ビートルズが最後に生んだ曲:The Beatles「I Me Mine (Take 11)」

ビートルズの「Let It Be」50周年記念盤、今日からスーパー・デラックス・エディションが配信で聴けるようになっている。個人的に「Let It Be」は、デラックスなエディションが出ても一番わくわくしないアルバムなので、今回は迷うことなく配信で済ませ、ブツの購入はしないつもり。今日は午前中に学校関係の用事があり、午後は自部屋でゆっくりと一息つきたい気持ちだったので、さっそくSpotifyで聴き始めた。ジャイルズ・マーティンによる2021年ミックスを一通り聴き、そのまま別テイク集のディスク2を興味深く聴き終えたところ。とりあえず本記事ではディスク2の最後に入っていた曲の話をしたい。自分にとっては、このディスクで一番聴き応えがあった曲。


ジョージの「I Me Mine」は、1970年1月3日、解散前のビートルズが最後にレコーディングした新曲。休暇中のジョンは欠席していて、この日と翌4日はジョージ、ポール、リンゴの3人がスタジオに集まった。4日の作業は、1年前に録音済みの「Let It Be」のオーバーダブで、「I Me Mine」はビートルズの70年代の新録としては唯一の曲である。このレコーディング中のひとこまとして、ジョージが声明文の口調で「Dave Deeは僕たちと別の道に進むことになりました。でもMickyとTichと僕は、いつも2位止まりながら、これからもいい作品を作り続けていきます」という風に話していて、そのセリフがこのテイク11の終わりに聞ける(アンソロジー3収録の「I Me Mine」冒頭にも付け加えられている)。もちろん「Dave Dee」とはジョンのことだろう。70年1月当時、すでにジョンがビートルズを抜けることが決定的になっていたのか、それともその場にいないジョンを冗談で勝手に脱退させたのか、詳しい内部事情は自分にはわからないけど、ジョージがこのジョークのネタにしたのが、Dave Dee, Dozy, Beaky, Mick & Tichという、人名が多すぎてなかなか覚えられない名前のグループ。日本では、この長すぎるグループ名がデイブ・ディー・グループと短縮され、当時はかなり人気があったようだ。何といっても、カーナビーツの「オーケイ!」とジャガーズの「キサナドゥーの伝説」はどちらも彼らのヒット曲のカバー。カーナビーツのものは原曲を超える出来だと思う。「キサナドゥーの伝説」の原曲「The Legend Of Xanadu」は、今日初めて聴いたけど、デイブ・ディー・グループ版もかなりいい。

話を「I Me Mine」に戻すと、このテイク11はジョージのヴォーカルもリードギターも入っていないバッキングトラック。曲のタイトルに表記されているように、最初にエヴァリー・ブラザーズの「起きろよスージー」を少しだけ演奏している。ジョージらしい歌声もワンフレーズだけ聴ける。ジョージのギターのカッティングとリンゴのドラムの絡みがガシガシと格好良くて、このまま完奏していたらスワンプロック風味の良カバーになったんじゃないか、と思わせてくれる。

3人のビートルズが「I Me Mine」をこんな末期も末期に録音していたのは、この曲をリハーサルで演奏するシーンが映画に採用されるとわかって、サントラ盤にも入れる必要が生じたからだという。元々、リハーサルから先には進まなかった曲だったのだ。当時は「All Things Must Pass」ですらビートルズの曲として真面目に取り上げてもらえなかったジョージ。ジョンとヨーコがワルツを踊っていなければ、「I Me Mine」もビートルズとしては正式に発表されずに終わるところだった。ないがしろにされていたジョージ曲を映画との辻褄合わせで復活させたのが、70年代のビートルズが生み出した唯一にして最後の新曲になった。終わり方としては少々決まりが悪い感じもするけど、おかげで当時の状況を皮肉の効いた視点で鋭く切り取った、ジョージならではの曲が後世に残ることになったのだから良かった。ビートルズが最後の最後に生み出した曲は「The End」でもなければ、「Let It Be」でも「The Long And Winding Road」でもなく、ジョージの「I Me Mine」だったのだ。

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