私を構成する3本のカセット:ソニー・ビッグ・スペシャル「懐かしのポップス リクエスト120 現代ヤングのエバーグリーン」

音楽は小さい頃から好きだった。物心つく前となると断片的な記憶しかないけど、リアルタイムで流行した歌謡曲の明確な記憶は1977~8年頃から始まる。当時の自分は5~6歳で、幼稚園に通っていた。全盛期のピンク・レディーが次々と放つ、キラキラしたヒット曲の数々が大好きだった。ゆっふぉー!ペッパーーけいぶ!うーーウォンテッド!わたしピンクのサウスポー、キリキリマイよ!などなど、ポップ極まりないキーワードの雨あられが、幼稚園児の心にいちいちダイレクトにヒット。当時暮らしていた団地の同じ棟にヨーコちゃんという同い年の仲良しがいて、その子の家でピンク・レディーの曲をかけて踊ったという記憶もある。さらに、登園前によく見ていたフジテレビの子ども番組「ひらけ!ポンキッキ」では、番組中の色々なコーナーのジングルとして、ビートルズをはじめとする英米ロック/ポップスの断片が巧みにコラージュして使われていた。自分はそこで初めて一部だけ触れた曲に大きくなってから再会して、「ああっ、これはポンキッキの!」となったことが数え切れないほどある。「かもめが空を飛ぶよ」で始まる大人っぽい感じのエンディング曲も強く印象に残っていて、これを歌っていたのが元タイガースのトッポこと加橋かつみ、作曲はゴダイゴのタケカワユキヒデだったことを知るのは、ずっとずっと後になってからである。

「ただ一人でもいい 仲間はきっと見つかる」

この幼稚園時代のことは自分の音楽ファン歴の前史であって、自分が音楽好きであることをはっきりと自覚したのは、小学校4年生だった10歳のとき。当ブログで何度か触れてきた、洋楽ポップス特集のカセットに出会ってからが本格的な始まりだった。今年50歳になった音楽好きの自分は、この10歳の頃から完全に地続きである。ということは40年になるのか。小4のたしか夏休みに、熱を出して一週間ほど家で寝込んでいたことがあって、そのときに母親がずっと流していたのが、そのポップス特集のカセットだった。父がとあるラジオ特集番組からエアチェックしたもので、90分テープで(1)~(3)の3本あり、合計4時間半に及ぶ。母は少女時代、当時流行していたアメリカのポップスに親しんでいたらしく(カスケーズの「悲しき雨音」が大好きだったとのこと)、息子の看病をしながらそのカセットを懐かしく聴いていたのだろう。自分は、そんな熱でうなされていたときに延々流れていた音楽を、熱が下がってからしばらくは聴くのも嫌になってしまい、母にそのテープをかけないように頼んだほどだった。しかし、そのほとぼりが冷めると今度は、そのカセットを自分からデッキにかけて、毎日流し始めるようになっていた。そこに入っていたすべての音楽が文字どおり熱転写のように頭に焼き付いて、離れなくなってしまったのだ。


父がエアチェックしていたラジオ番組とは、1981年にFM東京で放送された、ソニー・ビッグ・スペシャル「懐かしのポップス リクエスト120 現代ヤングのエバーグリーン」というもの。リスナーからの投票に基づいて、当時の「現代ヤング」の視点から見た「懐かしのポップス」120曲を、ランキング形式で120位から1位まで一挙に紹介するという内容。番組で語られていたことによれば、「懐かしのポップス」の年代的なボーダーラインは1977年で、ビリー・ジョエルの「Stranger」がギリギリだという。ざっくり言って、パンク登場以前のロック/ポップスの人気曲ランキングということになる。番組の案内役は高山栄さん。調べてみると、テレビ創成期から俳優として活躍した後、声優、ラジオパーソナリティとして長年活動し、1963年のアニメ「エイトマン」で主人公の声を担当したのが一番有名な経歴とのことだけど、自分はソニー・ビッグ・スペシャルでの高山さんしか知らない。すでに2002年に64歳の若さで亡くなってしまったようだ。ランキングの曲名を丁寧に読み上げる高山さんの優しく澄んだ声は、自分の脳内にくっきりと焼き付いていて、これから何年経ってもずっと変わらずに響き続けるだろう。

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さて、そのランキングの内容はどんなものだったのか。そのカセット3本は実家から(勝手に)持ち出して手元にあるのだけど(上の写真は現物)、今となっては再生もままならない。頑張れば記憶から再現できないこともないけど、何せ合計4時間半もある内容を漏れなく思い出すのはちょっと難しい。それでも、ネットを探せば大抵の情報は見つかってしまうもので、有り難いことに下記のブログ記事に全曲リストが公開されている。

ソニービッグスペシャル、ついに完成!!(禿頭帽子屋の独語妄言 side A)

