中村哲医師が渋谷陽一に語った6万字

2021年8月、米軍撤退と同時にタリバンが電撃的に政権を奪還したことで、再び世界的な話題になったアフガニスタン情勢。もし中村哲医師が今もご存命なら、この状況について何と言っただろうか、と思った人も多かっただろう。自分も改めて著書を読み直したりした。そんな中で、中村医師のインタビュー記事9回分、6万字に及ぶ内容を無料公開しているサイトがあったことを最近のニュース記事で初めて知り、すべての記事を読んだ。

中村 哲が14年に渡り雑誌『SIGHT』に語った6万字

自分にとってちょっと意外だったことに、インタビュアーは渋谷陽一なのである。「SIGHT」とは、渋谷陽一の責任編集でロッキング・オン社から不定期刊行されている総合誌。自分はあまり本屋に行かないので、この雑誌のこともよく知らなかった。渋谷陽一は中村医師に2002年という早い時点から注目して、たびたびインタビューを行っていた。中村医師が不慮の死を遂げた後、「いまたくさんの人に読まれるべきものだ」という思いで全記事の無料公開に至ったとのこと。

2010年に行われた8回目のインタビュー記事「ついに、農業用水路が開通!なぜ医師はアフガニスタンに用水路をつくったのか」を読むと、ブルース・スプリングスティーンの名前が出てくる。アフガニスタンの砂漠に用水路を開く困難な大工事を進めていた当時、困難にぶつかっても前を見据え、作業にあたる現地人民を集めて檄を飛ばす中村医師の姿をDVDで見た渋谷陽一は、ブルース・スプリングスティーンみたいだ、かっこいい!と思ったのだそうだ。

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中村医師も、そんな突拍子もなくロックスターの名前を出されて当惑するでもなく、わりとまんざらでもなさそうな様子。何となく、この二人は馬が合ったのではないか、と思う。もっとふさわしそうな作家との対談なども読んだけど、渋谷陽一とのインタビューは読んでいて面白いし、内容も充実していると思う。聞き手の渋谷陽一は、アフガニスタンのことを的確、冷静に理解していて、日本人的な先入観や偏見にイライラさせられるようなことがない。なにかと毀誉褒貶の多い人だけど、これはとても良い仕事。全編無料で読めるようにしてくれて有り難い。

報道で知る限り、タリバンのやっていることを肯定する気には到底なれない面が多々あるのはもちろんだけど、「残虐非道のテロリスト集団」という一般的な認識が一面的に過ぎるということは、一連のインタビュー記事に載っている中村医師の発言をざっと読むだけでもすぐに理解できる。自分はインドで暮らしていたことがあり、国の人口の9割以上が貧しい農民層で占められていて、農村での暮らしは国際的に報道される都市部とは別世界である、というアフガニスタンと共通しそうな状況をこの目で垣間見てきた。米国とタリバンのどちらが「正義」なのか、度重なる中央のゴタゴタに翻弄されて食うや食わずの暮らしを強いられている農村の人々にとっては、本当にどうでもいいことだろうと想像できる。中村哲医師が生前繰り返し語っていたように、アフガニスタンを苦しめている本当の問題は戦争でもテロでも原理主義でもなく、地球温暖化による環境破壊なのだ。もちろんアフガニスタンだけの問題ではない。世界諸国がいくら自分たちの国を必死に守ろうとしたって、地球が壊れてしまえばすべてご破算。ならばどういう道に進めばいいのか、中村哲医師の生き方を見ていると、本当に正しい答えを遺された方だといつも思う。

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