教授まで行ってしまった

今年はユキヒロさんの訃報に始まり、それをきっかけに自分の中でYMOの見直しが進み始めたところで鮎川誠が亡くなり、とうとう坂本龍一。子供時代からこれまであまりにも当たり前に存在していた、自分の世界を形作る基本中の基本だった人たちが次から次へとこの世を去って行く。50歳になった途端、実生活でもついに代替わりの時期に来たことをひしひしと感じさせられるばかり。ここまでずっと自分を取り囲んできた馴染みの世界があちこちから崩れだして、むき出しの青天井になっていく感覚。寂しい、としか言いようがない。

とはいえ、教授の音楽や人物について、自分のごく浅い知識で今ここに何かを書いていいとは到底思えないので、前の音楽記事で触れた「YMOライブ」のエアチェックテープについて少し書く。父がラジオから録音したものを小学生時代に繰り返し聴いていて、完全に子供時代の日常の一コマと化していたカセットなのだけど、公演日などの詳細をちゃんと調べたことはなかった。今となってはもう聴くことのできないそのカセット、音の記憶だけを頼りにネットを探ってみれば、やはりあるところにはあった。1980年10月のロンドン、ハマースミス・オデオン公演の音源が、記憶と完全に一致したのだ。


上のYouTube音源で聴ける演奏は、全編が細部までそのまま記憶に残っていた。元はイギリスのBBCで放送されたライブ番組で、この音源が日本のラジオで全編そのまま放送されたようだ。冒頭でYMOの紹介をするBBCアナウンサー、ブライアン・マシューの語りもよく覚えている。動画コメントを見て、あっそうか!と思ったのだが、マシュー氏は初期ビートルズが活躍していた時代からBBCにいて、ビートルズの「Live at the BBC」には同氏によるメンバーへのインタビューが収録されている。言われてみれば確かに同じ声。さらにこのBBCライブを紹介する日本の女性ナレーターの言葉も少し覚えていて、ロンドンでの公演はとにかく熱かった、「あの細野さんが踊った」ほどだった、と表現していたのがはっきりと記憶にある。あのホソノさんが踊った。何だかよく分からないけど、すごいことなんだなと、子供心に印象づけられたのだった。前の記事でも紹介した、細野晴臣年代記の1980年10月16日の項によれば、やはりハマースミス・オデオン公演はYMOにとって記念碑的な出来事だったようで、楽屋にはそうそうたる英国アーティスト陣が駆けつけ(XTCのアンディ・パートリッジもいたらしい!)、高橋幸宏は「一生忘れられないほどのにぎやかさだった」と証言している。改めて聴き直して、そのラジオのナレーターが言っていた通り、本当に全編どこまでも熱くて、勢いにあふれた素晴らしい演奏だった。どれもこれも名演だらけのセットリストだけど、特に「在広東少年」ではユキヒロさんのドラムが「Drums and Wires」~「Black Sea」期のXTCみたいで、切れ味が半端ではない。矢野顕子、大村憲司を含むライブバンドとしてのYMOってXTCだったのか、ユキヒロさんはテリー・チェンバースだったのか!という発見があった。

ただ、このハマースミス・オデオン公演のセットリスト以外にも、あの「YMOライブ」のカセットには何曲か別の曲が入っていた。「The End of Asia」とか、絶対に入っていたはずだよな……と、さらに探ってみると、YouTubeのコメントなどから、このライブ音源はNHK-FMで1981年1月15日に放送されたものらしいと分かった。同じ日には1980年12月25日の武道館公演も一緒に流されたようで、その音源も聴いてみた。


ああ、これだこれ!冒頭2曲「Riot in Lagos」と「The End of Asia」については、はっきりとした記憶がある。「The End of Asia」はユキヒロさんのスネアがリムショットで終始カンカン鳴っている独特のアレンジになっていて、一発で聞き分けられた。ほかの曲については、記憶にない演奏もけっこうある。おそらく父が録音したテープの収録時間が足りなかったのだろう。YMOがビートルズの「愛こそはすべて」をカバーしていたなんて、これを聴いて初めて知った。それにしてもこの冒頭2曲のクールなこと。異常なほど格好いい。どちらも元々は教授のソロアルバムで発表されたもので、こうやってYMOに吸収されてしまったことに教授本人はきっと複雑な気持ちだったに違いない。でも、おかげで小学生時代の自分にこの2つの名曲が届いて、一生消えない記憶として残っているのである。「The End of Asia」の中間部、転調してからの9小節の展開がとても美しい。ハーモニーの構造はかなり複雑なのにあくまで滑らかに流れて親しみやすく、小学生にも抵抗なく受け入れることができた。あの10歳前後の時期に出会ったすべてが、自分に決定的な影響を与えている。まだ何も知らないうちにこれに出会えて、自分の血肉として刻み込めたことは、とても幸運な体験だった。


作詞・高橋幸宏、作曲・坂本龍一。「FLASHBACK(回想)」は本当に大好きな曲で、ユキヒロさんの訃報があった1月に当ブログに貼ったばかり。2023年、まだ冬が春になっただけなのに、こんなに早く、また違った寂しい気持ちでこの曲を思い出すことになるなんて。何度も思ってしまうが、まったく何という年だ。ユキヒロさん70歳、教授71歳。細野さんには本当に長生きしてほしい。坂本龍一さん、教授、安らかに。美しい音楽をありがとうございました。

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