まさかあの番組を話題にしている人がいるとは、とブログを発見したときは本当に感激した。見つけた当時はTwitterをやっていたので、ブログ主の方のアカウントをフォローさせていただいたほどだ。このリストを見ると、父がエアチェックしたカセットには抜けている曲がたくさんあることがわかった。全4回放送されたうちの1回目がごっそり抜けているのである。当該記事を書かれた方も1回目は聞き逃していたようで、前半の赤字になっている数十曲がそれに当たる。この知らなかったランキングの内容もかなり興味深くて、キング・クリムゾンの「Epitaph」なんて曲が109位に入っている。


この曲が「懐かしのポップス」の枠に入るのか。もし10歳の自分がここであの「混沌こそ 我が墓碑銘」に出会っていたら、何か違った人生が待っていたりしたんだろうか。まあ、起こらなかったことは起こらなかったことだ。こちらのリストから、父が録音したカセットに入っていない曲を削ったものを、この記事の最後に載せる。この83曲が私を構成している、と言って間違いはない。

このランキングの内容は、曲順を含めて、丸ごと脳内にがっちりと刻まれている。たとえば、61位に並ぶビートルズ「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」→タートルズ「Happy Together」→チャック・ベリー「Johnny B. Goode」は、頭の中で切れ目なくメドレーのようにつながるのである。「Sgt. Pepper」は単独の曲としてのエントリーなので、次の「Bii-ll-yyy Shears!」に行く前にさっさとフェードアウトして、「Happy Together」のイントロがおもむろに始まる。この曲のエンディングの「パパパパーンンン……」が終われば、間髪入れずにチャック・ベリーの三連フレーズのギターが鳴り出す、という具合。ジャンルも年代も一切関係なしに、ランキングだけが曲のつながりを支配していて、そのままの形で自分の脳に刻印されている。




今、カセットに入っていた83曲の中で改めて数えてみると、ビートルズが24曲も入っている。83曲のうちの3割弱、しかも1位から3位まではポール作の三大バラードが独占と、やはりビートルズは圧倒的なのである。自分のビートルズファンとしての入り口も、この24曲だった。「Girl」や「Norwegian Wood」といった、シングルヒットではない「Rubber Soul」のアルバム曲も入っていて、10歳でいち早く出会ったこの辺の曲が自分の奥底まで入り込み、いつの間にか絶対的な存在を確立してしまった。本格的にビートルズにはまり込むのは中学生になってからだけど、そこに至るまでの土台がここにある。

自分がこの50~70年代の音楽に出会ったのは1982年のことで、それからしばらくは同時代の歌謡曲もラジオでよく聴いていたし、マイケル・ジャクソン、シンディ・ローパー、ワム!といった、当時流行っていた洋楽にもそれなりに親しんでいた。それが次第にずれていって、80年代終わり頃になると同時代のものに憎悪すら抱くようになる。年代やジャンル、国籍を問わず、あらゆる音楽に並列に接したいと思う今日この頃であっても、未だにこの時期のものだけは国内外問わず心の中でバイアスがかかってしまって、まともに向き合えないのである。そんな疎外感だらけの時期の真っ只中には、この音楽が自分の居場所になったりもした。クラスメイトに、ジョージ・ハリスンとか聴いてんの?ダッセエ、なんて全ジ敵な発言を食らった記憶もあるし(当時「セット・オン・ユー」が大ヒットしていた)、レトロなものがオシャレという感覚も、少なくとも当時の自分が認識できる範囲には存在しなかった。それでも、周りに合わせるために流行のものを聴いておこうという発想には、1ミリもならなかった。新しいも古いも関係なく、自分の知っている音楽は良いものだ、という絶対的な確信があるのに、どうして「最新だから」という理由だけで好きでもない音楽を聴く必要があろうか(いや、ない)。

自分にここまで決定的な影響を及ぼしたこのラジオ番組を父がせっせと録音していたのは、父自身がポップス好きだったからではない。父はつい最近までビートルズのファンですらなかった。若き日の父が好きだった音楽はクラシックとジャズで、せっかくリアルタイムだったビートルズにも、ポップスにもほとんど興味がなかったと言っていた。おそらく、エアチェックという行為そのものに凝っていた時期に大きな特集番組があったから、とりあえず録音しておいたまでなのだろう。この音楽は、10歳だった自分が親の教育ではなく「これが好き」という感覚だけで選び取って、今まで大切に抱え続けてきたもの。大人になって「卒業」するようなものでもなく、もはや自分の一部分、自分そのものと言ってもいい。

