新築のジャスコでYMOが流れていた記憶をイオンで思い出す

今年の春に引っ越してきて新しく暮らし始めた県には、実は自分が小学生だった頃にも一時期住んでいたことがある。水田と森林が多い、緑の豊かな田舎だった。3年生の春に東京の小学校から転校してきて、また東京に転出した6年生の秋まで3年半、小学生時代の半分以上はそこにいた。遊び盛りの小学生が過ごすには、せせこましくアスファルトで固められた東京よりずっと良かったと思う。田んぼや池でオタマジャクシやザリガニを捕って遊んだり、自転車を乗り回したり、電車好きだったので朝早く起きて近くの踏切まで特急電車(当時はエル特急といった)を見に行ったり、色々な思い出がある。今の自分の大事な基礎を作ってくれた土地だ。

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いま住んでいるところも基本的に同じ風景

かといって、毎日外で泥んこになっていたわけでは全然なく、家にこもって好きなことに没頭しているときも多かった。当時リアルタイムで流行していたYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)、家にあった英米ポップス特集のカセット、そしてビートルズとの出会いをきっかけに、音楽を自ら意識的に聴き始めたのはこの時期からだった。父が買ってきた初期のパソコンにのめり込んだのも、この頃。当時のパソコンは、BASICという言語を使ってプログラムを入力しなければただの箱、何もできないという代物だった。まだ小学生だったので自力で大したプログラムは組めず、かといって小遣いをはたいて市販のソフトを買うのもハードルが高かった。そんな小学生がどうやってパソコンで遊んでいたのかというと、雑誌に載っていたプログラムを手で入力していたのである。当時のパソコン雑誌には、読者投稿のプログラムのBASICソースが掲載されていて、それをそのまま手作業でキーボードからタイプしてメモリに読み込ませ、RUNという命令を出して実行する。入力間違いがあればエラーが出て動かないので、間違い探し(デバッグ)もしなければならない。そんな当時の自分が懸命になって一文字も間違わないように入力していたプログラムは、もちろんゲーム。実に手間のかかる、気の長い話である。アプリを一瞬でダウンロードしてあらゆることができる現代とは、何万光年もかけ離れた世界に生きていた。しかも、そのプログラムが載っている月刊のパソコン雑誌(マイコンBASICマガジン、略称ベーマガといった)自体が、田舎だったので近所では手に入らず、月に一度の発売日になるとバスに乗って、市の中心街にある本屋まで買いに行っていた。こんな、今にして思えば気の遠くなるようなことも特に不便とは認識せず、楽しくやっていた。小学生にとっては、両親から与えられた世界がすべてだった。

そんなパソコン小学生だった自分は、週末に両親が大型スーパーに買い出しに行くときにいそいそとついていって、パソコン売り場で展示されている色々なマシンをいじるのが大好きだった。当時は、NEC、シャープ、日立、富士通、東芝といった国内メーカーがこぞって独自の個性的な機種を出していて、その多様さがものすごく楽しかったのだ。音楽が鳴らせる機種ではデモ演奏も聴けた。音階付きのビープ音みたいな音色しか出ず、三重和音が演奏できればかなりすごい、というローテクぶりだったが、そんなピコピコの電子音で松田聖子の「天国のキッス」が鳴っていたパソコン売り場の風景を覚えている。作曲は言わずと知れた細野晴臣。やはり当時のパソコンの思い出にはYMOが深く関わってくる。スーパーのエスカレーターに乗って2階のパソコン売り場に向かっていたら、当時リアルタイムでヒットしていた「君に、胸キュン。」が聞こえてきたという記憶も残っている。小学5年生だった1983年のこと、まだ新築まもなかったスーパーの店内はキラキラと輝いていて、あの華やいだ歌謡テクノポップなヒット曲がぴったりお似合いだった。今思い出すと嘘みたいな、いかにも80年代的な記憶だが、自分の脳内にはこのシーンが鮮明に残っているのだ。


細野晴臣のことは、サカモトさん、ユキヒロさん、ホソノさんと3人並んだYMOのテクノおじさんとして認識していただけで、「天国のキッス」をはじめ、当時ヒットしていて大好きだった歌謡曲の数々が細野氏の作曲だったことを、小学生だった自分はまったく知らなかった。ましてや、自分がこの世に生まれた頃には大瀧詠一・松本隆・鈴木茂と一緒にはっぴいえんどというバンドを組んでいて、ピコピコのテクノポップどころかアナログそのもののロックをやっていたことなど、知るよしもなかった。このバンドのメンバーが作詞・作曲・制作に関わった曲を挙げれば、当時好きだった歌謡ヒット曲のかなりの割合を占めてしまう。そんな時代だった。

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今さらどうしてこんな昔話を書く気になったのかというと、その小学生時代の自分がパソコン売り場で遊んでいた大型スーパーがあった場所を、先週末に再訪したのである。同じ県内でも現在の自宅からは車で1時間以上かかる場所。県内をぶらぶら走った帰り道に、近い方面にいたのでほとんど40年ぶりに立ち寄ってみたのだが、周辺の風景も含めて、本当にここだったのか?と思うぐらい、当時の記憶に残っていた面影は感じられなかった。そのスーパー、ジャスコは20年ほど前に解体されたらしく、現在はイオンに建て替えられていた。店内はどこにでもあるイオンの風景だった。40年も経てば何もかも変わってしまうのだなあ、と思うほかなかった。でも、そこのエスカレーターに乗って、かつてあのパソコン売り場のあった2階に上がり、ダイソーやフードコート、ゲームコーナーなどが並ぶフロアを歩いてみたとき、自分の脳内では「君に、胸キュン。」と「天国のキッス」が流れていた。

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