Yo La Tengo「Fakebook」とカバー曲プレイリスト

前に、Spotifyでヨ・ラ・テンゴのアーティストページを見ていたら、彼らがカバーしたことがある曲を集めたというプレイリストを見つけた。ヨ・ラ・テンゴの公式アカウントの選曲によるもので、何と全238曲、12時間半にも及ぶ長大なプレイリスト。

プレイリストにはヨ・ラ・テンゴ自身のバージョンも含まれているけど、大半はさまざまなオリジナルアーティストによるバージョン。曲名をずらずらと眺めているだけでも楽しいし、流せばもっと楽しい。お気に入りに登録してたびたび再生している。時代もジャンルも多岐にわたる曲の数々、とても懐の広いバンドであることがよくわかる。これでもカバー全曲が網羅されているわけではないし、ヨ・ラ・テンゴ版が見つからないものも多々ある。おそらくライブのみでカバーしたとか、いつか演奏した記憶があるとか、そんなものも含まれているかもしれない。聴けなければ聴けないで、彼らが一体どんな風に演奏したのか色々と想像してしまう。軽くおふざけで演奏したようなのもあるかもしれないし、一見意外な曲をいい感じにヨ・ラ・テンゴ流にしてしまったものも、きっとたくさんあるだろう。彼らが選曲したプレイリストの曲群を眺めていてひしひし感じられるのは、音楽に対する愛。大好きな曲たちを自分たち流に演奏するのが心から楽しいからこそ、こんな長々としたプレイリストが出来上がるほど膨大な数の曲をカバーしてきたのだろう。自分も好きな曲をギターで適当に弾いてみて、自分なりにいい感じに弾けたらひとりで盛り上がっていつまでも弾いてしまうので、よくわかる。

そのプレイリストに入っている曲の中でも、これはヨ・ラ・テンゴのバージョンを是非とも聴いてみたいと前のめりになってしまう曲が一つあった。フレイミン・グルーヴィーズの「You Tore Me Down」である。探してみたら、まだ聴いてなかった90年の「Fakebook」というアルバムに入っているということで、さっそく聴いたらやはり素晴らしかった。


フレイミン・グルーヴィーズのオリジナルバージョンは1976年の「Shake Some Action」に入っている。このアルバム、自分が知ったのはけっこう最近のことなのだが、ものすごく気に入って一時期どハマりしてしまった。こんな大名盤を今まで知らなかったとは恥ずかしい、きっといくらでもリマスターやらデラックスエディションやら出てるだろうから早速CDを手に入れなければ、とAmazonで探してみたら、意外にもほぼ廃盤に近いまばらな状況でビックリしてしまったことがある。歴史的名盤の香りがぷんぷん漂っているように自分には思えたのに、どうやら少なくとも21世紀の世界ではそれほど需要がないようなのだ。MC5の影響が大きいガレージっぽい初期作の方が長く聴き継がれているみたいで、もちろんそっちも格好いいけど、初期ビートルズの中でもあまり顧みられない「Misery」をカバーしたり、「All I’ve Got To Do」を下敷きにしたと覚しき曲(名曲)が入っていたりと、「Shake Some Action」は自分のツボを突きすぎていた。だから、このアルバムからの曲をヨ・ラ・テンゴがカバーしてアルバムに収録していたのは、個人的にとても嬉しい。
プレイリストによれば、このアルバムからはタイトル曲と「I Can’t Hide」もカバーしたらしい

「You Tore Me Down」をはじめ、「Fakebook」に収録されている演奏は、いい塩梅に力の抜けたアコースティックなアレンジばかり。90年代の彼らからイメージする、歪んだギターでクールにノイジーに迫るものはまったくなく、終始ほとんどカントリーロックと言っていい長閑な雰囲気。彼ららしからぬ女の子コーラスが入った50年代風の曲さえある。

「Emulsified」のオリジナル、1961年発表のシングル

「Fakebook」はアルバム全編が一発で気に入ってしまって、CDも買った(中古でしか売っていなかった)。オリジナルも入っているけどカバー曲がメインという異色の4作目。肩の力が抜けた素朴な演奏だからこそ、あのプレイリストの根底に流れているものと同じ音楽への愛情がダイレクトに感じ取れるのだ。トレメローズの「Here Comes My Baby」のカバーも大好き。「You Tore Me Down」もこれも、アイラとジョージアのダブルヴォーカルのハーモニーがすごく心地よい。


タイトルに一応言及しておくと、1990年に出た本作はもちろん某巨大SNSともフェイクニュースともまったく関係がない。「Fakebook」という単語について調べてみたら、「偽書」ではなく、ポピュラーソングの歌詞、メロディー、コードだけが書かれた、いわゆる「歌本」のことらしい。

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ジャズ用語で「フェイク」は即興演奏という意味。ジャズの演奏家なら、各パートの一音一音がきっちり譜面に書いてなくても、フェイクブックがあれば文字どおりフェイクしながら自分のやりたいように音楽ができるというわけだ。ヨ・ラ・テンゴも、あれだけたくさんの曲をカバーするのにいちいち譜面など買ってきたりしないだろう。細部までこだわって完コピするでもなく、逆に原型を留めないほどぐしゃぐしゃに壊してしまうでもなく、適度に崩しながら演奏している好カバーばかり。その崩しっぷり、つまりフェイクのやり方にヨ・ラ・テンゴにしか出せない味がとてもよく出ていて、本当にいいバンドだなあと思う。

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