眠れない夜と、ローランドの悲しい目の乙女

20代半ば頃は不眠症気味で、なかなか眠りにつけないことが多く、明け方まで自部屋で起きていることもざらだった。テレビも映画も当時からほとんど観なかったし、ネットもない時代、そんな真夜中の空白の時間に自分は何をしてヒマをつぶしていたのか、今となっては謎なのだが、ネットなしで人間はヒマがつぶせないと思う方が本来ならおかしい。その頃はその頃で、音楽を聴いたり本を読んだりしてそれなりに楽しく過ごしていたはずだ。そう思うから、今も夜の時間はなるべくパソコンの電源を落としてアナログなことをして過ごすことにしている。当時、どうしても寝付けない明け方には、入眠に良さそうなこの曲をアナログでよくかけていた。


おととい80歳のお誕生日を迎えたばかり、ボブ・ディランの「ローランドの悲しい目の乙女」は、「Blonde on Blonde」の2枚組アナログ最終面の全編を占める、11分以上の大曲。ディランのざらざらとした声が、最初から最後まで大きな盛り上がりもなく淡々と響く。ハイハットもゴツゴツと鈍い響きで、時々思い出したように訪れる「My warehouse eyes…」のところ以外ではずっと一定のパターンを刻む。眠りを誘う要素が満載の、砂男みたいな曲である。アナログなら2枚目のB面をターンテーブルに載せるだけなので、CDみたいにボタンを押して選曲する必要もないし、この面は1曲だけなのでプレイヤーはそのまま放置しておけばカタッと針が上がって止まる。曲が終わった頃にうまく入眠できていたかどうか定かではないけど、そんな聴き方をしていた「ローランドの悲しい目の乙女」は、自分にとってまさに白々とした明け方のイメージ。

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若い頃と違って、現在では入眠にほとんど苦労しなくなった。代わりに、変な時間に起きてそのまま寝られなくなることがここ最近は続いている。心の疲れやストレスが溜まっているせいだろう。お酒を飲んで気晴らしをしようとしても、寝る前に飲んだ晩は眠りが浅くなり、トイレにも行きたくなって、もっと早く目が覚めてしまう。ちょっと前までこんなことなかったのに。まだ真夜中を少し過ぎたあたりに目覚め、しばらく二度寝しようと試みるものの、どうやら眠れないようだとわかると、どんどん恐ろしくなってくる。一番リラックスして休まなければならない時間に、布団の中で体がこわばって緊張してしまう。案の定、翌朝までそんな状態が続いてほとんど休めず、布団から出てからも一日ぐったりと散々な状態で過ごすことになる。おかげで最近は、寝る前に飲むことがすっかり怖くなってしまい、日本酒を飲むのを避けるようになった。ほんの数年前までは、寝る前にチューハイをがぶ飲みしても翌朝までぐっすり眠れていたなんて、とても信じられない。まだギリギリ40代だけど、年を取るってこういうことなのかと。お酒を我慢して、ここ数日はおおむね調子よく眠れている。

でも、ふざけるなよと思う。ついこないだまで、寝る前に飲む日本酒は生きる楽しみだったのに。恐怖をちらつかせて生きる楽しみを奪うなんて、人生はちょっと意地悪すぎないだろうか。今夜もまだ怖いから飲まないつもりだけど、何よりも健康が第一だけど、近いうちに必ずこの楽しみを取り返してやる。今度眠れない夜が来たら、また「ローランドの悲しい目の乙女」を流してみるのもいいかもしれない。砂男ディランのざらざら声を聴けば、真夜中の緊張もほぐれそうだ。

コーデッツの「Mr. Sandman」が1時間連続再生されるという動画。これもいいかも。

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