オープンCチューニングの魔力:Elliott Smith「Ballad of Big Nothing」ほか

ギターのオープンチューニングとは、6本の弦をまったく押さえず開放で弾いても何らかのコードが鳴るようにチューニングすること。スライドギターのときに使うことが多いけど、ブルースやフォークではオープンチューニングのまま弦を押さえて演奏することがある。もちろん、通常のチューニングとは押さえ方が変わるので、慣れないと混乱する。オープンチューニングが使われた曲は、耳コピも非常に難しくなる。エリオット・スミスの「Ballad of Big Nothing」は、ぜひ弾けるようになりたいと長年憧れてきた曲だけど、やはり通常と違うチューニングが使われているようで、ずっと歯が立たなかった。先日、とうとう自力での耳コピを諦めて、ネットの力に頼った。Googleで何でも検索できてしまう時代、その気になればたいてい解決法はすぐそこにあるのだが、意地になって検索しないことが自分は多々ある。自力で解決できた方が楽しいし身に付くからだけど、今回は安易なネット検索の誘惑に負けた。でも、意地を張るのをやめたおかげで長年の謎が解決。この曲は、オープンCチューニングだったのだ。

上記は、フェンダーのサイトに載っていたオープンCのチューニング表。通常のチューニングだと一番低い音はE(ピアノのミ)なのだが、オープンCではC(ド)である。2音も低い。しかし実は、「Ballad of Big Nothing」のチューニングはこれとも違う。一般的なオープンC(CGCGCE)ではなく、オープンEを2音ずつ下げた、CGCEGCという並びのチューニングだったのだ。こんなに下げると、全体に弦がゆるゆるになって、音に深みが出る。全弦開放でCのコードをぐわーんと鳴らすと、低音の深い響きに何とも落ち着く感じがする。Cというコードは、やはり基本中の基本、縦にまっすぐの姿勢、というイメージがある。ピアノの白鍵で弾くド・ミ・ソの和音、これがC。子供の頃から、学校の式典なんかで「気をつけ、礼」をやるときはピアノでC→G→Cのコードが鳴らされるので、Cは「気をつけ」の響き、という刷り込みがなされているのかもしれない。とにかく、Cはまっすぐ一直線のイメージなのである(ついでに言えば、「Imagine」も「Let It Be」もピアノのCで始まる)。


ギターで「Ballad of Big Nothing」を弾くのは本当に楽しい。オープンCの響きの魔力もあって、いつまでもやめられなくなる。一本のギターで弾くと、優しい陰りのあるコード使いにとてもジョージを感じる。エリオットとジョージの音楽には共通点がかなりあるのだ。ギターで再現すると非常によくわかる。自分はエリオット・スミスの歌詞をあまり深く読み込んだりはしていない。やはりギターと声とハーモニーに耳が行く。ギターで追いかけてみると、美しいハーモニーがあちこちにちりばめられ、びっくりするほど繊細に作り込まれている。マイナーコードの使い方とか、微妙なバランスで明暗を行き来しながら、全体の印象はとても優しいところがすごくジョージなのだ。隅々まで行き届いた完璧な並びのコード進行をたどり終え、最後に全弦開放でCのコードをがーんと鳴らすと、何もない地平線の向こうまでまっすぐ一本の道が続く映像が脳内に浮かんでくる。やりたいことはいつでも何でもやればいい、誰も君を止めはしない、結局なんの意味もないだろうけどね、大いなる虚無なんだ、というこの歌の世界が、自分の中ではこんな映像で見えてくるのである。ほんとに名曲。

ついでに、このチューニングでほかの曲も弾くことができた。まず、ベックの「He’s A Mighty Good Leader」。これも「Ballad of Big Nothing」と同じチューニングで弾けるのだ。


この曲のギターはチューニングがかなり甘い。ゆるく張られた低音弦を強く弾くので弦がびびりまくり。そして初期ベック独特の歌い方。この時期のベックにしか出せなかったこの味、すべてが愛おしい。さらに、「He’s A Mighty Good Leader」からミシシッピ・ジョン・ハートの「Pay Day」にもすぐに連想がつながった。ベックに大きな影響を与え、おかげで自分も知ることになった偉大なるフォークブルースギターの達人。やっぱり、ほぼ同じチューニング(半音高いオープンC#かもしれない)。

色々と弾けるようになって非常に嬉しい。この変則オープンCチューニングの低音の魔力にすっかり取りつかれてしまい、しばらくギターのチューニングはCGCEGCのままになりそう。

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