戦争どころではない~中村哲医師の「天、共に在り」を読んで

中村哲医師の自伝、「天、共に在り」がNHK出版から無事届き、二晩で一気に読んだ。最初と最後に書かれている文章が、自分の胸に直接すとんすとんと落ちてきて刺さる。これは、当ブログで感想だのレビューだの軽々しく書けるようなものではない。今の段になって慌ててこの本を取り寄せて読んだ間抜けな自分にできるのは、一読して感想を書いて忘れてしまうのではなく、折に触れて何度でも読み、この本に書かれている言葉を心の奥底に刻み、自分の書くこと、言うこと、選ぶこと、することに少しでも反映させることができるように、と願うことのみ。

でもひとつだけ書いておかねばならない。この本が訴えていた一番大きなことは、戦争やテロよりも気候変動が引き起こす問題の深刻さだった。アフガニスタンといえば紛争のことばかりが思い浮かぶが、書かれていた内容の大部分は、地球温暖化の影響でアフガニスタンに今なお起こっている大干ばつに対する戦いの記録。山国のアフガニスタンでは、山脈にかつては万年雪が豊富にあって貯水の役割を果たしていたが、気温上昇でどんどん解けてしまい、干ばつと洪水の両方を引き起こしているという。アフガニスタンは環境問題によって今にも壊れようとしていて、もはや戦争などしている場合ではないと訴えている。気候変動が日本でも身近に実感されるようになったのは近年のことだけど、アフガニスタンでは2000年代初頭からすでに深刻な影響が発生していて、干ばつという形で大きく被災していた。ニュースでこちらに伝わってくる戦争と「復興」の陰で、そんなことが起きていたとは、自分は今まで知らなかった。このことだけは当ブログにも書き記しておく。

自分は中村医師のこともペシャワール会のこともちゃんと認識せず、無知のままここまで来てしまったが、この自伝に書かれていた、911テロ直後の2001年10月に中村医師が国会に参考人招致され、発言した内容は、当時ニュースで接していて今でも記憶にあった。自衛隊をアフガニスタンに派遣することは有害無益だ、という発言である。アフガニスタンに対する報復爆撃は、現地から見れば事実上の無差別攻撃だったという。そんな中、自衛隊が派遣されたら当地での対日感情が一気に悪化し、自分たちの活動が危険にさらされるから、派遣はやめてほしい、それより飢餓状態の解消が最優先だ、という訴え。軍事力より、パンと水。不戦の憲法を掲げる日本から来た民間人として、アフガニスタンを救うため懸命に誠実に貢献してきたから、中村医師とペシャワール会は人々の信頼を得て安全に活動ができていた。軍服を着た軍隊(に見えるもの)が日本から派遣されたら、すべてが台無しになってしまう。その場でこんな発言は期待されていなかったようで、議会は騒然とし、嘲笑と罵声を浴び、発言の取り消しを迫られたという。当時、このようなリアルな現地からの声はこちらに届いてこなくて、とても知りたかったので、この発言はよく覚えている。

自分は自衛隊の存在そのものを否定しない。国内で大きな災害が毎年のように起こるようになってしまい、被災地の救援になくてはならない存在であることはよく認識しているつもりだ。現場で人の命を救う活動をしている組織をどうして否定できようか。たまに路上で軍用車然とした自衛隊の車両に出くわすとぎょっとしてしまうが、現行憲法の枠内で存在している限り、自分は何も言わない。でも、自衛隊が国外に活動範囲を広げて積極的に進出していくのには賛成しない。もちろん改憲にも反対。このように考える確かな拠り所として、2001年に現地からの切実な声を強力に届けてくださった中村医師の発言、アフガニスタンの現場で必死に奮闘された実体験に基づいた声が、当時から自分の中に根付いていたことにいま気がついた。活動中に銃撃という形で亡くなり、大きく報道されるまで中村医師とペシャワール会の活動を知らなかったことを、自分は痛恨事としてずっと心に刻む。どうか、安らかにお休みください。私たちが生きる世界を、共に在る天から見守っていてください。

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