園芸の原点と、梅からもらったトウガラシ

数年前まで、自分が庭で一番大切に育てていた植物はトウガラシだった。トウガラシとの付き合いはインド時代にさかのぼる。ムンバイで暮らしていた8年前のある日、お世話になっていたPさんという方がくださった赤い乾燥トウガラシが、その発端。その中に入っている種を蒔けばトウガラシが育つのだと教わり、春先に適当な鉢に蒔いてみたら本当に芽が出た。ぐんぐん育ち始め、しばらく成長を見守っていると、2~3か月して線香花火の玉のような可愛いつぼみができた。

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白い花もたくさん咲いたけど、初めの頃はなかなかトウガラシができるまでに至らず。当時はマンションの上の階に住んでいたので、授粉をやってくれる蜂が来ないのがいけないのかなと、花と花をくっつけて人工授粉を試みたら、ようやく最初の実りができた。採れたての青唐辛子をかじると、ほんのひとかけで最高にビリビリくる辛さ。小さな鉢では窮屈そうなので別の鉢に植え替えてみたりと、元気に育つように日々様子を見つつお世話をした。その甲斐あってか、激辛の青トウガラシがたくさん生産されるようになった。

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秋になると真っ赤に色づいて、その鮮やかな美しさにもまた惚れ惚れした。

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こんな風に、マンションの窓から突き出た小さな柵の上で自家製トウガラシの栽培にやみつきになっていったのが、園芸にはまる原点だったのだなあと改めて思い出す。帰国してもこの続きをやりたいと、インドからそのトウガラシの種を持ち帰って、旧居の庭で育てていた。でもやはりインドと日本の寒冷地では気候が違いすぎて、ちょっと無理があった。日本でも収穫まで育てることはできたけど、インドの強烈な陽光を浴びて育ったトウガラシのような鮮烈な辛さはもう味わえなかった。発芽時期も遅くて、収穫できるまで育つ頃にはもう秋の声が聞こえていたり。やっぱりインドのものはインドで育てるに限ると、近年はトウガラシとは疎遠になってしまっていた。

そんな寒冷地から温暖な土地に引っ越した今年、もう一度トウガラシをやってみようかなと、春に種蒔きをしてみた。インド時代のトウガラシから始まって、旧居の庭で何世代か育てた末裔の種である。でも、もう発芽しなかった。数年のブランクが空いた種は生命力を失ってしまったようだ。元々、種取りをしても発芽率は良くなく、芽が出る時期も遅かった。8年前、インドでPさんからもらったトウガラシは、気候の違う異国で生きながらえることはできなかったのだ。仕方ない。インドの続きはもはやここまでとあきらめて、これとは別に持っている2種類のトウガラシの種を36マスの連結ポットに半々ずつ蒔いてみた。最後にダメ元で念のためやってみただけだったが、2種類とも続々発芽。

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半分は、何年か前にアメリカ出張の際にインド食材屋で買った、乾燥トウガラシから取った種。つまり、これもインド原産のもの。そんな輸入食材のトウガラシからでも発芽させて育てることができるのである。もう半分は、凍りつく寒さの2018年1月、いつもの散歩中に拾った真っ赤なトウガラシの種。これは、あの懐かしい定点観測の梅の下に落ちていたのである。下の写真は、その日にその場で撮ったもの。

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もう3年半も前に拾ったものなのだけど、今さら蒔いてこんなによく芽が出てくるとは思わなかった。当時、こんなところにトウガラシが落ちているなんて、これは何か梅からのメッセージなのだろうか、と思ったりしたものだった。そのとき梅の定点観測は1年目を終えたところで、シーズンサイクルをひととおり見届けてきた梅の木に深い親しみを覚えていた。トウガラシをあきらめかけたこのタイミングで、あの木の下で拾ったトウガラシから芽が出てこんな風に再会できたのは、やはり何らかの計らいとしか思えない。植物を相手にしていると、こんな風に不思議なことがたまに起きる。だいぶ遅くなったけど、梅からもらったメッセージ、大切に育てよう。

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今年の3月末、現在のところ最後の定点観測

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