15年ぶりにカブ乗りに

持ち物の整理を進めている。パソコン用品など、年数を経るとまったく無用になるのに無意味に取っておいてあったものを、昨日は頑張って処分した。一番厄介だったのは、十数枚残っていた25年もののフロッピーディスク。金属、プラスチック、その他可燃物(磁気ディスク、不織布)で構成されていて、一枚一枚をバラして分別するのがとても大変だった。ディスク一枚の容量は1.44メガバイト。今ではデジカメ写真一つ収まらないものに、相当な資源が使われていたものだ。そしてリサイクルのことなどまったく考えられていない。テクノロジーの世界では、25年前のものは完全に陳腐化して文字どおりの化石になるんだなあと、つくづく思った。

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25年もののフロッピーどころか、もっと年代物の大きなお荷物が家にあって、どうしたものか思案に暮れながら、自転車置き場にずっと放置していた。製造されてからもう40年近くになると思われるスーパーカブである。20年前、30歳になる少し前に中古のものをたしか6万円で買って(追記:購入時の領収書が出てきて実際は9万円だったと判明)、それから5年ぐらい乗っていた。カブを運転するのはとても楽しかったが、海外暮らしを始めることになって、日本にいない間は知人に乗ってもらうことにした。これが今から15年前のこと。海外生活は当初の予定よりもずっと長引き、カブは知人からさらに別の知人に渡り、二人ともカブをとても楽しんでくれたようだけど、帰国して自分の手元に戻ったかつての相棒は相当ボロボロになっていて、エンジンもかからない状態。自分はメカに強くないので自力での修理はとても無理。それでも耐久性の高いカブのこと、きっとカブの扱いに慣れているホンダ正規のバイク屋さんに持っていけばきっちり直してくれるだろう……と思いつつ、面倒だしお金もかかるしと、踏み切れないまま何年もそのまま放置してしまった。

そこに来て今回、遠距離引っ越しを間近に控え、とうとうカブの処遇を決めざるを得なくなった。走れないものを運ぶのにもお金がかかるのだ。それに、新居の周辺は狭い道が多くて車を出すのが面倒そうなので、カブが使えれば買い物などちょっとした用事にはきっと重宝するだろう。かつての相棒が廃棄物とならずに末永く活躍してくれるのなら、もちろんそれに越したことはない。でもこんなおんぼろカブの修理に一体いくらかかるのか。そもそも本当に直せるのか……とにかく意を決して最寄りのホンダバイク店に電話してみた。こちらの希望として、買ったときの金額である(追記:と、そのときは思っていた)6万円以内でまた走れるようになるのなら直してもらいたい、それが無理なら諦めて廃車にしたい、ということを伝えた。修理できない場合でも多少の工賃は発生するとのことだったが、自分には修理可否の判断もつかない以上、お店に任せるしかないので異存はなかった。走れない状態のカブをお店にどうやって持っていけばいいのかも心配だったが、工賃がいずれにしても発生するので無料で取りに来てくれるという。有り難い。電話したその日のうちにトラックがやってきて、ボロボロのカブは引き取られていった。20年前に出会った相棒もこれで見納めかもしれない。カブの運命やいかに。

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日本を離れる前年の夏、東京・青梅市内にて

月曜日に来てもらってから、カブの修理状況についてその週は音沙汰がなかったが、週末の土曜日、家の中を歩いていた自分が庭に目をやると、バイク屋さんとカブがいきなり現れた。修理が終わったカブを持ってきてくれたのだったが、それまで連絡も何もなかったのでびっくりした。修理代金は5万8千円。前後のタイヤもボロボロだったのでその交換に一番お金がかかったが、全体で条件の6万円以内にギリギリ収めてくれた。エンジンを掛ければ、カブと別れた15年前とまったく同じ軽快な音がする。カブの中でも一番地味な角目のビジネスカブなのだが、華麗なる復活である。嬉しい。バイク屋さんは事前の連絡なしに突然現れたので現金の持ち合わせがなく、修理代金は翌日払いに行った。お店の前には郵便配達の赤いカブが何台も並んでいた。きっと何十年も、地域で働くカブの修理やメンテナンスを日々こなしてきたバイク屋さんなのだろう。お金を払って、感謝の言葉を伝えた。

週明けにさっそく市役所で手続きをしてナンバープレートをもらい、新しいヘルメットを買って、15年ぶりのカブ乗りとなった。何度か近所を乗り回したり、買い物に使ったりしてみたが、今のところ本当に15年前とまったく同じ調子でしっかり走ってくれている。エンジンの回転にも不安定なところは一切感じられない。バイク屋さん、よくやってくれた。この15年間、カブを運転したことは一度もなかったけど、操作法は体が覚えていて、走り出したらすぐに思い出せた。クラッチレバーのないカブのシフトチェンジは独特な仕組みになっていて、左足のペダルを前後にガシャンガシャンと踏み込んでギア操作をする。シフトダウンするときの細かいコツも、走っているうちに甦ってきた。やっぱりカブは楽しい。ほぼ完全に運転を思い出せたところで、家から少し離れた高台にある、今が見頃の福寿草園に行ってみた。身軽なカブで細い坂道を軽々と登って、満開の福寿草と山々の眺めを楽しんだ。カブが復活して本当に良かったと、心から嬉しかった。

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地味ながら信頼のおける頑丈なカブという乗り物が20代の終わり頃から大好きになって、カブのような人間になりたいとすら当時は思っていた。今回も、頼りになる街のバイク屋さんがきっちりと仕事をして復活させてくれた。長年の酷使に耐えるように設計され、修理経験の豊富な技術者がどこにでもいるはずのカブだから、ボロくなってもあっさり廃車にせずにバイク屋さんに任せてみようと思ったのだ。まったく正解だった。こんなに簡単に済むのならもっと早くやればよかった。カブで走るのは自分にとてもフィットする。自転車とバイクの中間にある身軽さ。街を走れば郵便配達や蕎麦屋の出前に化けることができて、初めて訪れる街でも日常風景にすっかり融け込んでしまう。そうやって道行く人々に警戒されることなく、知らない土地の住宅街や商店街をのんびり走るのが大好きだった。春から暮らす新天地でも、古い相棒カブの力を借りて、見知らぬ街に地味に融け込んでいければと思う。

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走行距離は中古で買ったときから3万kmほど増えたけど、まだまだ4万km台。カブとの付き合いはこれからが本番、10万kmまで行こうじゃないか。

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