Ray Bryant「Alone At Montreux」

レイ・ブライアントは昔から大好きなジャズピアニスト。力強いゴスペルやブルース、端正なクラシック、感傷的なポップス、能天気にかっ飛ばすブギ、幅広い要素が絶妙のバランスで共存しているのが良い。肩肘張らず気楽に聴けて、日常生活のお伴として軽く流せるけど、中身のない音楽では決してなくて、その証拠に自分は20年以上彼のピアノを聴き続けているけど全然飽きない。いつ聴いても好きだなあと思う。

天才や鬼才の部類ではなく地道な活動を50年代から続けていたレイ・ブライアントが、一躍ドラマチックに脚光を浴びた場面がある。1972年モントルー・ジャズ・フェスティバルでのソロ演奏。オスカー・ピーターソンが演奏する予定がドタキャンになり、急遽レイ・ブライアントに代役が回ってきたのだ。大物中の大物オスカー・ピーターソンに比べれば明らかに地味で、格下扱いだっただろう彼が、勇気をふるってこの大舞台に立ち向かい、大成功を収めた。この模様を収録したライブ盤が「Alone At Montreux」。素晴らしい演奏ぶりに徐々にボルテージが上がっていく聴衆の歓声もアルバムにしっかり収録されている。音楽を聴くのにストーリーは不要だけど、このアルバムは別。ライナーを読みながら、この大一番の演奏に臨むレイ・ブライアントの心境、意外な代役の名演ぶりにどよめく聴衆を想像しながら聴いた方が絶対に盛り上がる。72年は自分が生まれた年なのでまったくリアルタイムで接したわけではないけど、ほかのアルバムに十分親しんで彼のファンになった後にこの一世一代の名演奏に出会い、とても嬉しくなったのを覚えている。

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聴衆をノックアウトした10本の指を誇らしげに示すLPジャケット。ハンドパワーです

このアルバムはレイ・ブライアントの多面的な魅力がバランス良く入っていて、彼の音楽のショウケースとして楽しめる。出だしの強力なゴスペル調の「Gotta Travel On」でまずガツーンと来るし、「Greensleeves」「Until It’s Time For You To Go」は一転して緊張感のある静かな美しさに胸を打たれる。ルーズなピアノブルースも数曲やっているし、ラストのアンコールはクラシックとブギの融合が楽しい「Leibestraum Boogie」(「愛の夢」ブギ)で盛り上げて締める。自分がレイ・ブライアントの演奏を聴いて最初に惹かれた部分は、クラシカルな端正さだった。そこに甘すぎず下世話すぎない適度な情緒が混ざっていて、ビタースウィート、ハッピーサッドな感じ。ロックでもジャズでもこういうのが一番好き。

レイ・ブライアントは自作曲にも名曲が多いほか、ポップス曲を見事にアレンジして自分のものにしてしまうのがとても上手い。「Gotta Travel On」も、原曲は1959年にアメリカでヒットしたポップなカントリー。ディランも「Self Portrait」でカバーしている。


フィニアス・ニューボーンJr.が1969年に録音した「Harlem Blues」はレイ・ブライアントの「Gotta Travel On」とよく似ている。レイ・ブライアントが「Gotta Travel On」をトリオジャズアレンジで録音してリリースしたのはこれより前の1966年で、これを下敷きに高速テンポで演奏したのが「Harlem Blues」ではないかと思う。人なつっこいレイ・ブライアントとは方向性が違う切れ味鋭い演奏、これもまた格好いい。

最後に、Youtubeで当ライブの映像版が見つかったので載せる。映像で見られるとは今まで知らなかった。アルバムでは最後を飾る「Leibestraum Boogie」の後、またアンコール(36:45~)で出てきて、キャロル・キングの「It’s Too Late」をやっている。LPのライナーノーツに、この曲を演奏したという記述はあったけど、アルバム未収録だった。これが映像付きで実際に聴けるなんて!

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見るからにいいひとそうである

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