Simon & Garfunkel「The Boxer」

S&Gの「The Boxer」について最近はよく考えている。こういうあまりにも広く知られている曲は、出会う前からすでに脳内にすり込まれていて、出会いの衝撃のようなものはまったく記憶になく、あらかじめ「こういうもの」として何となく当たり前に受け入れてしまっている。そうやって「こういうもの」で片付けていた音楽も、年を取り、聴いた回数を重ねれば重ねるほど、じわじわと理解できてくることがある。たとえば、生まれた頃から当たり前に一緒にいた両親に、成長してから「人間」としてあらためて出会うようなものかもしれない。

「ボディーブローのように効いてくる」という使い古されすぎた言い回しがあるけど、あのサビの「ライラライ、ばーーん!」という衝撃音を聴くたびに、まさに一撃ずつパンチを食らっている感じがしてくるようになった。ボクサーの歌とはいえ、相手を打ち負かしてやるぞという勇ましい内容ではない。ひたすら打たれ続けるばかりの歌。「ライラライ」とひたすら繰り返されるコーラスについて、自分は最初は何となく子守歌のようなイメージで聞いていた。ノックアウトされ、リングで眠るボクサーが夢に見る子守歌。ボクシングの歌にしては情けない感じだけど、S&Gの優しい曲調からそんな印象を受けたのだろう。しかし英語で「Lie-la-lie」、つまり「嘘、嘘、嘘」という意味に解釈できると知ると、だいぶ印象が変わった。ポール・サイモン本人の発言では、単にその部分の歌詞が思いつかなかったから、穴埋めにライラライと入れただけらしい。聴き手のほうが「嘘」という意味に解釈して曲にパワーとエモーションを与えた、それはそれでいいんだ、とも。自分も、音楽は世に出た時点で作曲者の手を離れ、それぞれの聴き手とじかに関係を結ぶのが最良の形だと思っているから、それでいいと思う。

IMG_20191214_100027.jpg
父が持っていた唯一のロックのレコード。牧範之氏(当時のCBSソニーでS&Gを担当していた方のペンネームらしい)による解説も含めて甚大な影響を受けた。これも父のレコード棚から勝手に持ち出して我が物にした(事後承諾済み)。裏ジャケのくつろぐS&Gの写真、好き。

「ライラライ」コーラスのところは、イントロから続くカントリー調の長閑な雰囲気からマイナーに転調、嘘、嘘、嘘、が血の雨のように降りしきる中、ばーん!ばーん!と大音響を立ててボクサーが打たれ続ける。そんな情景を思い浮かべると、つらい気持ちになって涙すらにじんでくる。エンディング近くではこのシーンがオーケストラも加わって大音量で延々と繰り返される。つらい。しかし、そのままフェードアウトするのでなく、またもとの長閑な調子に戻って終わるところが、とてもいい。打たれるときはめちゃくちゃに打たれ続け、「もう出て行ってやる!」と叫びながらどうにか踏みとどまり、たまには7番街のくだりみたいに孤独を慰められたりしながら、基本的には呑気にやっていくのだろう、そんな感じがする終わり方なのだ。最後の歌詞が近ごろは脳内をぐるぐるしているので、ここだけ訳してみた。

開拓地に立つひとりのボクサー 闘士は彼の職業
自分を叩きのめしたグローブの記憶は
一撃一撃すべて記念に持ち歩いている
怒りと屈辱にまみれながら
「もうたくさんだ、出て行ってやる」
と叫び声を上げるまで切りつけられる
それでもまだ闘士は踏みとどまっている

この曲にはライブでだけ歌われる一節がある。スタジオ版では省かれ、代わりにスチールギターみたいな不思議な音色の間奏が入るところ。踏みとどまりながら生き延びてきたボクサーが、過去を振り返るような内容。この歌詞が入ると、この曲の主人公は都会に出てきたばかりの若者ではなく、少し年を取っていることになって、全体の印象がだいぶ変わる。年を取った自分が読むとこれもまた味わい深いので、この「失われた4番」も訳してみた(英詞の引用元はWikipedia)。

Now the years are rolling by me—
They are rockin’ evenly.
I am older than I once was,
And younger than I’ll be.
That’s not unusual;
No, it isn’t strange:
After changes upon changes
We are more or less the same;
After changes we are more or less the same.

年月は過ぎ去っていき
転げたり揺れ動いたりしてきた
前と比べれば年を取ったけど
未来の僕よりは若い
これは当たり前のことだよね
何もおかしなことじゃない
変化に次ぐ変化を経ても
僕らはだいたい同じ
何度変わっても本質は同じなのさ

「前よりは年を取ったけど未来の僕よりは若い」と、ごく当たり前のことを歌っているのは、もしかするとディランの「My Back Pages」の有名な一節、「あの頃の僕はずいぶん年を取っていた、今はもっと若い」の逆手を取ったんだろうか(そういえばディランは「The Boxer」をカバーしていた)。たしかにここは、なくてもいい部分なのかもしれないけど、失われて埋もれるのも惜しい。年を取った自分の実感にかなり近いところもある。中身は10代の頃とあまり変わってないのに、年月ばかりがあっという間に過ぎ去って数字の大きさにしょっちゅう驚く。いつまでも若い心を持ち続けているとか、死ぬまで青春とか、そういうことではない。青春などなかったし、心身ともに確実に年は取っている。でもやはり変わっていない。

最後に、Me First and the Gimme Gimmesによるカバーを載せる。NOFXのファット・マイクほか、Fat Wreck Chordsレーベル所属のベテランパンクバンドのメンバー、さらにフー・ファイターズのメンバーも加わった副業バンドで、オリジナル曲は一切なし、クラシックなロックやポップスのパンクカバーを専門としている。ヒットしすぎて手垢が付きまくった名曲群をいかにパンクアレンジに落とし込むかに命を懸けている彼らが、自分は大好きである。ヴォーカルにしっかりと歌心があってぐっと来るし、随所に突っ込んでくるコーラスもとてもいい。「The Boxer」の良さに自分がはじめて気付いたのも、実はこのカバーからだったかもしれない。

タイトルとURLをコピーしました