「Let It Be」50周年記念盤を聴いて思うエトセトラ

「Let It Be」の50周年記念盤、わくわくしないと言いながらも楽しんで結構よく聴いている。5桁のお金を出してデラックス・エディションを買わなくても、ストリーミングで堂々と全編聴かせてもらえるのは実に有り難いことだ。アルバムとしての「Let It Be」に対する自分の思い入れは、「Rubber Soul」あたりをレベル100とすれば、10かそれ以下である。どうしても批判の目で見てしまうアルバムだけど、もちろんビートルズの音楽なので好きな曲、好きな瞬間はいくつもあって、今回リリースでさらに良くなった曲もある。その筆頭が1曲目の「Two Of Us」。


この2021年ミックスの何が良いのかというと、ジョンとポールのツインヴォーカルが左右に振り分けられ、二人の声をはっきり区別できるようになったところ。オリジナルミックスでも2003年の「Let It Be…Naked」ミックスでも、これまで聴けた「Two Of Us」では二人のハーモニーが真ん中で一体化していて、ジョンとポールが個々のパートをどんな風に歌っているのかあまり意識することはなかった。2021年ミックスでは二人の声が分離して聞こえるので、役割分担がよくわかるようになった。ポールは初期の頃のように、ソロのパートでは張り切りつつ、ジョンとハモるところは相手を立てるように控えめに歌っている。基本的にポールが上、ジョンが下のパートを歌うのだけど、最後の「We’re going home…」のところだけ役割が逆転して、ポールが下、ジョンが上になっていることにも初めて気が付いた。こうやってハーモニーの上下パートが交差するのはサイモン&ガーファンクルもよくやっていたし、もちろんエヴァリー・ブラザーズが共通のルーツなのだろう。この上下交差に気付けたのは嬉しい。さらに、バックでリズムを刻むリンゴのドラムが、通常のスネアやシンバルが入るエイトビートではなくタムタムをひたすらドコドコ言わせているのも、考えてみればバディ・ホリーっぽいなと思った。

エヴァリー・ブラザーズとバディ・ホリー。ビートルズのルーツにゲット・バックするというコンセプトにもぴったりだし、やっぱり「Two Of Us」っていい曲だな、と改めて。「Let It Be」、というか当初原案の「Get Back」に全編こんな曲が並んでいたら、さぞかし素敵なアルバムになっただろうと思うけど、残念ながらそうはいかず。特に、ルーツ回帰の言い出しっぺだったはずのポールの「Let It Be」と「The Long And Winding Road」は、一体どんなルーツに回帰した曲だったんだろうか。レイ・チャールズか、ゴスペルか、はたまた、いにしえのスタンダードナンバーや映画音楽?さらにさかのぼってベートーヴェン、バッハまでゲット・バック?いずれにしても、ちょっとわかりづらい。フィル・スペクターによって「The Long~」に豪勢なオーケストラとコーラスが加えられたのも、作者にしてみればとんでもない激怒案件だったのだろうけど、初めから「そういうもの」として受け取った自分には、楽曲そのものが呼び込んだ順当なアレンジとしか思えない。「Get Back」や「Let It Be…Naked」ではポールの意図した通りのシンプルなバージョンが聴けるけど、どうしても何か足りない気がしてしまうのだ。スペクターは余計な演出で曲をぶち壊したのではなく、やるべき仕事を断固としてやっただけだと思う。そもそも、ルーツに戻ってシンプルにやろうと企画された「Get Back」になぜあの2曲が出てくるのか、というのもビートルズの謎である。ポールは「Get Back」のコンセプトを立てた当人なのに、出してくる曲の方向性があんなにずれていては、プロジェクトの焦点が合わずに頓挫してしまっても無理はない。

……なんて、書き始めると文句がいくらでも出てきてしまうアルバムだけど、実は今回のデラックス・エディションに入っていたアウトテイクで自分が一番ぐっと来たのもまた、「Let It Be」だった。ディスク3のラストに入っている、最後まで丁寧に演奏されたテイク28。ビートルズの4人にビリー・プレストンを加えた編成のスタジオライブである。


ここでは、正式なテイクにかなり近い演奏をダビングなしで聴かせてくれる。こんな風にシンプルに力強く演じられると、やっぱり何か心に届くものがある曲なのだ。「Let It Be」という曲が持つ、こういう底力というか「ど根性」みたいなのが、また全然ビートルズらしくなくて自分には受け入れがたいのだけど、それでも抗うことのできない名曲パワーにねじ伏せられてしまう。今からちょうど3年前に父と見に行ったポールのライブで「Let It Be」を聴いたときにも、やはり同じ理由でぐっと来た。

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2018年10月31日、東京ドームで「Let It Be」を演奏しているところ

この曲は「Yesterday」と同じように、ポールが見た夢が元になって生まれたという。マザー・メアリーが夢枕に立ちポールに授けた「Let It Be」という音楽は、間違いなくビートルズの代表曲、一番人気の曲ではあるけど、ビートルズという枠には収まらないものだったのではないか。だから自分がこの曲を「ビートルズの音楽」として好きになることは、今後もないと思う。

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