ジョージはどこに?~Bob Dylan「1970」

1970年のディランが「Self Portrait」「New Morning」のために行ったセッションの模様を収録した「1970」が、発売日からだいぶ遅れて先週末に届いた。最近よくある、著作権対策のためにとりあえず発表の事実を残すためだけの未発表作リリースだが、ジョージが参加したセッションの模様も含まれているということで、ジャケットにも「with Special Guest George Harrison」と書かれているのだから、もちろん手に入れないわけにはいかない。ジョージが参加したという5月1日の演奏を含むディスク1~2は、ゆるいリハーサルセッションが延々と続く内容だけど、くつろいだディランが気ままにギターを弾き歌う様子を聴いていると、こちらもリラックスできる感じでいい。ディスク3で制作過程が伺える「New Morning」は大好きなアルバムだし、ジョージとの競作になった「If Not For You」がさまざまな別アレンジを試しながら最終形に洗練されていく様子が聴けるのは楽しい。しかし、ライナーに書かれている参加メンバーのクレジットを参照しながら全ジ連視点で音を追っていくと、混乱に次ぐ混乱だった。

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クレジットを見ると、ジョージ・ハリスン、ギターとヴォーカル、何曲目と何曲目、という書き方がされているのだが、少なくともギターに関しては音を聴く限りジョージが演奏したようにはまったく思えない。ほかに「1970」の多くの曲でクレジットされているギタリストは、デヴィッド・ブロムバーグ。この時期のディランのアルバムにギタリストとして参加していた彼は、シンガーソングライターとしてもアルバムをたくさん出していて、ディランを介してジョージとも交流があったようだ。1972年のソロデビューアルバム「David Bromberg」に収録の「The Holdup」という曲はジョージとの共作で、スライドギターもジョージ。こうした事実を前から知っていたかのように書いているが、これは全部「1970」を聴いて「??」となって昨日調べたことだ。「1970」に収録されている、3月~6月のセッションで聴けるテレキャスターっぽいエレキギターの音は、5月1日も含めて、おそらくすべてブロムバーグが演奏したものではないか。5月1日のセッションだけは、アコギを弾くディランのほかに、ジョージの名前しかギタリストとしてクレジットされていない。それなのに、ジョージ参加とクレジットされていない曲にもエレキの演奏が入っていて、ブロムバーグが参加した3月のセッションで聴けるギターと同じ演奏者が出した音に聞こえる。

ヘッドフォンで集中して聴いたわけではないけど、アルバム全編をざっと流した時点での自分の結論としては、ジョージは「1970」でギターを弾いていない。ジョージ参加とされている曲では、ディランの歌に誰かが上のハーモニーを重ねる場面があるので、そこの歌はジョージなのかもしれないけど、それすらも100%断言できない。ジョージの声に聞こえるような、聞こえないような。「1970」のクレジットではジョージ参加となっていない「Yesterday」でも、最後の方で上のハーモニーが聞こえるけど、ジョージでないとしたらこれは誰なのか。ヴォーカルのクレジットがあるのはディランとジョージだけだが、また別の人の声なのか。もうよくわからない。


非公式動画だがサムネイルの写真が良すぎる

同じ5月1日のセッションから、だいぶ前に出た公式ブートレッグ・シリーズで「If Not For You」が公開されていて、このテイクにはジョージの演奏とされるスライドギターが入っている。「1970」に収録の同曲には、どれもスライドは入らない。このブートレッグ・シリーズ収録のテイクだけ、セッション見学中のジョージが参加してスライドギターを弾いたんだろうか。ここでの演奏ぶりはまだジョージスライドとして完成されていなくて、ジョージが弾いた感じがあまりしないとは前から思っていた。何だか、これも本当にジョージだったのか怪しくなってきたな。あと、ブートレッグ・シリーズのクレジットにも不備があって、ディランとジョージのほかに「Unknown additional guitar」が参加、となっている。この「不明」ギタリストもデヴィッド・ブロムバーグじゃないのか。要するに、この日のコロンビアスタジオのセッション記録にはブロムバーグの名前が書き落とされていたとか、そんなことだったのではないか。


そんなこんなで、全ジ連としては考えれば考えるほどゴチャマゼの混乱に陥るばかりなのだけど、今まで知らなかったジョージスライド参加曲、デヴィッド・ブロムバーグの「The Holdup」を知ることができたのは収穫だった。「1970」ではジョージがどこにいるのかよく聞き取れなかったけど、こんな風に颯爽とジョージスライドを弾いてくれていれば聞き落とすことは絶対になかっただろう。デヴィッド・ブロムバーグはドブロの名手でもあるようで、「1970」で聴ける演奏もいい感じ。1970年5月当時のジョージは、いよいよ「All Things Must Pass」のレコーディングを開始しようとしていた時期で、スライドギタリストとしてのデビューに向けて猛練習中だったはず。セッションで会ったブロムバーグの演奏も大いに参考にしたかもしれないし、もしかしたらその場でじかにブロムバーグからドブロのスライド奏法を伝授されたりしてたかも……と脳内でどんどん妄想が膨らんでいく。自分がまだ生まれてもいなかった1970年のニューヨークに頭の中がすっかり乗っ取られる。こういう現実逃避、とても大切。

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