Teenage Fanclub 2019年2月4日東京公演

あの夜、自分が見たこと感じたことを余すところなく書きたいのでそうしたら、ものすごく長くなった。同じものを見ても感じ方は十人十色。これは自分自身がライブ会場で見て感じたことのすべて。

少し早い高速バスに乗り、早めに会場に着けるはずだったが、運悪く首都高がひどい事故渋滞。そのままでは開演に間に合いそうもないので、途中下車して京王線の駅まで走り、電車を乗り継いでお台場の会場にたどり着いたのは開演ギリギリの時間。満員の会場でレイモンド寄りのまあまあ良いポジションを確保したらすぐに照明が暗くなって、ギターを抱えた曽我部恵一が登場。「『前座』の曽我部です」と名乗り、弾き語りを始める。Aのコードをガーンと弾きながら歌い始めたのは「恋におちたら」。自分はサニーデイ・サービスの「東京」から数枚をリアルタイムで聴いていて、当時のライブも何度か観た。近年の作品は知らなくて、彼を観るのは20年以上ぶり。「東京」には当時かなりの思い入れがあったので、会場に入った途端にその「東京」から「恋におちたら」を生で演奏されて、いきなり全俺が涙してしまった。「前座」からこんなことでどうする、しっかりしろ自分。いや、彼の演奏ぶりは自分が知っていた頃とはまるで違った。あとの曲ははじめて聴くものばかりだったが、20年前に観た頼りなさげな彼とは別人に生まれ変わったような(風貌もだいぶ変わった)とても力強い演奏。こんなことになっていたのか!このときの演奏については、後であらためて別記事に書くかもしれない。

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曽我部恵一のセットは30分で終わり、余韻に浸りつつしばらくどきどきしながら待っていると、新ラインナップのTFCがにこやかに登場。ノーマン、レイモンド、フランシス、デイヴ、エイロスの5人。エイロスのバンド、ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキは90年代に少し聴いてたけど、それほどはまったわけではなかった。でもステージに彼がいるのはちょっと嬉しい。ノーマンはいつもどおりのセンターで、日本語の挨拶を飛ばして相変わらず気さくな調子。前回来日と同じくパープルのシャツで決めて、年季の入ったいつものジャガーを抱えた、格好いいレイモンド。じゃあ始めようか、という感じで演奏し始めたのが「The Darkest Part Of The Night」。「Here」の中で、いや「Howdy!」以降のノーマン曲すべての中でもトップ3に入る大好きな曲。わっ、これがオープニングなんて嬉しい、と盛り上がってからすぐに気づいた。この曲の歌詞は、つらい状況に耐えている近しい人に思いを寄せる、ノーマンの優しさがとても胸に迫ってくるもの。メロディにもその優しい心がよく出ている。ジェリーのいないTFCがはじめて日本で演奏する曲としてこれを選んだのは、きっと「ジェリーへ」ということなんだ。少なくとも自分はそう受け取った。この時点で、このライブは自分の期待に応えてくれるすばらしいものになると確信した。TFCのジェリーへの気持ちは、ライブの最後にもっと明確な形で表現される。

続いてさくっと始まったのは「The Cabbage」、さらに「About You」と、90年代ど名曲の連打。この2曲とも、はじめて聴いたときの衝撃は20年以上経ってもまざまざと思い出せるけど、この記事で個人的なことを書き出すと収拾が付かなくなるので割愛。とにかく、全俺が号泣。

いきなりサーティーン~グランプリの曲でガツーンと来た後は(以後、これらのアルバムからは1曲もやらず)、エイロスのコーラスが映える「Start Again」。歌詞の内容からするとこれがオープニングでも良かった感じだが、「ジェリーへ」の1曲、パーッと景気づけの2曲に続いて、さあここから本番、ということかもしれない。さらに「2週間前にレコーディングしたばかりの新曲をやるよ」とノーマン。え、新曲!!しかも、歌い出したのはレイモンド。近年の彼には珍しい、ざくざくとリズムを刻む激しい曲調。サビの歌詞は「Everything is falling apart」を繰り返し、ギターはラウドに歪みきっていた。この曲の意味を今は深く追究しないけど、とにかくレイモンドの新曲がこの場ではじめて聴けた。力強い、いい曲。ジェリーが抜けても新曲を作って前向きに活動しているんだ、よかった!

