George Harrison & Paul Simon「Here Comes The Sun」

桜が満開になった4月初め、しばらく冷たい風と雨の強い日が続いたけど、昨日は何日かぶりに晴れた。朝の散歩に出れば、もう強風で散ってしまったのではないかと半分諦めていた桜の花もまだたくさん残っていて、春の陽気の下で花を楽しむことができた。長く冷たい冬を抜けて、暖かい陽光の下で花咲く春。こうなればもう自動的に「Here Comes The Sun」が頭の中で鳴り響く。昨日の脳内で再生されていたのは、いつものビートルズ版ではなく、ジョージとポール・サイモンがギターを一本ずつ抱えて、1976年にアメリカのテレビ番組「Saturday Night Live」で共演したバージョンだった。自分が心から愛している最高の名演である。

この映像、好きすぎて何度繰り返し観たかわからないけど、観るたびに魅了されて、演奏が終わると観客と一緒に拍手をしてしまう。この共演があった1976年11月に、ジョージは「Thirty Three & 1/3」を発表している。慈愛輝くダークホース期の幕開けを告げた名作。ジョージにとっても、厳しい冬の時代を抜けつつあった時期だろう。この76年のジョージが放つ前向きなオーラに加えて、ポール・サイモンとの相性の良さが本当に究極である。声もギターも、完璧に融け合っている。

ギターは、ビートルズのオリジナルバージョンではカポ7フレットのAで演奏されるけど、ここでは1音下のGがキーになっている。ポール・サイモンはカポを付けずにフィンガーピッキングでローコードのアルペジオを弾き、ジョージは通常どおりピックで高音弦を弾く(カポは1音低いから5フレット)。この二人のいつものギタースタイルが自然に重なり合った、2本のギターが織りなすアンサンブルが絶妙なのである。二人のヴォーカルハーモニーの美しさは、聴いてもらえば自分がずらずら書く必要もないだろう。終始リラックスして歌うジョージ。一人で歌うとどうしても緊張感が出て声が硬くなりがちなのだけど、ポール・サイモンという同格の相棒を得て心地よさそうに歌うジョージは、とてもいい。ポール・サイモンがソロを取る場面もあって、そこでの肩の力が抜けた歌いっぷりも大好きである。最後のヴァースでは、オリジナルにはない上のハーモニーをポール・サイモンが付けている。このはまり具合と言ったらもう。ビートルズの3声ハーモニーの要と、サイモン&ガーファンクルの片割れが一緒に歌うのである。綺麗にハモらないはずがない。

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長年連れ添ったデュオのように微笑み合いながら、ごく自然に音を重ねるジョージとポール・サイモン。どうしてこの二人でもっと共演しなかったんだろう。もし76年の彼らが共演アルバムなんて作っていたら、どれだけ最高なものができていたか。この二人、「Blue Jay Way」が書かれた舞台となったロサンゼルスの同じ家を前後して借りていたという縁もあり、ビートルズとS&Gがともに解散した時期にはジョージがポール・サイモンを気遣って連絡を入れたりもしていたらしい。この演奏の冒頭でも、ポール・サイモンは「僕の友達、ジョージ・ハリスンです」と嬉しそうにジョージを紹介している。クラウス・フォアマンなどジョージの近くにいた人々が語るエピソードに触れるたびに思うけど、温かい心遣いで人の心にすっと入り込んで親しい友人関係を築いてしまうのが、ジョージという人だったのだろう。


このときの共演では続けてS&Gの「Homeward Bound」も披露されていて、こちらの演奏は後年のジョージが手がけたチャリティアルバム「Nobody’s Child: Romanian Angel Appeal」(1990年)に公式に収録されている。「Here Comes The Sun」の演奏は、残念ながら現在廃盤のサタデー・ナイト・ライブ完全収録版DVDセットにしか収められていないようで、それを持っていない自分は非公式のネット動画で観るしかない。もちろん「Homeward Bound」の演奏も素晴らしい出来だけど、「Here Comes The Sun」は一瞬一瞬に魔法がかかった特別なもの。いつの日か、こちらも広く入手しやすい形でリリースされることを願っている。
ジョージが亡くなった後の2009年、ポール・サイモンはグラハム・ナッシュとデヴィッド・クロスビーを迎えて「Here Comes The Sun」を再演している。これもまた美しいハーモニー。サイモン、クロスビー&ナッシュの三人でこの曲をやるのだから、間違いようがない。

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