The Beatles「If I Needed Someone」

11月も後半に入って、ジョージの命日が近付いてきた。今年でとうとう20年目。1991年12月の来日公演からは来月で30年。色々と節目だ。そんな数字の切りが良かろうとそうでなかろうと、自分の中の気持ちは毎年同じ。幼少時にテレビで毎朝見ていた子供番組「ポンキッキ」の音楽(ビートルズのかなり渋い曲がコラージュされて随所で使われていた)あたりを潜在的な取っかかりとして、10歳の頃にビートルズの音楽が好きなのだとはっきり自覚し、10代後半になるとギターでジョージの演奏を追いかけるようになり、「Cloud Nine」とトラヴェリング・ウィルベリーズのヒットにリアルタイムでぶつかって現在のジョージに夢中になり、最初で最後のソロ来日公演を体験し、と少しずつ徐々にジョージファンとしてステップアップしていった感じだけど、ジョージが心の中に住むようになったのは、20年前の命日からのことだったと思う。あれから20年経っても、その存在は変わらないどころかますます大きくなっているし、40年経ってもずっと心の中で共にいてくれるはず。やはり、この時期になるとジョージのことを書きたくなるので、当ブログではしばらくジョージ話に集中するつもりである。


自分が心から愛してやまない1965年のビートルズが出したアルバム「Rubber Soul」に、心から愛してやまないジョージが提供した名曲のひとつ、「If I Needed Someone」。自分にとってはど真ん中すぎて、かえって文章にしづらいというものだけど、これほど大好きな「Rubber Soul」のことを当ブログにほとんど書いていないのはどうかという気がしているので、まずはこの曲をやってみたい。これまた心から愛してやまない(もういいか)リッケンバッカー12弦ギターのキラキラと輝く音色がまぶしい。このギターでイントロから繰り返されるメインのリフは、同じくリッケンバッカー12弦サウンドをトレードマークにしていたバーズの「The Bells Of Rhymney」が元になっている。前にも当ブログに書いたことがあるように(12弦ギターは美しくて楽しい:The Byrds「The Bells of Rhymney」)両曲のリフの基本は同じで、カポでポジションを高くして7thの音を入れれば「If I Needed Someone」になるのだ。だからといってバーズから丸ごと持ってきた感じは決してしない。そもそもリッケンバッカー12弦をロックに導入したのは「A Hard Day’s Night」のジョージが本家で、バーズのロジャー・マッギンがこの後を追った。いわゆるジャングリーなギターサウンドの源流は、ほかならぬジョージなのだ。

「If I Needed Someone」の曲全体に漂う独特な浮遊感がとても好き。言うまでもなく12弦ギターが大きな役割を担っているけど、もうひとつの大切な要素がジョージの控えめな声。ジョージが一人で歌い始めた後、すぐにジョンとポールが上に加わって3声コーラスになる。ヴォーカルが3人になった途端、普通なら一番目立つべき作者のジョージがぐっと引っ込んでしまって、真ん中のパートを担当するジョンの声の方がよっぽど目立つようになる。これは文句を言っているのではなくて、この主体となるべきジョージのかき消されっぷりが浮遊感のある曲調とマッチしていて、素晴らしいところなのだ。ポールはこういうときに意図的に声を抑えるのだけど、ジョンはお構いなしにいつものジョンをやっている。ジョージは、自作曲でメインを張る立場であっても、ごく自然に「第三の男」の立ち位置に落ち着く。この役割分担が本当に絶妙。高いポジションでずっと同じフレーズを繰り返すポールのベースも、浮遊感の演出に大きく貢献している。ルートが一度下に動いてもベースラインは一定なので、そこで宙ぶらりんな感じが醸し出されてきて、とても効果的。間奏の12弦ギターが天高く舞う後ろで鳴っているジョンのリズムギターも凄くて、カントリーっぽい細かいアルペジオのようなんだけど、未だにどんなことをやっているのか自分には正確につかめない。シンプルに見えてもの凄く微妙なバランスで成り立っている繊細な音楽で、この空気を再現するのは非常に難しいだろう。詳しく音を追えば追うほど、「Rubber Soul」期のビートルズは凄すぎるのである。
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この曲のコード進行を追っていてびっくりするのは、「Had you come some other day then…」で始まるBメロで繰り広げられる大胆な転調。もちろんアレンジの妙で違和感なくスムーズに聞こえるのだけど、普通のギターのローコードで演奏してみると、カクッと脱臼したような何とも不思議な気持ちにさせられる。カポを外したローコードでは、メインのキーはDメジャーになり、AメロはDを基本にほとんど一直線に進むのだけど、Bメロになると一転してAm→B7→Emというマイナー進行に変化。ここでAmというコード1つをかろうじて足掛かりにして、キーがDメジャーからEマイナーに綱渡りのように転調する、この進み方が予想外なのだ。Am→B7→Emをもう一度繰り返してから、しれっとAでBメロを締めくくり、何事もなかったかのように元のDに転調し直してAメロに戻る。複雑なコードを使うわけでも、論理的な手順を踏むわけでもなく、シンプルなメジャー/マイナーコードの組み合わせでカクカクッとこうなるのが不思議で、アクロバット的な感じなのである。ハイポジションの12弦ギターでキラキラと奏でられると、何だかすんなりと納得させられてしまうのだけど、実はかなり力技の転調だと思う。ジョンやポールの曲でも転調は多用されるけど、ジョージのひねった転調のやり方はあの二人ともまた違った独創的なもの。後年の曲でも随所で炸裂する、ジョージの力技転調が初めて世に出たのが「If I Needed Someone」だったのだ。ジョージの曲の独特なコード進行には、ジョンもポールも思いつかないことをやってやろうという野心を感じるし、発想がきわめてギタリスト的だとも思う。あらゆるポジションで色々なコードを弾きながら、これとこれはこうつながるんじゃないかと、絶えず試行錯誤を重ねていたのではないだろうか。ジョージの作る曲が一度耳に引っかかると離れないのは、こういうところ。

