Teenage Fanclub「Here」を今、ここで、あらためて

毎晩、一日の務めをすべて終えてあとは寝るだけ、という時間にはパソコンの電源を落とし、静かに音楽を聴いて過ごすことにしている。レコードの片面だけかけて寝てしまうこともあるし、CDを一枚じっくり聴くこともある。レコードとCDの棚をざっと眺めて、ピンと来たものをピックアップしてかける。昨晩はTFCの「Here」だった。ひととおり聴いて、この現時点での最新作は、最高作でもあるとあらためて思った。2000年の「Howdy!」で90年代にいち早く別れを告げ、鮮やかにシフトチェンジして誠実な活動を続けてきたノーマン、ジェリー、レイモンドが行きついた到達点。聴けば聴くほど凄みを増してくる作品だと感じた。25年以上の年月を重ねたバンドの凄み。

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最初の4曲の流れがやはり最高。どの曲も近年の来日公演で演奏されたので、そのときの記憶がどんどん甦ってくる。冒頭の「I’m In Love」は自分が体験したジェリー脱退後初めてのライブ、2019年東京公演を鮮やかに思い出す。あの潔いエンディングの格好良さ、大盛り上がりの会場。次の「Thin Air」はジェリー曲なので昨年の公演ではやらなかったが、2017年にはもちろん演奏された。いかにもジェリーらしいクールな疾走感。ジェリーはルックスも含めて初めて知ったときから最後に見たときまで、ずっと年を取らず不動のジェリーだった。そんなジェリーも最高だったけど、レイモンドは年を重ねるごとにどんどん成熟を深めて近年は後光が差すほどになった。歌詞を読みながらじっくり聴くと、本当にレイモンドはジョージだと思う。前に訳詞を載せたこともある「Hold On」、まさに今ここで聴きたい言葉が歌われていた。「今朝も目覚めた 僕は生きている もう一日生きられる」「奴らの企みに自分を見失うな 心をしっかり持って 日々の生活にしがみつこう 正気を保って」。とても心に響き、励まされ、刺さってくる。

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ノーマンの「The Darkest Part Of The Night」は昨年公演で1曲目に演奏された、これも絶対に忘れられない曲。どこまでも優しい歌詞、これも前に訳詞を載せた。ノーマンのメロディーも歌声も本当に優しくて、大好きな曲である。これを冒頭に持ってきたライブを体験できたのはやはり一生ものの思い出。この曲もまた、今聴くと別の意味を持って心に響いてくる。今の君は悪夢の中で生きているんだ、今が真夜中の一番暗いときなんだよ……もしかすると、一番暗いときはまだまだこれからかもしれない。でも、この大きな優しさがあればどうにか乗り越えられる気もしてくる。

アルバムは以降も掛け値なしの名曲がずらりと並んでいて、中でもレイモンドの「I Was Beautiful When I Was Alive」はやはり2017年公演の光景が記憶に強く焼き付いている。あのとき自分は風邪っぴきで体調が悪くて後ろの方で見ていたのだが、この静かな曲の演奏中、ステージから放たれるレイモンドの磁力に会場全体が釘付けになっていた。90年代からTFCのライブを観ていなかった自分は、近年のレイモンドがとても大きな存在に化けていたことをこのとき初めて目の当たりにした。「Howdy!」からの「My Uptight Life」の演奏もすごかった。

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2017年東京公演で撮れた写真はこれだけ

昨晩、アルバムの中で上記にも増して一番響いてきたのは「Live In The Moment」だった。これは「Here」のタイトル曲のようなもの。今、ここで、この瞬間を生きるほかに大事なことなどない、という言葉がダイレクトに刺さった。今の自分は、今日を一刻も早く無事にやり過ごしたい。そして、いつになるかわからない「収束」の日を待ち焦がれるばかり。その日はどんどん延期されていく。実にばかばかしい。明日やそれ以降のことなど知らなくて幸いだ。「Here」「Now」を抱きしめて、今日のことだけ考えて生きろよ。これがノーマンの言葉。

ついに今年の10月にTFCが新作を届けてくれると先日発表があった。そうしたら来日公演もまた必ずしてくれるはず。一番暗い夜を抜けた先で、新しいTFCにまた会えるのだ。もちろん、そのときまで人生はしっかり続いていくし、今日ももう一日生きられる。大丈夫だ。

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今ここで咲いている花の香りを楽しみつつ。一昨日の朝、近所で見かけたジンチョウゲ(すぐにキンモクセイと言い間違えてしまう)

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