Emitt Rhodes「Rainbow Ends」

エミット・ローズの命日は2020年7月19日。亡くなってからもうすぐ2年になる。このブログは当時からやっていたので、訃報を受けてすぐに記事を書いた。そこで簡単に紹介したように、2016年に何と43年ぶりの新作アルバムとして出た「Rainbow Ends」が、エミット・ローズの遺作となった。本当に長年のブランクを感じさせない現役感あふれる作品に仕上がっていて嬉しかったし、初めて聴いた当時からとても気に入っていた。元ジェリーフィッシュのジェイソン・フォークナーとロジャー・ジョセフ・マニングJr.をはじめ、ジョン・ブライオン、スザンナ・ホフス、エイミー・マンといったパワーポップ界の実力者たちがずらり勢揃いして、尊敬するエミット・ローズのサポートに回ったことが、その現役感を生み出す大きな要素だった。「Rainbow Ends」が出る前にも新曲をぽつぽつと出していて、2011年には「This Wall Between Us」「What’s A Man To Do」を含む3曲がすでにiTunesでリリースされていた。これも自分は当時購入して聴いていて、さすがエミット、相変わらずいい曲を書いてるなあと思ったけど、ロック、パワーポップというよりは、アダルトなシンガーソングライター作品という印象だった。


それが、「Rainbow Ends」で改めて新録されたバージョンの「This Wall Between Us」「What’s A Man To Do」は、2011年版のアダルトな印象からがらりと一変。特に「This Wall Between Us」の生まれ変わりようときたら。

ギター主体のアレンジに、「Abbey Road」期のビートルズを彷彿とさせる美しくみずみずしいバックコーラス。初めて聴いたときは、すでに知っている曲なのに大感激してしまった。自分が聴きたかったエミット・ローズの音楽は、まさにこれだったのだ。こういう音楽は楽曲の譜面と歌詞だけで成り立つのではなく、アレンジ、プロデュース、ミックス、そして歌い演奏する人間たちが大きな役割を果たしているのだと、当たり前のことを改めて思い知らされる。

「Rainbow Ends」を聴く際のお伴として、プロデューサーを務めたクリス・プライスが制作の一部始終を語った、下記の素晴らしいインタビュー記事を読むことを是非おすすめしたい。

【INTERVIEW】プロデューサーChris Priceが語る、Emitt Rhodes復活ストーリー(パワーポップ・アカデミー)

クリス・プライスは、自身もソロやバンドで何枚もアルバムを出しているミュージシャン。2006年、ほとんど隠居状態にあったエミットに、当時22歳かそこらのクリスが自身のファーストアルバムをプロデュースしてほしいと接触を試みるところから、エミットの復活ストーリーは始まる。このインタビューも、亡くなった後に読み直すと少し意味合いが変わってくる。クリス・プライスと出会った2006年当時から、エミットは糖尿病を患っていて、健康状態がかなり危ぶまれていたようなのだ。2か月も連絡が取れず孤独死を心配したエミットの友人から頼まれて、クリスが本人の家を直接訪れて無事を確認しに行ったのが、初めての接触になった。玄関で自作CDを手渡し、音楽の話がしたいと切り出したクリスに、じゃあそのCDを聴いてみよう、気に入ったら電話する、気に入らなければ俺からの電話はない、と答えるエミット。偏屈!それでもその場を離れて10分後にめでたく電話があったようで、そこから世代を越えた友人としての付き合いが7年以上も続く。音楽の話をしたがらなかったエミットとは、食事をしながら世間話をしていることが多かったようだけど、ある日訪れると突然前触れもなく、20枚ほどの茶封筒を前にエミットがギターを弾いていたという。ここがこの復活ストーリーのハイライトである。

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1つ1つの封筒には、エミットが長年書きためてきた曲の譜面や歌詞が収められ、デモテープが入っているものもあったという。音楽業界で辛酸をなめさせられ、音楽から長年離れていたエミット・ローズが、信頼できる若い友人にすべてを委ね、音楽人生の総決算をしようと決意したことがありありと伝わってくる、劇的なシーン。「Rainbow Ends」の制作はここから始まったのだ。だから本作を聴いていると、その茶封筒がずらりと並ぶ様子が映画の一場面のように浮かんでくる。おそらく近いうちに人生の終わりが来ることを、本人は自覚していたのだろう。ジャケットの写真も、この世からもはや消えかかっているエミットが、泣き笑いでお別れを言っているように今となっては見えてしまう。最後にして最高の作品が残されて、本当に良かった。7年もの時間をかけてエミットとの固い信頼関係を育んでいった若きクリス・プライスの功績は、計り知れない。

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そうそうたる参加ミュージシャンの貢献の中でも、アルバムのオープニング曲「Dog On A Chain」でキラキラ輝くようなギターソロを披露したジョン・ブライオンが最高に素晴らしい。録音にはエミットもクリスも立ち会わず、独自にスタジオで収録した自分のパートの音だけ送り返してきたという、今で言えばリモート参加のような状態だったらしい。まったくそんなことを意識させない、一瞬一瞬が完璧にはまった演奏。エリオット・スミスとも共同作業をしていたジョン・ブライオンの音楽が自分はとても好きなのだけど、本当に音の魔術師、天才だと思う。

結局、このアルバムが永遠に残る傑作になった理由は、エミット自身の歌と楽曲が往年のみずみずしさを失っていなかったことはもちろんとして、ビートルズのマジックを宿した音楽をたった一人でも創造できることを70年代初頭に証明してみせた、偉大なオリジネイターとしてのエミットへの敬意を制作に関わった全員が抱き続けていて、ここぞという機会に恩返しができたことだろう。このアルバムの幸福さは、ビー・ジーズへのトリビュート盤に収録の「How Can You Mend A Broken Heart」にもよく表れている。本編未収録ながら同じセッションで録音されたもののようで(リリースは「Rainbow Ends」より少し前の2015年11月)、とても雰囲気の良い好カバーなのである。


本作を残した4年後、70歳で亡くなることになるエミット・ローズの最晩年について自分は知らないけど、若い友人に囲まれて文句なしの傑作アルバムを最後に残すことができて、満足感に包まれたまま「虹の端」までたどり着いたのならいいなあと思う。

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