「ビートルズは眠らない」を読んで2002年ポール来日公演を思い出す

自分がポールの来日公演を観たのは、2002年が初めてだった。1990年、1993年とすでに2回も機会があったのに、どちらもスルーしている。90年時点では自分はまだ高校生で、チケット代がどこから出てくるのかということもあったけど、それ以前にリアルタイムのポールにあまり関心がなかった。90年というのは80年代の続きであって、80年代の自分は同時代のものにほとんど馴染むことができなかった。ポールですら自分にはダメだった。ジョージの「Cloud Nine」とトラヴェリング・ウィルベリーズは、そんな中で本当に貴重な例外だったのだ。あの時点でのポールの最新作「Flowers In The Dirt」(1989年)はビートルズ色が強めで、まあまあ気に入っていたけど、音がまだ80年代っぽいデジタル感でキラキラしすぎ、アレンジは隅々まで手堅くカッチリまとめすぎ、その割につまらない曲もあるしと、全面的に支持とまでは行かなかった。ポールの新作が自分にカチッとはまるようになったのは、ビートルズ・アンソロジーを経てジェフ・リンを共同プロデューサーに迎えた「Flaming Pie」(1997年)からである。一方、1993年の自分は、まだ現役だったニルヴァーナの動向にひたすら釘付けで、ビートルズ自体から一番気持ちが離れていた時期。93年11月といえば「In Utero」が出た直後で、ポール公演のことはまったく眼中になかった。当時の最新作「Off The Ground」も聴いてなかったし。そんなわけで93年も躊躇なくスルー。どちらも、自分に行く気がなかったのだから、行かなかったことは後悔していない。


2002年にようやく初めて体験することになったポールのライブは、本当に素晴らしかった。60歳になってそろそろ声の衰えが指摘され始めていたポールだったけど、1曲目の「Hello Goodbye」でポールの声がガーンと出てきた瞬間、何もかも吹っ飛んでしまったことをよく覚えている。60歳のポール、衰えなどどこにも感じなかった。「Michelle」までやってくれたセットリストも最高だったし、若いメンバーを起用したバンドの音も90年代よりずっと好きだった。自分の人生でも指折りの素晴らしい体験だった。

ただ、当時のポールに自分は一つだけ納得できなかったことがあった。前年の9月に起きたニューヨーク同時多発テロを受けて発表された「Freedom」のことだった。ポールはまさにその時その場にいて、テロの犠牲となった人々、傷ついた人々を励ますために「Freedom」を発表した。それは分かるのだけど、あのテロを受けて盲目的に戦争に突っ走ったアメリカの動きには自分は本当に失望したし、フリーダムという言葉自体が、その「アメリカの戦争」の象徴と化してしまったのだ。アフガニスタン戦争に同調しなかったフランスがアメリカ大衆のブーイングを受け、「フレンチ」フライを「フリーダム」フライに改名する店が現れる、なんてしょうもないニュースもあった。来日公演で、あの曲だけは演奏してほしくなかった。もし演奏されたら、会場の自分は何らかの形で抗議の意志を表すつもりだった。総立ちで盛り上がる会場をよそに黙って着席するか、もしかしたら退席していたかもしれない。でも、当日のポールは「Freedom」を演奏しなかったので、ポール来日初体験の思い出に傷が付くことはなかった。よかった。

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松村雄策さんの訃報を受けて、あたふたと注文した著書「ビートルズは眠らない」が先日届いた。さっそく読んでいたら、その2002年ポール来日公演の話が最後の方に載っていた。松村さんも当時、「Freedom」には納得していなかったことをそこで初めて知った。ポールは「天然」であるという話から、「アメリカのアフガニスタン攻撃を見れば、どちらが権力かは一目で分かるはずだ」「『イマジン』と『フリーダム』の間には、とんでもない落差がある」と書かれている。ただ、ポールは権力に日和ったわけではなく、あとのことは考えていなかったのだろう、と話は続いている。自分も同じ思いだった。そしてライブで演奏さえしなければ「Freedom」のことは忘れよう、と思っていた。当時、あの曲に納得できずに、コンサートの場で抗議しようとしていたポールファンがどれだけいたのか、自分はまったく知らない。自分一人でも、抗議するつもりだった。でも、松村さんも、あの曲がもし演奏されたら「黙って席を立つしかないだろう」と書いている。当日の公演会場では、セットリストから「Freedom」を飛ばして次の曲に行ったときに「やったぞ、『フリーダム』飛ばしたぞ!」と隣の山崎洋一郎に叫んだそうだ。あのとき、自分と同じ考えの人が少なくとも一人いた、それが松村さんだったと知ることができたのは、とても嬉しい。

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