ロイ・オービソンの優しい凄み:The All-Time Greatest Hits of Roy Orbison

最近、ロイ・オービソンをよく聴いている。高校生だった80年代末頃、当時「デビュー」したトラヴェリング・ウィルベリーズの一員としてロイの歌声に出会い、「The All-Time Greatest Hits」という20曲入りのベスト盤を図書館で借りてカセットにダビングしたものを、ウォークマンで繰り返し聴いていた。元々は1972年に出ていた2枚組LPのベスト盤が、1989年に1枚のCDにまとめて再発されていて、自分が図書館で借りたのはそのCD。ロイ・オービソンが急逝したのは1988年12月のことで、このCD再発に最初から追悼の意味合いがあったかどうか自分は知らないけど、結果的にはそうなってしまった。自分にとってのロイ・オービソンは、このベスト盤の20曲と、ジェフ・リンほかのプロデュースで1989年に出た遺作「Mystery Girl」、そしてウィルベリーズの一員として「Volume One」で聴ける歌声がすべて。もちろん50年代から長いキャリアを積んできた大御所中の大御所で、たくさんの作品を残しているけど、自分が知っているのはその中のごくごく一部。今は配信で何でも聴けるようになって、オリジナルアルバムもベスト盤も選びたい放題だけど、結局やはり自分が本当に聴きたいのは、ウィルベリーズがリアルタイムだった高校生の頃に出会った曲群という結論になる。ベスト盤「The All-Time Greatest Hits」はSpotifyになかったので、再現したプレイリストを自作してしまった。

作った後で気付いたけど、同じベスト盤のプレイリストはSpotifyにすでに複数存在していた。でも、既存のプレイリストには後年の再演ものが入っていたり、モノラルミックスが混ざっていたり(自分の記憶では全曲ステレオ)と、細かいけど自分には気になる点があるので、自作した甲斐はあったと思う。

このベスト盤にはロイ・オービソンが60年代前半に放ったヒット曲が並ぶ。「だんだんだん・だんびどぅわー」とか「しゃららー・どぅびわー」とか、いかにもアメリカン・ポップスなスタイルのコーラスが入るアレンジが多くて、十代の頃から60年代の音楽が大好きだった自分から見ても、ぱっと聴いた印象ではちょっと「前時代的」に感じられる。それが、ひとたびロイの歌声が入ると雰囲気が一変してしまう。孤独や心の痛みを歌いながら、弱さや情けなさを見せびらかすのではなく、凜々しく毅然とした姿勢を決して崩さない声。だからこそ、アレンジの古さなどを超越して自分の心の奥まで届いてきて、ずっと大切に聴き続けている。


ロイ・オービソンの個々の曲について色々と書きたいことがあるのだけど、キリがなくなって1つの記事にはまとめられそうにないので、ここでは1曲だけ。「Blue Angel」は最近聴き直して、改めて凄いと思った。

前述のように、「しゃららー」コーラスで始まるアレンジ自体はいわゆるオールディーズ然としたものだけど、ロイの歌声で空気は一変。特に、曲の一番盛り上がる部分、「I’ll love till the end of ti-i-me」から一旦ブレイクして、「Don’t yoooou…」とファルセットの最高音を張り上げるところ。ここはいつ聴いても鳥肌が立ってしまう。この曲の歌声には、孤独な悲しみを知る人間の優しさとともに、底知れない凄みを感じる。そして、その後に続く「I’ll never let you do-ow-ow-ow-own」の部分の歌い回し、ここがすごくジェフ・リンっぽいことに先日初めて気付いて、さらに好きになってしまった。

ウィルベリーズの「バンド仲間」だったジェフ・リン、「Running Scared」をカバーしたり、明らかにロイ・オービソンに捧げた曲があったりと、音楽面で絶大な影響を受けていることはもちろん前からよく知っていたけど、明示的なトリビュートでなくても、深いところでロイ・オービソンの歌声がジェフ・リンの中に息づいていることがはっきりとわかって、何だか嬉しくなった。この二人の関係については、これからもっと詳しく掘り下げていきたいし、いずれはここに記事が書けたらいいなと思っている。

「The All-Time Greatest Hits」を聴いていると、昭和が終わりを迎えて平成が始まったばかりの80年代末、渋谷や恵比寿の街を下校後の夕暮れにひとり歩きながら、ウォークマンで聴いていたときの風景が必ず脳裏に浮かんでくる。あのあたりは通っていた高校から数駅のところで、レコード屋や図書館に行くためによく歩いていたのだ。いわゆるバブル時代まっただ中、外を歩くときは必ずウォークマンで何かを聴いていて、イヤフォンの外にあった東京の世間には全然なじめなかった。それでも、あの時代に生きていてよかったと思えるのは、ジョージとウィルベリーズのおかげ。当ブログで何度も書いているとおり、ジョージが華々しく「セット・オン・ユー」の復活大ヒットを放ったり、まったくのサプライズでトラヴェリング・ウィルベリーズが登場したりと、あのへんの一連の出来事に80年代末にリアルタイムで立ち会えたのは、自分にとって非常に大きなことである。ロイ・オービソンは、本当にウィルベリーズとともに目の前に登場した途端に亡くなってしまった。その歌声が心に沁みてきた頃には残念ながらこの世にはいなかったのだけど、いつまでも自分の中心で大切な位置を占めている。

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