5年ぶりの新作:The Corner Laughers「Temescal Telegraph」

コーナー・ラファーズについては前に記事を書いたことがあって、現在活動しているバンドの中では五本指に入るぐらい好きな人たち。2015年の前作「Matilda Effect」から5年ぶりの新作が先週末から配信でリリースされた。実は、Bandcampで新作のアナウンスが出たときにCDも欲しいと思って2月だったかに予約してあって、6月リリースとのことだったので気長に待っていたら、5月のゴールデンウィーク中にいきなり超フライングでCDが届いた。まさかリリースの1か月も前に届くとは思いもよらなかった。しかも、開封したらCDと一緒に、「Enjoy!」とメッセージが書かれた紙切れ(猫のイラスト付き)まで同封されていて二度びっくり。この同封メッセージも、CDが入っていた封筒の宛名もメンバーの手書き。彼らと個人的知り合いでもないのに、この待遇は嬉しすぎる。今の時代に、配信で済ませずに代金と送料を払って現物のCDを手に入れるとはこういう特別なことなんだな、とあらためて思った。そういうわけで、正式リリース前の先月からすでにアルバムをじっくりと聴いていた。本当に素晴らしい作品。

前作から5年、メンバーの健康問題や個人的事情その他で、バンドとしてまとまった活動がなかなかできない状況だったらしい。ウクレレ抱えた天才シンガーソングライター、Karla Kaneはブランクの間にソロアルバムを1枚出していて、そこですでに発表されていた2曲がバンドアレンジに生まれ変わって本作に再録されている。もしかすると、ソロ作が出た当時は、バンドとして次作が出せるかどうか本当にわからない状況だったのかもしれない。その2曲、ソロ作での穏やかなフォークとはガラリと変わった力強いロックサウンドになっていて、すでに知っていた曲だけど、このバンドの素晴らしさをかえって強烈に印象づけられた。しばらくまとまれずにいたバンドが、ここぞというタイミングで再集結して、短期集中で一気に仕上げた作品のようだ。だから、一発で耳をつかむ派手さは少なめだけど、聴けば聴くほど良さが増していく、落ち着いた統一感のあるアルバムになった。自分はこういうアルバムがとても好き。音がぐっとシンプルになった分、要所を押さえたバンドの確かな技量と、Karlaが弾くウクレレの響きが耳に残る。

アルバム中、ぱっと聴いて一番自分の好みだと思ったのが、しっとりした「Wren In The Rain」。「wren」はミソサザイという鳥のことで、ポールの近年の傑作「Chaos and Creation in the Backyard」に入っている「Jenny Wren」のことも思い出す。「Jenny Wren」は「Blackbird」をちょっと彷彿とさせる曲で、あのアルバムの中でも特に好き。「Wren In The Rain」は本作の中でメロディー面から見ても一番ビートルズっぽいかもしれない。中心メンバーのKarla・Khoi夫妻は鳥マニアらしく、曲のテーマには鳥がたびたび出てくる。今回のアルバムでは、10曲中3曲(少なくとも)が鳥シリーズ。


サンフランシスコ出身の彼ら、土地柄に関連付けてサンシャインポップとかそんな言葉で紹介されることも多い。たしかにサンフランシスコ近辺のご当地ソングも多くて地元愛を感じるバンドだけど、自分が彼らの音楽や歌詞から強く感じるのは、英国のロックやトラッドフォークへの憧れ。アメリカ西海岸どっぷりではなくて、イギリスにどうしようもなく憧れるカリフォルニア人というところに自分は魅力を感じる。本作には1曲だけ他人の曲が入っていて、その「Goodguy Sun」はMartin Newellというイギリスのシンガーソングライターの作曲。自分はこの曲に接するまでまったく知らなかったけど、80年代にはカセット形態でのリリースにこだわったCleaners from Venusというバンドを率いて活動し、90年代にはXTCのアンディ・パートリッジのプロデュースでソロアルバムを出し、トレードマークは山高帽、とまさしくカルトヒーロー的な英国ローファイポップ職人という存在感。Spotifyにある80年代と近年の作品をざっと聴いてみたけど、作風も音質も一貫して変わらない独特の味で、かなり好き。「Goodguy Sun」はその本人からKarlaに「この曲は君が歌ったら合うんじゃないか」とメールでオファーされたという新曲。彼女曰くバンドの「ソングライティング・アイドル」から直々に曲提供を受け、その好意を大切にして丁寧に作られたことがわかる、素晴らしい出来になっている。ビーチ・ボーイズの「All Summer Long」を思わせる夏の終わりの哀愁を歌った曲。サビで繰り返される優しいメロディーが良すぎて、紛れもない名曲。

アルバム収録の全10曲、どれも深く聴き込んでいきたい曲が並んでいて、歌詞もちゃんと読みたいところなのだが、CDに歌詞カードは付いておらず、ネットにも今のところは見当たらないのが残念。自分の英語力では細かいところまで聞き取れない。自分の乏しいヒアリング能力と、音楽を聴いた印象だけで言えば、特に最後の2曲「Skylarks of Britain」と「Lord Richard」からは伝統的な英国フォークミュージックへの切なる憧れのようなものが強く感じられて、このアルバムで一番心を打たれるハイライト。このブリティッシュな重厚さは今までの彼らにはなかった展開で、ずっしりとした感触を残す。先ほどのミソサザイに続いて、「Skylarks」はヒバリ、そして最後の「Lord Richard」も「Songwriting Magazine」の記事によれば、Lindsay Wildlife Experienceという野生生物の保護・治療と展示を行っている博物館にいる老コンドルの名前だという。その博物館のサイトに載っていた記事によれば、去年で45歳のお誕生日を迎えたそうだ。鳥、動物、昆虫、植物、歴史、生死観といったテーマが並ぶ歌詞、じっくり読めるようになるのを待っている。

配信で聴けるようになった土曜日、イヤホンでこのアルバムを聴きながら川べりを歩いた。涼しい風が吹き抜ける橋を渡りながら3曲目の「The Accepted Time」を聴いていたら、カワセミがちらっと青い背中を見せながら川面を飛んでいくのが見えた。そのとき、この30分ちょっとのアルバムに入っている10曲を、自分はこの先もずっと大切に聴き続けていくんだな、と嬉しく思った。この作品がこの世に生み出されて良かった。最初のアルバムが出てから14年、メンバーそれぞれに大人の生活事情があるのだろうけど、彼らも5年ぶりの新作がこれだけ良いものになって、大きな手応えを感じているはず。またその時が来たらバンドとしてがっちり結束して、素晴らしい作品を出し続けてくれることを心から願っている。

タイトルとURLをコピーしました