The Presidents of the United States of America「Video Killed the Radio Star」

1995年にデビューアルバムを大ヒットさせて当時は日本でも人気を博し、来日公演も数度にわたって行ったシアトル出身のバンド、ザ・プレジデンツ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ。アメリカ合衆国大統領が複数という実に豪勢なバンド名であるが、いささか長すぎるのでPUSAと略す。自分はPUSAのデビューアルバムが出た当時、車のラジオで「Lump」を初めて耳にしたときからこのバンドの大ファンで、1996年の初来日公演も観に行った。そのとき、自分の記憶が確かならアンコールで披露されたのがバグルスの「ラジオスターの悲劇」のカバーだった。このバンドの陽気な持ち味が最大限に発揮された見事なアレンジで、一発で気に入って会場でとても幸せな気分になったのを覚えている。


このカバーを収録した「Pure Frosting」が出たのは1998年で、自分が来日公演の会場で「ラジオスターの悲劇」を初めて聴いたときから2年経っている。ただ、その前年、2回目の来日公演時に「訪日記念盤」と銘打ってリリースされた1997年の「Rarities」にも別バージョンが入っているほか、さらに前の1996年にDry Humpというレーベルからリリースされた7インチ「Peaches」のカップリング曲として、ここでしか聴けないライブバージョンが収録されている。PUSAによる「ラジオスターの悲劇」は、このシングルが初出のはず。ここで思い切り自慢させてもらうが、自分は96年当時にこの7インチを購入していて、今も大切に持っている。綺麗なオレンジマーブルのクリアビニール盤である。

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このシングルは新宿のディスクユニオンか何かで普通に売られていたのを購入したと思う。買ったときのことは全然覚えていないけど、ライブで体験して感激した「ラジオスターの悲劇」が収録されているのを見て、即座に飛びついたのだろう。シングルに同封されていたDry Humpレーベルのリリース紹介の紙(1996年2月現在と記載あり)によれば、このシングルは限定盤らしく「あまり長くは出回らないだろう」と書かれている。出会えて良かった。

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最初に貼ったビデオクリップがPUSAのオフィシャルYoutubeに掲載されたのは2008年9月で、公式にアップされた映像ながら14年も前なので画質が粗いのが惜しまれる。この曲が使われたらしい映画のシーンと、バンドが登場する部分が交錯する、90年代によくあったような構成。「映画のシーンを挟まないで作りたかった」という本人達のコメントも付いているけど、バンド登場部分の出来はかなり良くて、自分は何度も繰り返し観ている。50年代のロック黎明期からビートルマニアの時代を経て今度はMTVと、時代の流れに合わせてコロコロ変化させられるロックバンドの姿を滑稽に描き、最後は90年代半ばのシアトルという彼らの現状で締めくくる。つまり、50年代から80年代までのロック史をひととおり通過し、今度は90年代オルタナバンドとして楽器破壊の大暴れを演じた挙げ句、「もうやめた!」となり、その一部始終をバンド自身が退屈そうにテレビで眺めている、という流れ。MTV時代の幕開けを告げた原曲の「その後」を描いているわけである。

PUSAバージョンの映像自体、映画とのタイアップというスタイルがいかにも90年代を感じさせる。2022年現在、ここで描かれていた現状もまた、ずいぶん過去の話になってしまった。あれからネットが一気に世界規模で普及し、音楽ビデオはMTVではなくYoutubeで見る時代になり、SNSでアーティストと直接つながれるようになり、音楽配信が世界を席巻して誰もCDを買わなくなり、そしてコロナ禍と、時代はどんどん変わる。ラジオスターはビデオに殺され、ビデオスターはネットに殺され、ネットスターについては、自分はあまりよく知らない。そもそも、ロックンロール・スターはとっくの昔に殺されたのだろうか、それともどっこいしぶとく生きているのだろうか。

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