Neil Young「Carnegie Hall 1970」

先日リリースされたばかりのニール・ヤングのアコースティック弾き語りライブ盤「Carnegie Hall 1970」、2枚組のCDを購入した。最初はSpotifyで聴き始めたのだけど、数曲聴いたところで「いやいや、やはりこれは買わねば」と再生を止めてしまい、即注文。CDが届いてから改めて楽しんでいる。特にライナーノーツなどは付いておらず、簡素な体裁のジャケに2枚のCDが入っているだけだったけど、後悔はしていない。末永く大切なものになると直感できる作品は「ブツ」として手元に置いておきたいし、パソコンにも取り込んで音楽フォルダに20年以上溜め続けている音源の仲間入りをさせたい。今のところ、ストリーミングとの付き合い方はそんな感じ。

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近年になって、過去のライブでの名演、未発表作品、その他諸々を収録したアルバムをこれでもかとリリースしてくれているニール・ヤング、本当に拝聴するのが追いつかないほどだけど、このアルバムは「オフィシャル・ブートレグ・シリーズ」としての第1弾なのだという。たしかにdiscogsを検索すればそっくり同じジャケットの海賊盤が載っている(Neil Young – Carnegie Hall 1970)。1974年にFlat Recordsというレーベルからリリースされた、いかにも当時のアナログブートという体裁のものだ。

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もちろん同じなのはジャケの体裁だけで、この「本物」のブート盤は観客席からの録音らしいし、公演日も違う。今回のオフィシャル・ブートレグCDには、ニール本人が気に入っている日の演奏が、これ以上ないほど素晴らしい音質の正式録音で収録されている。音質、ニール・ヤングの場合はこの作品に限ったことではないけど、本当に素晴らしいのだ。特にギターの音色が弦を張り替えたばかりのようにキラキラしていて、耳元で弾いてくれているかのよう。Spotifyで初めて聴いたときは、このギターサウンドに魅了されてしまった。別にハイレゾとかでなくても、ストリーミング音源で十二分にわかる音の良さである。


もう一つ、このライブが特別なのは、やはり会場の雰囲気だろう。観客の盛り上がりも素晴らしいけど、カーネギー・ホールは何といっても世界有数の音楽の殿堂。有名な冗談として、カーネギー・ホールの近くで通行人にホールへの行き方を尋ねられたピアニストが、「(そこまでたどり着くには)練習、練習、また練習です」と答えた、という話を何度か見かけたことがあるけど、音楽家にとってはそれほどの場所なのだ。そんな音楽の殿堂オーラが、このライブを聴いていると空気ごと伝わってくる感じがする。特に、ピアノで演奏されるバッファロー・スプリングフィールド時代の「Expecting To Fly」。

バッファロー・スプリングフィールドでは、深いリバーブとストリングスアレンジで幻想的に表現されていたこの曲を、この時期のニールは弾き語りで切々と歌う。ギターでもピアノでもやっているけど、今回はピアノ。サビ終わりの「Babe…」の後に、ピアノがメジャー7thコードをバーン!と叩き付けて少し間を置くアレンジはほかの公演でも同じだけど、カーネギー・ホール公演ではそのピアノの響きが小さなクラブとは全然違う。ホール全体にとどろき渡る「バーーン!」という音響に、はっと目を覚まさせられるような感覚を受けてしまった。このライブはちゃんとCDを買わなければ、とそのとき思ったのだ。たった一人で、この会場全体を震わせていたニール・ヤング。ああ、これを生で体験していたら自分は一体どんなことになっていたか。聴き始めるときにカーネギー・ホールという会場のことは特に意識していなかったけど、やはり音楽の殿堂、特別なホールなんだな、と音を聴いて納得した。

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2曲目の「Cinnamon Girl」も凄い。この曲のギター弾き語りバージョンを聴くのは、自分は今回が初めてだった。オリジナルよりぐっとテンポを落としたアコースティックアレンジ、ものすごく格好いい。先に書いたギターのリアルな録音の良さもあって、聴き惚れてしまう。


この公演が行われた1970年12月のニール・ヤングは、「After The Gold Rush」をリリースした後、「Harvest」の制作に入ろうという一つの絶頂期にあって、同時期の弾き語りライブ盤も「Live at the Cellar Door(1970年11~12月)」「Live at Massey Hall(1971年1月)」「Young Shakespeare(1971年1月)」とすでに何枚も公式に発表されている。この当時のニールがギターを鳴らして口を開けば、いつでもどこでも名演があふれ出てきて仕方なかったのではないかと思えるぐらい、どれも素晴らしい。そんなニールがギター抱えてたった一人で音楽の殿堂と対峙したカーネギー・ホール公演、もしかすると飛ぶ鳥落とす絶好調期とはいえ少し上がっていたのだろうか、演奏をとちったり歌を間違えたりしている場面もいくつかある。そこはやはり「オフィシャル・ブートレグ」ということで、ミスもありのまま聴かせるコンセプトなのだろうか。全体的な完成度でいえば、この時期のニールの決定版ライブは間違いなく「Live at Massey Hall 1971」だと思う。あれは自分が死ぬまで愛し続ける名演中の名演だけど、「Carnegie Hall 1970」を包む雰囲気は、ここにしかない特別なもの。アコースティックギターが美しく録音されているのも、ギターの音を愛してやまない自分にはたまらない。こちらのライブも今後ずっと大切に聴き続けるだろう。

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