歌詞では、「君の電話番号を壁に刻んでおいて 僕から電話するかもしれないから」というところがとても好き。壁にガリガリと電話番号を彫っているパティ(翌年ジョージと結婚する)の姿を想像するとおかしくなってしまうけど、「壁に刻む」って何だか良い。紙に書いたメモは簡単になくしたり捨てられたりしそうだし、砂に書いたラブレターはすぐ波に流されて消えてしまうけど、壁に刻まれたものはずっと残る。今日明日ではないかもしれないけど、いつかそのうち気が向いたら電話するかもね、壁に刻んであればずっと忘れないよ、という押しつけがましくない距離感がいいなあと思う。邦題の「恋をするなら」も、この曲のちょっと屈折した内気な優しさがよく出ていて好き。この電話番号のくだり、取りようによっては違った意味にも取れるようで、「君がもっと前に現れていればよかったんだけど、今は別の人にぞっこんなんだ。でも電話番号は教えておいて」という風に解釈する人も多いらしい。でも自分にはこの歌詞をあまりそういう風には読み取れない。だいいち、そんな電話番号が壁に刻んであるのを現在の恋人に見とがめられたら、問題にならないだろうか。いずれにしても、こういうライトな優しいラブソングは、ジョージが生み出してきた曲の大きな系譜のひとつ。「Something」より、もっとふわりと軽いもの。「I Need You」から始まり「恋をするなら」を経て、ソロになってからも時折「Don’t Let Me Wait Too Long」のような曲で顔を見せていた。時代はだいぶ離れるけど、「Cloud Nine」収録の「This Is Love」にも何となく同じような空気を感じる。


「If I Needed Someone」については、まだまだ書きたいことがありすぎて収拾が付かなくなりそうなので、今回はこのへんにしておく(やっぱり「Rubber Soul」のことを記事にするのは大変だった)。最後にひとつだけ、ビートルズの武道館ライブでの演奏。

歌とギターで忙しい合間に、観客席に向かって一瞬だけ可愛く手を振るジョージ!狂騒の渦中にあってもできる限りファンを同じ人間として扱い、大切にしていたことがわかる一瞬で、とても好きなシーン。ジョージが弾いている縁の丸っこいギターは、1965 Rickenbacker Fireglo 360/12というモデルで、65年8月の全米ツアー中にミネアポリスの楽器店から贈られた、ジョージにとって2台目のリッケンバッカー12弦だったそう(「The Beatles and Beyond – George’s Guitars」より)。色も形もとても美しい、憧れのギターなのだけど、ビートルズがライブ活動に終止符を打った66年8月のキャンドルスティック・パーク公演後に程なくして盗まれ、残念なことに現在もなお行方不明らしい。

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あと、この武道館ライブの演奏では、間奏のギターの後ろで「アーー」とコーラスを入れるポールが、「Revolver」のジョージ曲「I Want To Tell You」のフェードアウトのところと同じインド風こぶし回しを何気なく挟み込んでいるところも凄い。当時すでにビートルズは、次作「Revolver」の制作を終えていたのだ。「Taxman」をはじめとする自作曲3曲の収録を果たしたジョージも、このときすでに「ビートルズの末っ子」とは遠く離れた存在に進化していた。

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