The Beatles「For You Blue」~「Elmore James got nothin' on this, baby!」の意味

今月で没後20年になってしまうジョージ。何十周年の区切りのことはさておき、毎年11月になって冷え込みが強まってくると、ジョージが亡くなった月になったなあ、と肌で感じる。近ごろは、50周年記念盤が出たばかりの「Let It Be」のことをよく考えているので、ジョージのことを思う11月には、前に書いた「I Me Mine」のほかに、もうひとつのジョージ曲「For You Blue」も自分の中では当然クローズアップされてくる。


ビートルズの原点に回帰しようという「Get Back」のコンセプトにぴったり合致する、スリーコードのシンプルなブルース。こんなあっさりした曲でも、実はフィル・スペクター版「Let It Be」では当初の形から大きく改変されている。1969年の「Get Back」バージョンでは全編にジャカジャカと入っていたジョージのリズムギターが、「Let It Be」ではイントロだけ残してばっさり削られてしまっているのである。全ジ連としては、せっかくのジョージのギターを削るんじゃないよ、と言わねばならないところだけど、曲全体として見ればリズムギターを引っ込めたのはまったく正しい判断だと思う。おかげで曲のリズムの焦点がリンゴのどっしりしたスネアに絞られて、スッキリとシェイプアップされた聴きやすい音になっているのだ。フィル・スペクターは「Let It Be」にゴテゴテと余計な装飾を加えた、とかつては定評のように言われていたけど、こんな風に曲によっては逆に音を減らしたシンプルなミックスも採用している。考えれば考えるほど、「Let It Be」でのスペクターの仕事ぶりは的確だったと思う。

この曲の大きな聴きどころがジョンのスライドギター(ラップスティールギター)なのは言うまでもないけど、自分にとって「For You Blue」の魅力の大きな部分を占めるのが、間奏に入るジョージの語り。ジョンのスライドソロの後ろで「Go, Johnny, go!」と茶々を入れるとぼけた言い方とか、皮肉っぽいおふざけモードがいかにもジョージで良い。そして極めつけはおなじみ、「Elmore James got nothin’ on this, baby!」と言いながらちょっと笑うところ。この曲はこれがないと。


12小節のブルースにスライドギターと来れば、まさにそれをトレードマークにしていたエルモア・ジェームスの名前が出てくるのはごく自然なこと。このフレーズの意味、日本語にすると「エルモア・ジェームスのパクリじゃないぜ」と言っているのだと長年思っていたけど、改めて考えてみると、この解釈がどうも怪しいような気がしてきた。記憶では「Let It Be」の日本盤LPに付いていた訳詞に「~のコピーじゃないぜ」という風に書いてあり、自分は十代の頃にこれを読んでからずっとその解釈を無条件に信じていたのだけど、大人になって古いレコードのライナーに付いている訳詞を読み直してみると、訳の間違いも相当含まれていたことに気付いてくる。この曲で記事を書くにあたって、エルモア・ジェームスのくだりも確かめてみたくなり、辞書で意味を調べてみると、「have (got) nothing on ~」は「~より優れたところは何もない、~にはかなわない」という意味だという。案の定、この意味だと「エルモア・ジェームスもこの曲にはかなわないぜ」と解釈するのが正しいことになる。俺たちのブルースにはエルモア・ジェームスも真っ青さ、というわけだ。やっぱり今まで信じていた「エルモア・ジェームスのコピーじゃないぜ」という訳は間違いだったのか。こういう「have (got)」みたいな意味の広い一般動詞に「on」や「with」のような前置詞が付く慣用表現は、日常的に使い慣れていないと正しく理解するのが本当に難しい。このエルモア・ジェームスのくだりについて日本人が言及しているサイトを検索してみても、やはり解釈はまちまちだったりする。

こんなときは、英語ネイティブの意見がわかれば一番いい。まさにこの部分について話し合っているフォーラムを見つけたので読んでみれば、やはり「~にはかなわない」という理解を前提に議論がなされていた。ジョージの言葉を文字どおりに取って「エルモア・ジェームスもかなわないなんて、うぬぼれている」という意見が出たのに対し、「これはいかにもマッチョ風に気取ってみせた皮肉っぽい冗談。たとえば自分がゴルフをしていて『タイガー・ウッズも俺にはかなうまい!』と言うようなもの」という、非常にわかりやすいたとえを出した意見があった。なるほど、なるほど。つまり「Elmore James got nothin’ on this, baby!」というのは、偉大なブルースの先達に対するジョージ流のちょっとひねったオマージュだったのだ。それならとても納得できる。


1969年にグリン・ジョンズによってミックスされた「Get Back」バージョンには、ジョージの語りは入っていない。1970年1月になって、アルバム「Let It Be」を完成させるために「I Me Mine」のレコーディングをはじめとした一連のセッションが行われ、そこで「For You Blue」のヴォーカルも再録音されたらしい。エルモア・ジェームスのくだりは、70年のジョージによって後から付け加えられたものだったのだ。そのジョージは、同年5月から始まった「All Things Must Pass」のレコーディングまでに、エルモア・ジェームスとは似ても似つかぬ独自スタイルのスライドギターを一気に完成させる。今となっては、ジョージが「Dust My Broom」みたいなスライドギターを弾くところはまったく想像もつかないけど、もちろんブルースギターもジョージの大きなルーツのひとつ。もし、唯一無二のスライドギターの名手となった後年のジョージが「エルモア・ジェームスのコピー」をやってみたとしたら、一体どんなことになっていただろう。それはそれで凄いものになったに違いない。もう叶わぬ夢だけど、ジョージ流エルモアスライドも一度は聴いてみたかった。

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