The Beatles「All You Need Is Love」:ポジに取るかネガに取るか

先日の当ブログに訳詞を載せたビートルズの「愛こそはすべて」、検索をかけてみれば世界的に有名な曲だけにほかの方々による訳詞が複数見つかるし、原詞の内容に詳しく説明を加えているサイトもある。自分が訳詞をやるときはいつも、事前にこういう情報は一切見ずに空っぽの頭で始めることにしているけど、事後に読むと色々と参考になることがある。たとえば、先ほど見つけた以下の記事はとても良い。

All You Need Is Love 歌詞の意味・和訳・解釈(世界の民謡・童謡)

上の記事では、歌詞冒頭の「There’s nothing you can do that can’t be done」で始まる箇所を取り上げ、取りようによって真逆の解釈が成り立つと説明している。その解釈は「できないことは できないよ」説、「やれることは やれるんだよ」説の二つに分類され、両論併記で解説と和訳が進められている。同じ英文をネガティブに取るか、ポジティブに取るか。上記サイトでは、どちらも誤りではないとした上で「やれるんだよ」説を取っているけど、自分の訳は完全に「できないよ」説ということになる。そういう解釈になった理由は訳詞の前置きでも説明した通りで、作曲当時のジョン・レノンに対する自分の見方を反映している。こういう博愛的テーマの曲で、あえてひねくれた言い回しをむにゃむにゃ言っているのが1967年のジョンっぽいと感じる。

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文法の話もしてみよう。厳密な解釈をするなら確かに「nothing」「can’t」と続く文章は二重否定になって、「できることは何でもやれる」という読み方は成立するだろう。しかし、先ほどの記事でも触れられていたとおり、これはネイティブでも解釈が分かれるところだと思う。若者の日常的な話し言葉をベースにしたロックの歌詞が、文法的に必ずしも正確であるとは限らない。むしろいい加減なものが多いことは改めて言うまでもない。今ぱっと思い浮かんだ2つの典型的な二重否定フレーズを、あえて文法的に正しく訳してみる。

I can’t get no satisfaction
私は満足しないわけにはいかない

Ain’t no sunshine when she’s gone
彼女が行ってしまってから 太陽は照りっぱなし

どちらも実際に曲を聴けば、こんなことを歌っているのではないとすぐにわかるだろう。「愛こそはすべて」という曲に限って言えば、こういった黒人音楽の影響はあまり感じられないけど、ビートルズの音楽がどういうルーツから出たものかはファンならよく知っている。



ジョン・レノン観の話に戻ると、今年の3月に松村雄策さんが亡くなったことで、自分の中にあるビートルズに対する見方に、この方の絶大な影響があったことを再認識したばかり。それも訳詞には如実に出ていると思うし、ビートルズの歌詞の解釈で自分にもっと直接的な影響を及ぼしているのが、岩谷宏氏の「ビートルズ詩集」(1985年版)。中学生時代に買って、熱心に読んだ訳詞集である。「愛こそはすべて」の訳詞は長らく読んでいなかったけど、自分の訳を書き終えてから改めて見直してみた。岩谷訳、ポジかネガか。

出来ないことはあなたにも出来ない
歌にならないものはあなたにも歌えない

やはり当然のごとく、ネガティブ派である。しかも後半部分に「不可知」という言葉が出てきて、うわっとなった。自分もその言葉を使おうとして、でも何だか自分の言葉ではないような気がしてやめていたのだ。危なかった。「不可知」のままにしていたら、あの訳詞は没にするところだった。こうやって自分の潜在意識に大きな影響を与えている松村氏・岩谷氏のお二方とも、ロッキング・オン誌の創刊メンバーである。つまり、もし自分が間違った訳詞を上げてしまったのだとしたら、すべて渋谷陽一が悪い。……かどうかはともかく、やっぱり10代後半に熟読したあれこれの影響からは決して逃れられないのだな、と改めて。

自分が訳詞を書くときの心構えとしては、できる限り透明人間であろうとしている。好きな曲の訳詞しかやらないので、その曲の良さだけが読み手にダイレクトに伝わるようにしたい。訳者の自我などは表に出ない方が良い。自分の訳詞を読んでその曲がさらに身近に感じられて、もっと好きになった、なんてことになれば最高である。それでも、自分というフィルターを通す以上は、どうしてもにじみ出てしまうものはある。それどころか、結局は訳者自身の考え方や経験をすべてさらけ出すことになる、と前にも書いたことがあった。今後も当ブログには、書いている人間を反映したネガティブ寄りの訳詞が載るのは、おそらく仕方のないことなのだろう。自分でないものにはなれないのだから(二重否定)。

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