上につらつらと書いてきたことは、1982年から現在までの40年間、ずっと抱え続けてきた一種の病気なのかもしれない。ここからすべてが派生して、自分の人生を決定づけてしまった不治の病である。ただし治療が必要なわけではなく、むしろ治ってしまっては呼吸もままならない病気。よく、何らかの趣味にのめり込んだことで「人生を狂わされた」という言い方をする人を見かけるけど、自分の人生が音楽のせいで「狂わされた」と思ったことは一度もない。というより、狂わされていない、まともな人生ってどんなものなのか、自分にはあまり想像がつかない。むしろ、音楽好き、ギター好きでなければ自分はどんな風に狂っていただろうか、と思うことならよくある。大げさだと思われるかもしれないが、特に十代の後半に抱えていた疎外感と劣等感、周囲の世界に対する恐怖と嫌悪に、音楽という心の在処なしにどうやって対処していただろう。自分は音楽に守られ、導かれて、ここまで生きてきた。これからもそうだろう。頭の中に音楽が鳴らなくなったら、どうやって生きていけばいいのか。ある程度の正気を保ちつつ暮らしていけるのは音楽のおかげだと、心からの実感をもって言い切ることができる。ありがとう音楽。

「ベスト120」では74位。「音楽が死んだ日」についての歌。でも、音楽は死なない。

何と、ランキング120曲を完全収録したYoutubeプレイリストまで最近公開されていた。作った方、ありがとう!

カセットに録音されていた曲のランキング(順位. 曲名/アーティスト)
88. We Can Work It Out/The Beatles
88. Love Me Tender/Elvis Presley
88. Revolution/The Beatles
81. Early In The Morning/Cliff Richard
81. Have You Ever Seen the Rain/Creedence Clearwater Revival
81. An Old Fashioned Love Song/Three Dog Night
81. Never Marry a Railroad Man/Shocking Blue
81. Girl/The Beatles
81. A Hard Day’s Night/The Beatles
81. Norwegian Wood/The Beatles
74. American Pie/Don McLean
74. Ob-La-Di, Ob-La-Da/The Beatles
74. Superstar/The Carpenters
74. Only Yesterday/The Carpenters
74. Too Much Monkey Business/The Yardbirds
61. Mr. Lonely/Bobby Vinton
61. Get Back/The Beatles
61. La Plus Belle Pour Aller Danser/Sylvie Vartan
61. Venus/Shocking Blue
61. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band/The Beatles
61. Happy Together/The Turtles
61. Johnny B Goode/Chuck Berry
61. Please Mr. Postman/The Carpenters
61. The Boxer/Simon & Garfunkel
61. Last Train To Clarksville/The Monkees
61. Simone/England Dan & John Ford Coley
61. Sorry Seems To Be The Hardest Word/Elton John
54. The Stranger/Billy Joel
54. White Room/Cream
54. While My Guitar Gently Weeps/The Beatles
54. Scarborough Fair/Simon & Garfunkel
54. Tout, Tout Pour Ma Cherie/Michel Polnareff
54. Day After Day/Badfinger
54. The House Of The Rising Sun/The Animals
51. Here Comes The Sun/The Beatles
51. Top Of The World/Carpenters
51. Twist And Shout/The Beatles
46. Surfin’ U.S.A./The Beach Boys
46. Johnny Remember Me/John Leyton & The Flames
46. Take Me Home, Country Roads/Olivia Newton-John
46. Something/The Beatles
46. Yellow Submarine/The Beatles
41. Love Me Do/The Beatles
41. Mrs. Robinson/Simon & Garfunkel
41. Joline/Olivia Newton-John
41. Melody Fair/Bee Gees
41. The Young Ones/Cliff Richard
38. Take Me Home, Country Road/John Denver
38. One Way Ticket (To the Blues)/Neil Sedaka
38. Please Please Me/The Beatles
35. Rhythm of the Rain/The Cascades
35. Alone Again/Gilbert O’Sullivan
35. Like A Rolling Stone/Bob Dylan
34. Piano Man/Billy Joel
30. Bus Stop/The Hollies
29. Stairway To Heaven/Led Zeppelin
26. Michelle/The Beatles
26. Those Were The Days/Mary Hopkin
26. It Never Rains In Southern California/Albert Hammond
25. My Love/Paul McCartney & Wings
24. My Sweet Lord/George Harrison
23. The Long And Winding Road/The Beatles
22. She Loves You/The Beatles
21. Runaway/Del Shannon
20. Diana/Paul Anka
19. My Way/Frank Sinatra
18. All My Loving/The Beatles
15. Have You Never Been Mellow/Olivia Newton-John
15. Killer Queen/Queen
14. El Condor Pasa (If I Could)/Simon & Garfunkel
12. Help!/The Beatles
12. Imagine/John Lennon
11. I Want To Hold Your Hand/The Beatles
10. California Dreamin’/The Mamas and the Papas
9. Daydream Believer/The Monkees
8. A Whiter Shade Of Pale/Procol Harum
7. Bridge Over Troubled Water/Simon & Garfunkel
6. The Sound of Silence/Simon & Garfunkel
5. Yesterday Once More/The Carpenters
4. Hotel California/The Eagles
3. Hey Jude/The Beatles
2. Yesterday/The Beatles
1. Let It Be/The Beatles

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