「Imagine」の旗を掲げる

生誕80周年を先日迎えた、ビートルズ卒業後のジョン・レノンについて考えるときに「Imagine」を避けて通ることは、自分にはできない。世界平和を願っていても、この曲は受け入れられない、という人もけっこう多いかもしれない。先日も知らない誰かが書いた批判の文章を目にして思うところがあり、自分なりの意見を当ブログに載せようと思って先日ばーっと書いたのだけど、ひととおり下書きを書き終えたら消してしまった。かつては自分だって、この曲をどこか胡散臭いものと捉えていた。でもそれは自分の考えというより、既成の批判的な論調に影響されていたからだった。今の自分が考えるところを書いてみたものの、この曲の歌詞にどんな言葉が書いてあるとか、この曲を書いたジョン・レノンとオノ・ヨーコがどうだとか、あれこれ語ってもあまり意味がない感じがしてきた。中村哲医師が著書で繰り返し語っていた、平和を観念で語っても虚しい、平和は理念ではなく現実の力なのだ、ということについても思う。「Imagine」そのものについてパソコンの前でああだこうだ語っても、どうしても観念の話で終わってしまう。

行動を伴わない観念のみで平和を語っても虚しい。じゃあどんな行動ができるのか。投票ならできる。たとえ社会でどんなしがらみがあろうと、最終的に投票所で自分がこれと思う候補の名前を用紙に書いて投票箱に入れることだけは、ごく基本的な権利であって決して侵害されてはならない。「こんな時代だから」に流されず、自分なりの考えのもとで、そのつど最適と思う候補に投票することならできる。それは今までやってきたつもり。投票だけでは足りないと思えば声を上げることもできる。ネットで署名に参加したり、たまに募金をしたり、デモやその他の意思表示をしたり。誰に投票したところで、デモに参加してみたところで、自分があのとき止めたかった戦争はどうしても止められなかった。まったく無力だったけど、どうせ自分は何もできない、何もできなかったよ、で終わりたくはない。「こんな時代だから」「仕方なく」間違った人を選んで、弾に当たって死にたくはない。どんな時代であっても息子を戦場に送りたくない。ここからぶれないように、時代の波にあおられて漂流しないように、どっしりと信頼のおける錨のようにつなぎ止めてくれる何かがほしい。

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「Imagine」そのものがどんな歌なのかというより、現実にどういう人がどういう場でこの歌を語り継ぎ、歌い継いできたのかが重要なんだと思う。小学校高学年の頃、この曲の歌詞の和訳が書かれたプリントを配った担任の教師がいた。前任の教師が産休に入ったため途中から代わった担任だった。厳しくクラスをまとめる熱血タイプの前任と比べて、その先生は少し頼りない感じで生徒たちになめられがちだったが、自分のことを成績以外のところで個人的に評価する言葉をちらりとかけてくれた。そんなことをしてくれた教師は後にも先にもごく少数だったので、よく覚えている。配られたプリントに書かれた歌詞を読んだ小学生当時は、当たり前のことが書いてあるだけという気がして、特に何とも思わなかったけど、「Imagine」というとその先生のことをまず思い出す。大人になって、イラク戦争に反対するために参加した反戦デモの現場で「Imagine」が流れていた。デモには2回参加したのだが、最初に参加したものは既成政党の主催で、実際に参加してみたら反戦を訴えたい気持ちがその政党の宣伝にまんまと利用された感じになって、とても不愉快だった。その場で歌われた歌も案の定、自分が元々好きではない別の曲だった。「Imagine」が流れた方のデモは民間団体のもので、人が集まったついでに戦争と関係ない主張も宣伝してやろうなんて無神経なものではなく、最後まで真っ直ぐ反戦を訴えることができた。この曲がこの世に存在してよかった、と自分が心から思えたのはそのときが初めてだった。忌野清志郎はこの歌を独自の解釈でわかりやすい日本語にした上で、「僕らは薄着で笑っちゃう」という原曲にない素敵なパートを付け加えて歌った。ニール・ヤングもここぞというところで「Imagine」をカバーして、自分はとても心強く思った。ジョージは「All Those Years Ago」で「壁際に追い詰められても あなたはすべてをイマジンしていた」と歌ってジョンを追悼した(ついでに「Imagine」のアルバムではギタリストとして素晴らしい名演をたくさん残した)。こういうことの積み重ねが、自分の中でこの曲を信用に足るものにした。自分をつなぎ止める錨として信用できる人たちが、世界平和を願うとき掲げる旗が「Imagine」なんだ。だから自分も心の中でその旗を掲げ続けよう。旗のデザインだってまったく悪くないと思う。シンプルで美しい音楽。

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