The Beatles「Get Back」第2話:救いの神ビリー・プレストンと、ジョージの蝶ネクタイ

全3話、8時間弱の大長編映画「Get Back」。年末からちょこちょこと観進めていき、昨晩とうとう第2話までクリアした(第1話の記事はこちら)。一日の生活を終えてくたびれて後はもう寝るだけというとき、あんまり雰囲気の悪い場面を観ると余計に疲れるので、なかなかぶっ続けでは視聴できない。第2話の前半では、ごにょごにょとした話し合いの末にジョージがバンドに戻ってくるものの、そのうちまたポールと何かのきっかけで言い争いを始めるのではないかと、観ている自分は気が気ではない。大好きな人たちが喧嘩しているところを観るのはしんどいのだ。とても音楽をやる環境ではなかったトゥイッケナム・スタジオを去り、ひとまず仲直りしたジョージが全面的に協力して自分たちのスタジオをアップルの自社ビル内に急ごしらえで立ち上げ、少しずつ状況は上向いてくるけど、まだこの先どうなることやら、という感じ。

そんな停滞していた状況も、ビリー・プレストンがふらりとスタジオに現れてからは、本当に一気にポジティブな流れになる。「I’ve Got A Feeling」にビリーのエレピが加わった途端、ポールの表情がぱっと輝いて、それまで散漫だった演奏が急にぐっと締まる。「Dig A Pony」「Don’t Let Me Down」「Get Back」も軒並みグレードアップ。どうにも荒削りなリハーサル演奏だったものが、ビリー・プレストンが加わっただけであの聴き馴染んだ「1969年のビートルズの音」になってしまうのがすごい。まさに救いの神。皆が笑顔になったし、曲もどんどん形になってきたし、よかったよかったと、観ている自分もこの辺でようやくほっとできるのである。この明るい盛り上がりは、ピーター・ジャクソン監督の演出の冴えもあるのだろう。やはりこの映画、険悪なシーンも含めて、長丁場でも途中でリタイアせずに見続けられる面白さがある。

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それにしてもビリー・プレストンの素晴らしさ。曲にぴったりの演奏を一発で決め、常に一定のクオリティを決して崩さない。「ビリー・プレストン」をやってもらいたければ、いつでもどこでも完璧に決めてくれるだろう。この安定の信頼性、まさにプロフェッショナル。ビートルズはミュージシャンとしては永遠のアマチュアだった、とはよく言われることで、あまり自分は好きじゃない言い方なのだけど、そう言いたくなる気持ちもわかってしまう。ビリー・プレストンが揺るぎない技量を持つプロのミュージシャンなら、ビートルズの4人はとんでもなく勘の鋭いアマチュア集団という感じである。不安定で気まぐれだけど、ひとたびインスピレーションが降ってくれば、4人で一気に集中して形にしてしまう。第2話では「Two Of Us」をアコースティックにまとめるシーンでその片鱗が見えた。


この曲はアコースティックギター2本でやる、ベースは入れない、と決まったら、「Two Of Us」は一挙にあの最終形に固まったのだ。こういう柔軟な頭の切り替え方がビートルズの凄いところ。ジョージも「あんな苦しんだ曲とは思えない」とシンプルなアレンジに納得した様子。そのジョージは、ベースの不在を補ってエレキギターで中低音部を支えるパートを担当する。このギターの低音弦が、この曲のシンプルなリズムをドライブさせるのに大切な役割を果たしていて、ジョージはベーシストとしてのセンスも抜群であることを改めて証明している。「Two Of Us」のドラムがバディ・ホリーっぽいことには、前に書いたように自分はつい最近気付いたばかりなので、「ペギー・スー」みたいだろ、とポールが言う場面では、やっぱりそうだったんだ!と思った。

第2話でもうひとつ見逃してはならないのは、ジョージがマル・エヴァンスに頼んで蝶ネクタイをわざわざ買ってきてもらうシーン。なぜ出し抜けに蝶ネクタイ?と思うけど、ジョージなりに今のバンドに何が足りないか考えた上で「蝶ネクタイ」という答えを出したんじゃないかと思った。紫の蝶ネクタイはジョンとヨーコにも好評、ポールも「ネクタイで雰囲気が変わる」と言う。ジョージは、バンドのだらけた雰囲気を蝶ネクタイで変えたかったのではないか。これはただの内輪のリハーサルではない、ショウビズなんだぜ、というジョージの主張が蝶ネクタイに秘められているように思えてならない。

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第2話の最終日、25日に「For You Blue」を出してくるジョージにも、「バンドのため」という意識が感じられる。この曲ではジョージがリーダーシップを取り、公式発表されたテイクまで一気に完成してしまう。やるときはきっちりやるジョージ。一時脱退後にバンドに復帰するとき、まずはこのビートルズという目の前の仕事をきっちりやり遂げた後で、自分のやりたいことはあの二人のいないところで存分にやるぞ、と心に決めたのではないか。第2話のジョージの様子を見ていると、そんな割り切りを感じる。自分を抑えなくてはバンドのバランスが取れないとジョージが静かに悟ったのだと思うと、やっぱりこれ以上ジョージがビートルズの一員でいることは無理だったんだな、と納得させられる。


アップル・スタジオの立ち上げ、「Two Of Us」の低音弦ギター、「For You Blue」の提供、そして蝶ネクタイと、第2話ではジョージの奮闘ぶりを存分に見届けることができた。救いの神ビリー・プレストンの登場も、映画でははっきりと描かれていなかったけど、間違いなくジョージの交友関係の賜物だろう。第3話、ここまで頑張ったジョージにギターの神(エリック・クラプトンではない)が舞い降りた、あのルーフトップの演奏が完全な形で観られるのを楽しみにしている。
第3話につづく

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