エリオット・スミスのビートルズカバーで一番好きな曲

エリオット・スミスは明らかにビートルズの大ファン。公式には「Because」のカバーを残していて、とてもいい出来。ビートルズ・アンソロジー3に収録のバージョンを踏まえた美しい一人多重コーラスのアカペラから始まって、聞き惚れているうちにここぞ、というところで伴奏が入るという心憎いアレンジである。


ライブでは他にもたくさんのビートルズカバーをやっていたエリオット・スミス、解散後のソロ曲も含めて主にジョンとジョージの曲を取り上げているけど、間違いなくエリオットはジョージに一番近しい気持ちを抱いていたと思う。エリオットのライブのセットリストに入ったカバー曲の統計(setlist.fm)を見ても、アーティスト別では3位がビートルズ、4位がジョージのソロ。ビートルズの中でも「I Me Mine」「Long, Long, Long」「Something」とジョージ曲を盛んに取り上げていたので、それも合わせればジョージカバーは相当な数になる。ジョージの曲で演奏回数が一番多いのは、ダントツで「Give Me Love」のようだ。

上の動画は、ニューヨークのニッティング・ファクトリーで1999年大晦日から2000年元旦にかけて行われたニューイヤーライブの模様で、年が明けて最初に演奏された曲だという。2000年代のエリオットの音楽はジョージの「Give Me Love」から始まったのだ。最初のギターコードをちょっと弾いただけで観客から「ギブ・ミー・ラブ!」という声が上がるのが凄い。ファンが一瞬で分かってしまうほど、エリオットはよほど頻繁にこの曲を演奏していたんだろう。大切な曲だったんだろうな。

ジョージ曲のカバーにはどれも深い愛情を感じるし、彼自身のギターや音楽にもジョージの影響は色濃い。それはもう大前提として、エリオットによるビートルズのカバーの中で個人的に一番好きなものは「For No One」。珍しくポールの曲である。setlist.fmの統計によれば2回しか演奏されなかったようだけど、ライブの場でなくてもきっとこれも長年繰り返し歌ってきたんだろうと思わされる、素晴らしい歌と演奏。完全にエリオットのものになっている。この演奏は本当に好きで、疲れたときなどに聴くとしみてしみて仕方がない。これが録音された会場の雰囲気もすごくいい。エリオットの音楽活動の本拠地だったポートランドでのライブ。曲が始まる前に、観客たちとのやり取りが1分半ぐらい入っている。「誰かタバコくれない?……ライターも貸して」とリラックスした様子のエリオット。おそらくアンコールの後なんだろう。「カバーがいい?カバーじゃないほうがいい?……リアルなブリティッシュカバーと、フェイクのブリティッシュカバーだったら、どっちがいい?……(観客:ビートルズ!)ビートルズ?」という気の置けないやり取りがあって、おもむろに「For No One」を歌い始める。地元で馴染みの観客に囲まれたアットホームな空気の中、ベッドルームでよく歌っていた得意曲を引っ張り出してきたという感じ。


自分がまだコードもろくに弾けなかった十代半ばの頃、部屋にあったギターでビートルズの曲に合わせて何か弾いてみたくて、初めてどうにか弾けたのが「For No One」のベースラインだった。ド・シ・ラ・ソ・ファ……と低音弦でメジャースケールを降りていけば、この曲の出だしには合わせられるのである。その程度のことができただけでも当時は嬉しかった。エリオットによる「For No One」にも、それと似たようなビートルズへの気持ちが感じ取れて、勝手に親しみを感じてしまう。

関連記事:
「For No One」の訳詞
The Beatles「Long, Long, Long」(エリオットによるカバーについても書きました)

タイトルとURLをコピーしました