ジョージの「Apple Jam」について、あえて語ってみる

3月になると「All Things Must Pass」を思い出す。ジョージが打ち立てたこの巨大な金字塔を自分が初めて聴いたのは中学生の頃の春休み、3月だった。当時から現在に至るまでなぜか3月が苦手で、原因不明のどーんとふさぎ込んだ気持ちに悩まされる。本格的な春になると解消するんだけど、ちょっと今月は恐ろしい。そして自分はフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドがまた苦手で、あの深いリバーブであらゆるすき間を埋め尽くしたサウンドを聴いていると、まさに壁に取り囲まれるような閉塞感に襲われる。ただでさえ憂鬱な3月、「音の壁」全開のこのアルバムにはじめて接したとき、気分がどん底まで落ち込んでしまった思い出があって、3月の憂鬱とどうしても結び付いてしまっている。ちょっと音がクリアになった30周年記念リマスターで、このサウンドに対する苦手感がだいぶ解消されて、ようやくフラットな気持ちで聴けるようになった。2000年、ジョージ晩年の仕事が、この作品を音の壁の向こうから自分にも近づきやすいものにしてくれたのだ。

IMG_20190228_233923 (2).jpg

もちろん、上記のことはアルバム全体としての印象であって、入っている個々の曲に対する思いならいくらでも書けて、とても1つの記事に収まるものではない。ここでは全ジ連ギター弾きとして、アルバムのおまけ的存在「Apple Jam」にあえて対象を絞っていくつか書いてみたい。

まず、ジョンの30歳の誕生日を記念して録音したという「It’s Johnny’s Birthday」。この曲の元ネタはクリフ・リチャードが1968年に発表した「Congratulations」という曲だそうだ。じつは、今初めて知った。聴いてみると、たしかに「It’s Johnny’s Birthday」だ!


もうひとつ最近気づいたのは、「Plug Me In」と「Thanks For The Pepperoni」が、たぶん同じジャム演奏を2曲に分割したものだということ。「Thanks For The Pepperoni」はチャック・ベリー風のイントロから始まって、途中でぶつっと切れる。「Plug Me In」は逆に途中からいきなり始まる。この2曲、キーもテンポも同じだし、クレジットに並ぶミュージシャンの顔ぶれも同じ。もうひとつの大きな共通点は、右の方から聞こえる一番派手に弾きまくっているギター(クラプトン?)のチューニングが狂っていること。たぶん2弦のチューニングが低すぎるまま、どちらの曲でも演奏している。いったん気づいてしまうとすごく気になる。スピーカーの向こうのスタジオに行ってペグをひねってあげたくなる。アルバムでの収録順はあべこべになっているけど、おそらく「Thanks For The Pepperoni」の続きが「Plug Me In」なのだろう。まあこんなの知ってる人はとっくに知ってるんだろうけど、自分は最近はじめて気づいたもので。

聴いていて一番楽しいのは「I Remember Jeep」。メンバーはエリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカー、クラウス・フォアマン、ビリー・プレストン、ジョージ。クラプトンのギターは、ごく軽くオーバードライブさせたまろやかなトーンで聴いてて気持ちいいし、アドリブも「Apple Jam」の中ではいちばん冴えている。クラプトンがビリー・プレストンのピアノとフレーズのやり取りをする場面があったり、終盤はジョージ&ビリーでコンビを組んでクラプトンと掛け合いをしたりと、演奏中の様子を思い浮かべながら聴くと楽しいジャム。そしてその良い塩梅の演奏にスペイシーな謎のノイズをかぶせているのは、ジョージのMoogシンセだろう。何やってるのジョージ。やっぱりこの曲が一番面白い。

「ジープ」はクラプトンが当時飼っていた犬の名前で、「Layla」のシングルジャケにも登場する、と「The Beatles Bible」の記事に書いてあった。この記事、レイラの流れで、「I Remember Jeep」レコーディング当時のクラプトンはジョージの妻パティと恋仲であった、と言及した上で、「なお、ハリスンのジープへの気持ちについては明らかにされていない」とニュース記事風の落ちが付いているのがおかしい。

jeep.jpg

タイトルとURLをコピーしました