「Somewhere In England」は40周年~Sat Singing

前回記事に書いたように、ジョージの「All Things Must Pass」50周年記念盤は相当バラエティに富んだ賑やかなリリースになりそうで、その前ぶれとして公開された「Run Of The Mill」の未発表バージョンが凄かったおかげで、ここ数日はこの曲のエレクトリックな未発表バージョンと公式バージョンが交互に脳内でぐるぐる回っている。ジョージが繰り返し「Everyone has choice…」と頭の中で歌い始めるので、この一節が頭に焼き付いてしまった。


もしかして、数ある収録曲からこのタイミングで「Run Of The Mill」を公開したのは、この歌い出しの歌詞のためだったのではないか、と要らない深読みまで始める始末である。ピンからキリまで各種取り揃えたから、皆どれでも好きなものをチョイスしてね、という。あそこまで高額なアイテムを用意してファンに格差を付けるなんて、もしジョージが生きていたら……なんて言い出す人も、もしかするといるかもしれない。でも考えてみれば、ジョージは生前から豪華版限定リリースをちょくちょくやっていた。特に、1980年の自伝「I, Me, Mine」から始まった直筆サイン入りの限定手作り豪華本シリーズ。続く1988年の「Songs by George Harrison」と1992年の「~2」にはそれぞれ、未発表4曲入りのCDか7インチアナログ盤が付属。可能ならもちろん欲しいが、現状ではどうしたって手に入れようがない。それでも、そのモノがこの世に現存する限り、それなりのお金を積めば、入手できる可能性はゼロではない。一番大切な何かを質に入れてまで手に入れる覚悟があれば。それもまた各自のチョイスである。そんな覚悟、自分には全然ないけど。

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今月初め、つまり2021年の6月1日に、こちらは40周年を迎えた「Somewhere In England」。このアルバムの収録曲が当初予定されていたものから大幅に変更されて、前作「慈愛の輝き」の雰囲気を継承した素晴らしい曲に限って没にされてしまったという残念すぎる出来事は、ジョージファンなら誰でも知っていること。その4曲、「Lay His Head」「Sat Singing」「Tears Of The World」「Flying Hour」が、前述の豪華本の付録シングル収録曲として、各2500部限定でひっそりと発表されていたわけである。後者2曲は近年になってボーナストラックの形で再発され、少なくともネット配信では普通に聴けるようになったけど、「Lay His Head」「Sat Singing」はまだまだ入手困難。中でも「Sat Singing」は、ジョージスライドをこよなく愛する者としてはたまらない作品である。「Somewhere In England」といえば自分はむしろこれら没になった名曲の方を考えてしまうので、非公式音源でしか聴けない状況が早く解消されてほしいと思うけど、「Sat Singing」がなかなか公式に出ない理由がジョージの意向だったとしたら、それは高額な豪華本を買ってくれた熱心なファンたちに恩義を感じていたからなのかな、と思ったりする。


モノへの執着を一切捨て去った状態を最上とするヒンドゥー教を熱心に信仰しても、決して俗世を離れるところまで振り切れることはなく、モノにこだわるマテリアル・ワールドにもしっかり片足を残していたジョージ。両極端なものをとことん突き詰めても自分の中で矛盾しない懐の深さ、多面性がジョージなのだろう。ビートルズという巨大メディアに乗せてインド音楽を世界に紹介するという、本当に大きな役割をジョージが果たせたのは、物質世界と精神世界のどちらにもどっぷり深く関わりながら、矛盾することもなく並立させていたからだと思う。もし矛盾を抱えていたままだったら、いずれどこかで歪みが出ていたはず。よく「インドに傾倒する」と言うけれど、ジョージは傾いて倒れてしまったわけではなく、並立させていたのだ。そうやって西側世界にインドという一大チョイスを提示したジョージは、海のごとく広いキャパシティを持った存在だったと改めて思う。でも、「Sat Singing」はそろそろ公式にリリースしてくれてもいいんじゃないだろうか。

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