Tom Petty「Hung Up and Overdue」

トム・ペティ「Wildflowers」のデラックス版「Wildflowers & All The Rest」が10月に発売され、自分は4枚組CDを買ってずっと楽しんでいる。特に、ディスク3に入っているトム・ペティが一人で自宅録音したアコースティックなホームデモは、本当にどれも素晴らしい出来で、前にもここに書いた「You Don’t Know How It Feels」のデモバージョンは、こっちの方が好きなぐらい。夜中に自分を空っぽにしてじっくり聴きたい、大切な「心の友」がまた一つ増えた。


自分はトム・ペティのことをあまり詳しく知らない。「Wildflowers」が本来は2枚組の構想で制作されていたことも知らなかったし、1996年にトム・ペティ&ザ・ハートブレーカーズ名義で出された「Songs and Music from “She’s the One”」が、1枚になった「Wildflowers」から洩れた曲をいくつも収録した「裏Wildflowers」のようなアルバムだったことも「All The Rest」に接して初めて知った。「She’s the One」という作品自体、初期ベックの大名曲「Asshole」のカバーが入っていることで最近になって存在を知っただけで、ほとんど聴き込んではいなかった。「All The Rest」では、元々「She’s the One」で世に出た曲も「Wildflowers」の文脈で同列に並べられている。おかげで自分はようやく、2枚組になるはずだったアルバムの全貌を知ることができて、「She’s the One」も見過ごしてはならない重要作だったことに気付いた。

「Hung Up and Overdue」も93年に録音されながら「Wildflowers」からは洩れ、96年に「She’s the One」で世に出たのち、別ミックスが「All The Rest」に収録された。自分はこの曲にも「All The Rest」で初めてまともに向かい合い、こんな凄いものを今まで自分は見過ごしていたのか、とトム・ペティの音楽の奥深さをまざまざと思い知らされることになった。ビーチ・ボーイズのカール・ウィルソンがコーラスで参加し、ドラムを叩くのはリンゴ・スター。そのことだけでも凄いが、曲自体がビーチ・ボーイズの内省的な静の側面をトム・ペティ流に正面から表現したもので、自分がごく狭い範囲で知っていたトム・ペティとはかけ離れた世界だった。コーラスの後に鍵盤とベースのユニゾンで奏でられる6音のフレーズを聴けば、ブライアン・ウィルソンの影がくっきりと浮かんでくる。その世界の中でいかにもリンゴなドラムが聴けて後期ビートルズの香りも漂ってくるのが真に凄いところだし、カール・ウィルソンの美しいコーラスがよく映えるアウトロでは、ジョージ流スライド免許皆伝ギタリストのマイク・キャンベルが、ここでもジョージに限りなく近い素晴らしいスライドを披露している。カール・ウィルソン、リンゴ、そして(ほぼ)ジョージと揃ってしまった鳥肌もののエンディング、4回繰り返して潔くジャーンと終わってしまうのだが、そのままリピート&フェードで永遠に続いてほしいと願いたくなる。

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