Elizabeth Cotten「Freight Train/Shake Sugaree」

タジ・マハールが77年に発表したアルバム「Music Fuh Ya’」、20年前ぐらいに再発CDで買って以来、何度となく繰り返し聴いて今でも日常的に聴く大好きな作品である。去年のアメリカ出張の際にアナログを手に入れることもできて、さらに身近になった。そのアルバムに入っている「Freight Train」という曲の冒頭で、タジが何かしばらく語っているところがあって、これまでずっと聞き流していたのだが、先日の夜にレコードを聴いていたらそこがいつになく耳に入ってきて、ちょっと集中して聞いてみた。


冒頭の語りの部分でタジは、この曲の作者の名前を口にして称賛の言葉を述べていた。そこで初めて、これがエリザベス・コットンというフォークブルースギタリストの曲のカバーであることを知った。調べてみると、自分が憧れ尊敬してやまない(記事も書いた)ミシシッピ・ジョン・ハートと3歳違いの1895年生まれで、60年代に彼をはじめとする同世代のブルースマンとともに「再発見」され、ジョン・ハートと一緒のフォークフェスティバルに出演したりしていたようだ。タジはこの曲をミシシッピ・ジョン・ハート奏法で弾いているのだが、オリジナルはどうなんだろうと思い、作者本人が「Fright Train」を演奏している動画を見てみた。そのギター奏法はまったく独特なもので、ちょっと衝撃を受けてしまった。

何が衝撃なのかというと、まずエリザベス・コットンは左利きギタリストなのだが、右利き用ギターを裏返してそのまま弾いている。右利き用ギターを裏返して弾く左利きギタリストならジミヘンをはじめ結構いるが、普通なら弦は左利き用に逆に張る。ところがエリザベス・コットンの弾くギターは、弦の張り方も右利き用そのままなのである。つまり、低音弦が下、高音弦が上に張られていて、ピッキングする左手は人差し指で低音弦、親指で高音弦を弾いている。押さえる右手のフォームも上下反対ということだ。ギターの弾き方という既成概念を文字どおりひっくり返す奏法。最初からこんな弾き方をしていれば慣れるのかもしれないが、自分には絶対に無理。そして、ミシシッピ・ジョン・ハートと同様、フィンガーピッキングによるアルペジオでリズムとメロディを同時に弾く演奏ぶりはとても繊細で精緻なもの。すごいギタリストである。Spotifyでほかの作品も聴いてみたら、自分が前から知っていた「Shake Sugaree」という曲も彼女の作(1967年)であることがわかった。

歌っているのはエリザベス・コットン本人ではなく、当時12歳の、何と曾孫さん。素朴な歌声で同じメロディを繰り返すのだが、胸に切々と訴えてくるものがある。上に載せた、もう90歳近かっただろう本人がかすれた声で歌う「Freight Train」を見ても、同じような気持ちになる。「Freight Train」を作ったのはまだ10代前半の頃だったらしいが、13歳で母親と一緒にメイドとして働き始め、17歳で結婚、それから何十年も経って「再発見」されるまでギターの道は生活のために諦めざるを得なかったという。ミシシッピ・ジョン・ハートも、一旦レコードデビューしたが音楽の道はすぐに諦めて、60年代までは小作人として働いていたらしい。21世紀の今になって「Black Lives Matter」で改めて叫ばれている、黒人差別の不条理。20世紀初頭のアメリカで下働きの黒人として生きることがどれだけ大変だったか、自分などは安易に想像することすらできないが、彼らの音楽から共通して感じるのは、悲しみと背中合わせの大きな慈愛で包まれるような安らぎである。その優しさは、音楽をやりたくても生活のためにできなかった、長い年月に積もった思いから湧き出している気がしてならない。まだ子供のうちからギターを独学で(上下ひっくり返して)マスターし、「Freight Train」を作曲したエリザベス・コットンも間違いなく天才少女だっただろうが、「再発見」される幸運に恵まれなければ、埋もれたまま終わっただろう。ミシシッピ・ジョン・ハートともども、こうやって現在でも手軽に聴ける音源を残してくれて本当によかった。

「Shake Sugaree」は、メアリー・ルー・ロードが歌ってエリオット・スミスがギターを弾いたカバーで知っていた。自分はメアリー・ルー・ロードのことはよく知らないのだけど、これはエリオット自作のフォーク調の弾き語り曲とかなり近いスタイルに聞こえる。オリジナルを知ってから改めて聴くと、自分にとってすごく大切なエリオット・スミスの音楽も、ルーツとしてエリザベス・コットンの影響を大きく受けていたように思えるのである。

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