ハーモニーの天才、デヴィッド・クロスビー

ジェフ・ベック、高橋幸宏、そして今度はデヴィッド・クロスビー。1週間ちょっとの間に、十代の頃から自分のど真ん中にある音楽を作った人たちが、立て続けに3人も行ってしまった。ビートルズがデビューした年から60年が過ぎたのだから、当時20歳だった若者は80歳になるわけで、それはもう当然の時の流れなのだけど、ちょっと待って、もう少し待ってくれ!と叫びたくもなる。今日はまたしても、なかなか仕事が手に付かない状態になってしまった。これでは生活がままならない。もうこれからは、この年代のロックミュージシャンの訃報にもっと耐性を付けなければならないのだろう。デヴィッド・クロスビー、安らかに。


自分はクロスビー個人のファンとはあまり言えないのだけど、クロスビーが在籍していた時代のバーズが大好きだった。高校生の頃、ベスト盤「The Byrds Greatest Hits」でバーズの音楽に出会って、これはもしかしてビートルズより良いんじゃないか、と思ったほど熱を上げていた。クロスビーがバーズを抜けるか抜けないかの頃に発表された、60年代にありがちな形のコンパクトなグレーテスト・ヒッツである。クロスビーが全面的に参加していたバーズのアルバムは「Mr. Tambourine Man」から「Younger Than Yesterday」までの4枚。次の「The Notorious Byrd Brothers(名うてのバード兄弟)」では、クロスビーは制作中に脱退してしまい、関与は半分ぐらい。自分にとっては、文句なしに好きなバーズの作品は初期4枚で、「名うての~」は初期作の半分ぐらい好き。それ以降となると、もう別のバンド。つまり、自分にとってのバーズはデヴィッド・クロスビーがいてこそ輝くバンドだった。クロスビー脱退後のバーズも、最近になってSpotifyで聴いてみて、優れた作品を残していたことは分かったけど(ただ、名盤の誉れ高い「ロデオの恋人」だけは今でも自分にはまったく入ってこない)、何はともあれ初期4枚は別格中の別格なのである。もちろん、続いてクロスビーが参加したCS&N、CSN&Yも大好きだけど、それと比べてもやっぱり特別。どうしてこんなにクロスビー期のバーズが別格なんだろう、と最近また改めて考えていたところだった。

光り輝くビートルズがロック界をぐいぐい引っ張っていた、1965~67年という時代。ジーン・クラーク、ロジャー・マッギン、デヴィッド・クロスビーと、オリジナルメンバーのバーズには優れたソングライターが3人も揃っていた。マッギンのリッケンバッカー12弦のキラキラした音色は、あの時期にこそ抗しがたい魅力を放っていた。でもそれ以上に自分の耳にアピールしていたのは、クロスビーの澄んだ高音のハーモニーだったんだ、とようやく最近になって気付いた。声が綺麗なだけでなく、音の選び方に特異なセンスを発揮していた。バーズの3声ハーモニーにおけるクロスビーの役割について、具体的に解説してくれている論評を自分は今まで見かけた記憶がないのだけど、おそらくバーズでは一番高いパートをクロスビーが受け持っていて、主旋律に対するテンションの付け方が本当に格好良かった。一番分かりやすいのはやはり「Eight Miles High」だろう。


この曲にはサビがなくて、同じメロディを繰り返す構成になっているのだけど、ハーモニーの付け方が場面ごとに違う。歌い出しの「Eight miles high」では上のハーモニーが主旋律と一緒に上昇するのに対し、次の繰り返し、「Signs in the street」のところでは主旋律と対立する形で下降する。ほかにも、あちこちで変幻自在に主旋律と付いたり離れたりする高音パートが絶妙の緊張感を生んでいて、本当にクール。高音のハーモニーが印象的な曲といえば、「I Knew I’d Want You」も絶対に忘れられない。

ミドルエイトの終わり、「When you say hello–ow–ow–」のところをこんなに綺麗に歌えるのは、ポールかクロスビーぐらいしかいないのではないか、と思えるほど。最後の最後で、マイナーからメジャーにふわっと転調するエンディングのハーモニーには胸が締め付けられる。ここまで自分のツボを深く的確に突いてくる曲はなかなかない。グラハム・ナッシュと組むときは、あの素晴らしく張りのあるハイトーンが出せるナッシュに上を任せて中音域に回るけど、自分はクロスビーの高いハーモニーが本当に好き。「ハーモニーヴォーカリスト」という役割があるのならば、クロスビーはその第一人者である。ふくよかな中音から澄んだ高音まで変幻自在だし、色々な声を巧みに使い分ける能力を持っているのも、先ほど初めて聴いたデモ音源からよく分かった。

1967年の「Lady Friend」のデモ。ここでのクロスビーの声は、ほとんどロジャー・マッギンが歌っているようにしか聞こえない。こんな風にも歌えたのか、という発見があった。オープンCチューニングと思われるギターの演奏も格好いい。紛れもなく、天才である。2021年に出たばかりのソロ新作もリリース当時に興味を持ってSpotifyで聴いてみて、掛け値なしのクオリティの高さと、これが本当に80歳の声なのか、という瑞々しさにびっくりしたところだった。まだまだ素晴らしい新作を現在進行形で生み出せたのに、本当に残念だ。この人の凄さは、まだまだこれからもっと知らなければならない。

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