コロナ禍の夏のメリークリスマス:The Bird and the Bee「Put Up the Lights」

昨晩は、ザ・バード・アンド・ザ・ビーが昨年出したクリスマスアルバム「Put Up The Lights」を聴いていた。2005年結成、イナラ・ジョージとグレッグ・カースティンの二人からなるこのユニットの音楽に、自分は一昨年になってSpotifyで出会い、本当に気に入って今もよく聴いているし、当ブログで何度か記事にもした。このクリスマスアルバムの収録曲についても、デイヴ・グロールが参加してジョン・ボーナムそのままのドラムを叩いた「Little Drummer Boy」を少し取り上げたことがある(記事)。


暑苦しい真夏の夜にクリスマスアルバムを聴くなんて熱で頭がどうかしたのか、と思う人もいるかもしれないけど、本作の制作が進められたのが真夏のことだったという話をふと思い出して、改めて夏に聴いてみたくなったのだ。2020年夏のアメリカは新型コロナウイルスのパンデミックまっただ中。イナラとグレッグの二人もいつものように直接スタジオで会うことはできず、それぞれの自宅にこもったまま、リモートで演奏と歌をやり取りして作品を完成させたとオフィシャルサイトで語っている。当時のアメリカはコロナ禍だけでなく、Black Lives Matterをはじめとする世界的な差別抗議運動や、歴史的規模の山火事が起こり、さらにトランプ政権下で大混乱必至の大統領選挙を控えていた。夏である上に、こんな不穏な状況下でクリスマスアルバムを制作するのは本当に奇妙なことだったと、イナラは言っている。それでも、音楽のおかげでこんな現実から一時的にでも逃避できたのは素敵なことだったとも。そうして出来上がった音楽を聴いても、そんな特異すぎる状況のことはまったく感じさせず、スムーズそのもののクリスマスミュージックに仕上がっている。1曲目の「You and I at Christmas Time」は後世まで残ってほしい永遠の名曲。作り手と聴き手の双方がどんな状況であろうと、完璧な現実逃避が楽しめる、これこそがタイムレスな音楽の力。

自分がこれを聴いている2021年夏の日本は、このアルバムが作られた昨年夏からは想像もつかなかった、想像したくもなかったような状況になっている。昨年来のコロナ禍は収束どころか、感染力が強化された変異ウイルスの登場でさらに拡大、日本では今までで一番大規模な第5波の感染爆発を招いている。東京都内では7月末に1日当たりの新規感染者数がとうとう4000人を超え、8月3日には自宅療養中の新型コロナ感染者が1万4000人に達したという。「軽症」とされていても苦しさのあまり自力で動くこともままならず、病状急変に備えたケアが本来なら必要なのに、入院もできず自宅のベッドや布団で過ごしている患者が「1万4000人」って、ちょっと自分の中ではうまく飲み込めない数値だ。そんなどう考えても尋常でない事態にある東京のど真ん中で、現在は無観客オリンピックが開催中である。今まさに起きている命にかかわる状況をよそに、ニュースサイトを見れば華々しい金銀銅メダルの話題ばかりが目に入る。第二次世界大戦中の新聞もこんな感じだったんだろうか、と思わずにはいられない。この2021年夏の現実世界は、もし10年後、数十年後にもこの文章を誰かに読んでもらえていたら、さぞかし奇妙に見える状況だろうと思うので、当ブログにその一端を書き残しておく。現在の世間に比べれば、真夏の熱帯夜にクリスマスアルバムを聴くことなんて、まったくおかしくも何ともない気がする。この蒸し暑さと現実世界の不条理をいっときでも忘れるために、今晩もまた聴きたい。

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