やっぱりラジオが好き~フランスの公共ネットラジオ「FIP」の素晴らしさ

昨年の暮れに当ブログに載せた記事の通り、自分はSpotifyの有料メンバーを昨年限りで退会した。公開プレイリストは残しておきたいからアカウントは消さないけど、現在は無料でもSpotifyのストリーミングは利用していない。ほかの音楽配信サービスに乗り換えることもせず、持っていない曲で聴きたいものがあればYoutubeでちょこちょこと聴くだけ。Youtubeにも、Spotifyを模したインターフェースでアルバムを検索してストリーミングで聴ける機能はあるけど、広告を差し込まれることは避けられない。結局、本当にちゃんと聴きたい音楽は新品であれ中古であれCDを入手して、ブックレットを手に取り、ライナーを読みながら楽しむ(ただ、CDライナーは文字が小さすぎるので今の自分には老眼鏡必須)。BGM用途としては手持ちのMP3音源をシャッフルで再生するか、ネットラジオを流すかしている。音楽配信の時代にCDを買ったりラジオを聴いたり、SNSやチャットの時代に一方通行の長文ブログをガリガリと書いていたりと、あえて時代に逆行するひねくれ者気取りに見えるかもしれないけど、そのつど自分に合った、一番気分良くやれるストレスフリーな選択肢を模索しているだけである。今はネットラジオを聴いているのがとても楽しい。

ネットラジオはインターネットの普及初期からあった。接続時間を気にせずにネットにつなげるようになった2000年代初め頃からは、自分もときどき聴いて楽しんでいた。その当時からあって今でも健在なネットラジオ局の一つが「Radio Paradise」(2000年開局)で、2022年現在も20年前とまったく同じ調子で放送を続けているので驚いてしまう。曲を紹介するDJも同じ声、創立者のBill Goldsmith氏その人。1970年代からラジオDJひとすじで活動してきたらしく、今の年齢は少なく見積もっても70歳あたりだろう。20年前には日常的に聴いていて、当時知らなかった音楽を色々と教えてもらって、かなりお世話になった。自分は完全にラジオで育った人間なので、ネット時代になってもやはり結局はラジオに引き寄せられるようだ。


「Radio Paradise」は幅広いジャンルの選曲が楽しめて、それ自体は良いのだけど特に東洋系の音楽のチョイスはちょっと手薄な感じも否めず、英米ロック系の選曲センスとの落差に思わずカクッとなってしまうところがある。もっと安心して幅広い音楽が楽しめるラジオはないだろうか、と音楽配信の利用をやめてからはずっと世界中のネットラジオ局を試しまくっていた。20年前とは違って、全世界のネットラジオをまとめて検索できるアプリも用意され、本当に星の数ほどのネットラジオ局がずらずらとリストに上がってくる。さまざまなジャンルに特化したラジオを聴くのも非常に面白くて、特にビートルズ専門局60年代フレンチポップス専門局は一時期かなり楽しんだ。

しかし、自分のように日々の自宅仕事のBGMとして朝から晩まで流していると、ジャンル特化型のネットラジオ局はたいてい毎日同じプレイリストを繰り返していることがわかってくる。一日に同じ曲が何度もかかることもよくあって、そうするとどうしても飽きてくるのだ。同じコマーシャルを繰り返し聞かされたり、有料ラジオ局の無料版ではたびたび課金のお願いが流れたりと、ウンザリさせられることも多く、ストレスなしに毎日付き合えるネットラジオ局探しはなかなか難しい。やっぱり無料では限界があるのか、でもラジオにお金を払うぐらいなら配信に戻るよなあ、とネットラジオから少し離れかけていた夏の初め頃に、ようやく決定版のラジオ局を掘り出すことができた。「FIP」という、フランスで運営されているネットラジオである。

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FIPにはチャンネルがいくつかあって、あらゆるジャンルの音楽をミックスしたメインチャンネルのほかに、ロック、ジャズ、ポップ、ワールド、レゲエ、といったジャンル別のチャンネルもある。とにかく、どこを選んでもびしっと一本筋の通った選曲が最高なのだ。コマーシャルが一切入らず、しゃべりも最小限(しかも耳に心地よいフランス語)、文字どおり古今東西の音楽がとめどなく流れてきて、どれも良い曲ばかり、という理想的な状態なのである。たとえば、自分が一番よく知っているロックの選曲で言えば、キンクスの2作目「Kinda Kinks」からの曲がかかったり、ジェフ・リンのデビューしたバンド、アイドル・レースのアルバム曲(どの曲だったかは失念)がかかったり、たまにビートルズがかかったと思えば「Blackbird」のイーシャー・デモ版だったり(たった今、これを書いているときに流れた)と、的確すぎるほど自分のツボを突いてくる。



これだけでも十分に嬉しいのに、FIPの本領はそんなものではない。ロックの選曲ぶりでもわかるように、メインストリームのキラキラした曲がかかることはまずなくて、耳に気持ちよい、かといって無難すぎることもない、絶妙のチョイスが楽しめるのだ。ご当地のフレンチポップスはもちろん、自分が全然知らないごく最近の英米インディー系、クラシック、アラブやアフリカのポップス、レゲエ、ジャズ、クラブ系と、ありとあらゆる方向性の音楽が入ってきて、おっ、これは、と耳に引っかかるものがかなりある。ネットラジオだから、気になる音楽があれば公式サイトに行けば誰の何という曲かすぐにわかる。自分ひとりの狭い見聞ではまずたどり着けなさそうな未知の良質な音楽を教えてもらえるのは、本当に有り難いことだ。まさにこういうのを求めていた。

昨日かかって、ちょっといいなと思った曲。フランスのインディーバンドが2012年に出した曲らしいが、詳細不明。
例によってWikipediaでFIPの詳細を調べてみると、フランス国営の公共放送「Radio France」の一部門だとわかった。設立当初の名称は「France Inter Paris」、つまりフランス国民の税金で運営されている、パリ発の音楽専門ラジオ局。公共放送だからコマーシャルが不要なわけだ。1971年設立で、50年以上の歴史があるという。Twitter創設者のジャック・ドーシー氏もFIPのリスナーの一人で、世界最高のラジオ局だと称賛するほどのファンらしい。だから、たぶんその筋では有名なラジオ局なのだろうけど、自分は知らずにたまたま探り当てたもの。出会えて良かった。「ジャンルやスタイルを越境しつつ、曲と曲のつながりの良さを重視する」というポリシーのもとで選曲が行われていて、1年間に16,000組のアーティストによる44,000曲が放送され、48時間以内に同じ曲が2回かからないようにしているとのこと。これなら毎日聴いていても飽きないわけだ。リスナーの献金が頼りの個人運営ネットラジオ局では、いくら運営者のセンスが良くても、ここまで分厚い選曲は難しいだろう。この素晴らしい公共ラジオ局と、それを税金で支えているフランスの人々に、心からのメルシーボクーを伝えたい。やっぱり自分は、ラジオが好き。

上はさっきFIPで聴いたばかりの「Something」のジプシージャズ式カバー。素敵!ジャンゴ・ラインハルトのギターが大好きだったというジョージが聴いたら、喜んだのではないだろうか。プレイリストを少し掘ってみれば、ほかにもジョージがちらほら顔を見せている。

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