Elliott Smith「XO」

エリオット・スミスとの出会いの場は渋谷センター街にあったHMVだった。「XO」が発表された1998年当時、その店でオススメの新譜として試聴機にかけられていて、店員コメントを読みながら軽く試聴して、良さそうなので買って帰った。自部屋であらためて1曲目の「Sweet Adeline」をかけた。繊細な指弾きのギター、神経質そうな歌。抑えたトーンでしばらく曲は進み、終始こういうアコースティック弾き語りでしっとりまとめたアルバムなのかな、と思い始めたところで曲が急展開。ピアノ、ドラム、めくるめく転調を繰り返すコード進行、天から降ってくるような旋律のコーラス。バンドサウンドのまま最初のテーマに戻る。このへんでもう脳天からひっくり返るような衝撃を受けたのを今でもまざまざと思い出せる。ほかの曲もすべて美しい名曲で、紛れもない傑作中の傑作。これは後々まで愛聴する作品になると最初から確信していたし、実際そうなっている。90年代に聴きまくっていた音楽、たとえばニルヴァーナやベックを今になって頻繁に聴くことはなくなったけど、エリオット・スミスの音は今でも身近な日常の一部になっている。初めて「XO」と出会ったのが98年の秋~冬頃で、いまは2018年の冬。この記事を書き始めたときは意識していなかったが、気づかない間にちょうど20年経っていた。

新宿リキッドルームでの来日公演も観た。正確な年月は忘れたけどネットで調べると2000年12月のことらしい。エリオットひとりがステージに立ち、終始ギター弾き語りのみ。肝心のエリオットは酔っ払っていたのか何なのか、歌詞忘れまくり、ギター間違えまくり、たびたび演奏を途中で止めてしまうという、あんなボロボロなライブはほかで観たことがないというほどの演奏だった。では酷いライブでガッカリしたのかというと全然そんなことはなく、ソングライティングの美しさ、ギターの巧みさが弾き語りアレンジで際立つ曲も多くて、生身の人間が間違えたり思い出せなかったりしながら目の前で紡ぎ出していく音楽に目も耳も釘付けになった。アンコールだったかでエリオットが観客にリクエストを聞き始めて、最前列のほうにいた女子があらかじめ用意してきたらしき英語のメモを読み上げた場面もよく覚えている。演奏してほしい曲をいくつか列挙していて、そのリストの中にこの曲が入っていたのも思い出せる。


これも本当にいい曲だよね。「XO」のひとつ前、「Either/Or」に入っている。もちろんこの作品も名曲オンパレード状態で大好きだし、「XO」の次の「Figure 8」も名作。ソロデビューしてしばらくはローファイな弾き語り中心の作品を出していて、この時期からのコアなファンだったら、しっかりプロデュースされたメジャーな「XO」ってどう映ったんだろう、と思うこともある。でも彼の曲は内省的な歌詞の世界にどっぷり浸って終わりというレベルではなくて、メロディーメーカー、ソングライターとして90年代最高峰だと思うし、最初に書いたようにバンドアレンジも洗練されていて、デリケートな曲の良さを殺すどころか最高の形で引き出していると思う。自分にとってはやはり出会いの衝撃が忘れられないし、「XO」は特別なのである。

渋谷センター街のHMVも新宿リキッドルームもとっくの昔に閉店した。エリオット本人も、ずいぶん前にあまりにも早すぎる死を遂げてしまって、今も残っているのは自分の記憶と録音された音楽だけ。記憶も徐々に薄れるだろうけど、録音された音楽はヴォーカルの息づかいもギターの弦がこすれる音も克明に保存されたまま、何十年でも何万回でも繰り返し再生して楽しめる。音楽の録音技術も偉大なる発明だったと、あらためて。

IMG_20181228_004745.jpg
アナログでほしいと思わなくもないけど、CD時代に出たアルバムはCDでいいのだ、基本的に

タイトルとURLをコピーしました