訳詞:Jay-Jay Johanson「Finally」

去年の記事で紹介したフランス公営ラジオ局「FIP」のネットストリーミング、今でも日常的によく聴いている。そこで先日流れて、ぐっと耳を惹きつけられた曲があった。すかさず楽曲情報を調べてみると、スウェーデン人のシンガー、ジェイ・ジェイ・ヨハンソンが歌う、「Finally」という先月出たばかりの新曲。90年代後半から活動しているシンガーソングライターだそうで、ヨーロッパのお洒落なポップスに詳しい人ならきっとよく知っているのだろうけど、そちらの方面に疎すぎる自分は今までまったく知らなかったアーティストである。


この馴染みのないジャンルの音楽の何が自分の耳をそんなに強く引いたのかというと、歌の背後に流れるもの悲しいストリングスのメロディに、子供時代からかなり聞き覚えがあったのだ。色々なクラシック曲をポップなインストにアレンジした演奏を特集したカセットに入っていて、実家でよく流れていた。だから旋律そのものはよく耳になじんでいるのだけど、誰の作曲した何という曲なのかが分からない。この機会にそのメロディの出自をはっきりさせたくなり、その「Finally」という曲の情報を検索してみたら、どうやらブラームスの交響曲が元になっているらしいことは分かったものの、交響曲何番の第何楽章なのかまでは突き止められず。うーん、とさらにしばらく考えていたら、この同じメロディに歌詞を付けた大貫妙子の曲があったことが、記憶の片隅からうっすらと浮かび上がってきた。ああ、大貫妙子、ブラームス……これで具体的な曲情報が探し出せた。大貫妙子の曲は「昨日、今日、明日」で、原曲はブラームスの交響曲第3番の第3楽章。これに歌詞を付けて歌ったものは「昨日、今日、明日」のほかにも何曲かあるようで、フランク・シナトラ、イヴ・モンタン、ジェーン・バーキンと有名どころがこぞって取り上げていることが分かった。聴いてみたところ、どれもブラームスの旋律をそのまま各自の芸風で完全に消化していて、イヴ・モンタン版なんてまるで「枯葉」みたいな純然たるシャンソンに聞こえる。

一方、ジェイ・ジェイ・ヨハンソンの「Finally」の場合、歌のメロディはまったくのオリジナルである。ブラームスの旋律は背景で優美なストリングスによって奏でられ、歌に対するカウンターメロディの役割を果たしているのが、とても自分好み。さらに、歌詞の世界にも妙に心に引っかかるものがあって、歌を聴き終えた後に歌詞を改めて読んでみたりした。夜通し盛り上がったパーティーが終わった朝、乱雑なままの部屋に二人きり残されたカップル(最初は年季を重ねた夫婦を想像したけど、もしかすると一緒に暮らし始めたばかりなのかも)の虚脱感と、白々した明け方の情景。再び始まる二人の静かな日常に対する恐れみたいなものが、自分には不穏な印象としてぞわぞわと残る。聞こえたままの口調で訳してみたら、えらく昭和歌謡っぽい女言葉の訳詞になったけど、これはまあこれでいいことにする。

やっと二人きりになれたわね
お客さんはみんな帰っていった
パーティーは最高だったけど
私たちの部屋はめちゃくちゃ
明日 私が片付けるわ

やっとゆっくりできるわね
私の膝枕で休みなさいよ
あなたは素晴らしいホストだったわ
そう みんなに一番愛されていた
ショーの主役はあなただった

もうせかせかしなくていいのよ あなた
ようやくできた私たちの時間 何にも邪魔させない
ええ 絶対に

やっと二人きりになれたわね
お客さんはみんな帰っていった
あなた あくびなんてしてる
もう朝になってしまったのね
街が起き出す音が聞こえる

やっとあなたと私だけになれたのよ
お茶でも一杯いかが
あちこちにお皿が散らかっているし
割れたグラスもあるから気をつけて
昨晩のことはきっと一生の思い出になるわ

やっとね、あなた……まずは何をしようかしら
窓を開けて朝の空気を入れましょうか
ねえ、あなたってば

やっと二人きりになれたわね
お客さんはみんな帰っていった
ボトルは全部空っぽになったし
煙草も切らしてしまったわ
あ、猫たちにご飯をあげないとね

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