って寝るまで過ごす一日がロッククライミングのように感じられるときがある。いや、そんなに面白そうなものではないな。むしろ、岩の上から飛び降りる感じか。そんな気持ちのときに、それでも寝る前に美味しいお酒が飲めるのだと思うと、少し気持ちが和らぐ。飛び降りた先にあるクッションのようなものだ。でも、そこに習慣的に依存してしまってはいけないので、普段は1晩おきに小さなお猪口で飲むというのが、今の自分なりのバランスである。飲まない夜というのもたしかに必要なのだ。

IMG_20191216_082208.jpg

当地では冬になると、朝の散歩に出たときに近所の酒蔵から、まっ白い水蒸気が立ち上るのが見える。蔵の近くまで行くと、蒸されたお米のいい香りがしてくる。秋に収穫された新米での酒造りが始まり、冷え切った青空に白い湯気がひときわ目立つようになるのだ。今年できたての新酒がもうすぐ飲めるのが楽しみ。日本酒は昔から好きだったけど、酒どころで暮らすようになってから何杯も、いや何倍も深く好きになった。日本一美味しい(個人の感想)お酒が造られている現場のすぐそばで暮らしている幸せ。当地を離れても、日本酒とは良い付き合いをずっと続けていきたい。

IMG_20191216_085047.jpg

タイトルとURLをコピーしました