Martin Newell「The Greatest Living Englishman」

先日ここで紹介したコーナー・ラファーズの最新作「Temescal Telegraph」に入っている「Goodguy Sun」がとても良くて、この曲を提供したマーティン・ニューウェルの存在を知り、XTCのアンディ・パートリッジがプロデュースしたという1993年作のソロアルバム「The Greatest Living Englishman」にたどり着いた。まずSpotifyで聴こうとしたが本作は見つからず、AmazonでCDを購入。新品で入手できた盤は2000年にCherry Redから再発されたもの。とにかく「Goodguy Sun」のメロディにやられてしまった自分は、これは絶対に素晴らしいはず、と試聴もしないで注文した。実際、素晴らしかった。買って良かった。


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おそらく、80年代からXTCの新作を熱心に追いかけていたような人なら持っている作品なんだろう。ネット検索で引っかかる本作のレビューなどを見ると「当時、マーティン・ニューウェルとは何者なのか全然知らなかったが、アンディのプロデュースだから買った」というXTCファンがほとんど。自分もXTCファンではあるけど、かなり遅れて出会ったので93年当時は本作のことを知るよしもなかった。90年代の自分は、XTCにつきものの「ひねくれポップ」という形容に偏見を持っていて、聴かず嫌い状態だった。90年代の終わりに出た「Apple Venus Volume 1」はリアルタイムで気に入り、過去作もちゃんと聴いてみようと「Black Sea」に接して、びっくりしてしまったのだ。1曲目「Respectable Street」のイントロ、鋭利なギターのカッティングから、どヘヴィなドラムとベースが切り込んでくる瞬間の衝撃。ひねくれポップどころか、ずっしり重たい手応えのあるストレート剛速球ロックではないか。こんなに凄いバンドだったとは、と自らの無知と偏見を恥じて一気にファンになったが、間もなく当のXTCは「Wasp Star」を最後に活動を休止してしまった。「The Greatest Living Englishman」は、「Nonsuch」から「Apple Venus Vol.1」まで7年空いてしまったブランクの間に出た作品ということになる。


本作でのアンディはプロデュースに演奏に大活躍。ほとんどの曲でドラムを叩き、3曲目「We’ll Build A House」ではギターソロも披露。2曲目「Before The Hurricane」のストリングスアレンジもアンディによるもので、たしかに後期XTCの世界。

では、本作は単にマーティンがコリンの代わりを務めたXTCなのかというと、そんなことはなくて、マーティン独特のローファイな持ち味はしっかりと生かされている。あえて音を綺麗に整理せず、カセットリリースにこだわったマーティンの過去作の手触りに寄せている感じがする。マーティン・ニューウェルが1990年にCleaners From Venusとして出した「Number Thirteen」というアルバムは、元々はデモとして制作されたもので、アンディと一緒にアルバムを作ることになったとき、ここから数曲をアンディに送ったらしい。そんな経緯があって、「Number Thirteen」には本作収録曲のCleaners From Venusバージョンがいくつか入っている。


両バージョンを聞き比べてみると、アンディの味付けなしでも、「Number Thirteen」時点で楽曲の世界は揺るぎなく成立している。天然サイケなマーティンの個性は魅力的で、「The Greatest Living Englishman」ではアンディが濃厚な英国色を加えてマーティンの世界を盛り立てている。並みのミュージシャンがアンディと組んだら完全独裁体制を敷かれてしまいそうだが、この二人はがっちり対等なパートナー関係を組んで作品を作り上げた様子が感じ取れる。マーティンとアンディはともに1953年生まれで同い年。二人の知名度の差は桁違いだっただろうが、かなり同じような道を通ってきたように見受けられるし、互いに馬が合ったのかもしれない。

自分は「ひねくれポップ」に偏見を持っていたと書いたが、自分がどっぷりと浸かっていた90年代の気分であって、この説明がちょっと面倒だし、今あえて書き連ねる必要も感じないので割愛する。いずれにしても、過去のこと。「The Greatest Living Englishman」は、タイトル通りの純英国産ひねくれポップ。ここまで存分に本気でひねくれてくれれば納得である。ひねくれが究極まで純度を高めると逆にストレート剛速球になることを自分はXTCの「Black Sea」で思い知ったし、マーティンとアンディががっちり噛み合った本作に込められた熱量も、心にまっすぐ届くもの。コーナー・ラファーズのおかげで、また大好きなアーティストが一人増えた。

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