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今度は「Man-made」からの曲です、とノーマン。このアルバム、じつは少しだけ苦手。TFCにしては手触りが無機質で冷たく感じるのだ。でも、最近になって「Howdy!」を再認識した自分、次はこれを聴き直すべきだと思っている。とてもいい曲が揃っていることはもちろんなのだ、TFCだもの。演奏したのはもちろん近年の定番、前回来日でもやった「It’s All In My Mind」。次のレイモンド曲も同じアルバムから「Only With You」。エイロスの単音弾きピアノで始まり、同じピアノで終わる。とても印象的。

次は「Bandwagonesque」から、と言いながらノーマンがGのコードを弾く。おお、バンドワゴネスク!2弦の3フレットを押さえたローコードのG、あのアルバムでそれから始まる曲はあれしかない。続いてD。やはり、と思っているとノーマンがちょこっと歌い出したのはボウイの「Ziggy Stardust」。た、たしかにあのリフと同じコード進行……後でこれはカラオケで歌うかもね、とジョークを飛ばすノーマン。彼が歌うジギー・スターダストが聴けるなんて、ラッキー。始まったのはやはり「Alcoholiday」。もちろん、ど名曲。こんな風に、ジェリーの不在以外はいつもと変わらない感じで楽しくステージが進んでいく。ジェリーの曲はやらないが、それでも音楽的には決して寂しくならない。むしろ、ノーマンとレイモンドの曲だけでも、やってほしかった曲があと何十曲でもある。TFCが30年という長い時間をかけて積み上げてきた名曲の多さにふるえる。

前回観た公演ではさまざまな楽器を持ち替えてTFCをサポートしていたデイヴ、今夜はベーシストに徹して、ジェリーの立ち位置で淡々と演奏をこなす。ステージで発言をすることもなく、目立った振る舞いもせず、あくまで淡々と。TFCの重要なサポートメンバーとして前から認知されているデイヴ、もう少しメンバー面したっていいんだぜ、と思うけど、彼は現時点で自分の果たすべき役割にひたすら専念している。そんな姿に誠実さを感じる。欠落した存在としてのジェリーはずっとステージ上にいて、ジェリーの形をした点線のシルエットがあるように見えた。ジェリー曲なしでも次々と名曲が繰り出される、TFCの底なしのレパートリーにふるえながら、ここにジェリーがいたらどんなに良かったろう、ジェリーに会いたい、という心の痛みは、楽しさの中でも常に感じる。言うまでもなく彼の不在は埋めようもなく大きい。でも、その痛みをごまかすために、90年代ヒットパレード的な選曲に過剰に頼ってライブを盛り上げるような空虚なことを、TFCはきっとやらないだろうと思っていた。やってほしくなかったし、やる必要もない。彼らには尽きることのない音楽的才能と、活動歴30年以上の積み重ねがある。「Here」をはじめとする近作、渋いレイモンド曲、そして新曲。今回公演でも基本はあくまで「今」のTFCを貫いていた。ジェリーがいなくても、前回公演とバンド全体の印象がそれほど変わらない。とても強靱なバンドなのだ。そこは本人たちも自信があったに違いない。まさに継続は力なり。

「Alcoholiday」の次にノーマンが歌い出したのが何と!「Catholic Education」、1989年のデビューアルバムのタイトル曲。「前座」曽我部恵一が曲間の語りで、毎日家に帰ってこのアルバムを聴くのが自分の人生で一番大切なことだった、このアルバムは自分の一部だ、と言っていた。今ごろ全曽我部が号泣しているだろうと思いながら2019年TFCの演奏を聴いた。このアルバム、言わずと知れた「Everything Flows」は永遠の命を持った名曲だけど、ほかの曲はとにかく当時のTFCにしかない若さを感じる。まさにティーンエイジ。2019年のノーマンに目の前で歌われると、とくに元曲の若さが際立って聞こえる。30年経っているんだ。自分はまだ17だった。考えてみれば10代が決して好きでも楽しくもなかった自分が「10代ファンクラブ」なんてバンドのファンなのは不思議なものだけど、たぶん皆そんなものだろう(どんな?)。自分がTFCに出会ったのは92年前半、その前年11月に出た「Bandwagonesque」からで、ここから「Thirteen」「Grand Prix」までの3枚が自分の血肉になっている。

続いてレイモンドの「Your Love Is the Place Where I Come From」、前回来日でもやってた「Songs From Nothern Britain」からの和める曲。ノーマンは小さな鉄琴を抱えていて、5音の決まったフレーズを弾く。可愛い。さらに、もう1曲、ノーマンの新曲が!setlist.fmに載っている当夜のセットリストには「I’m More Inclined…」と表記されている新曲、これもエネルギーに溢れていて、良い!こうやって力の入った新曲を披露して、今後のTFCに期待させてくれるのは本当に安心する。ここで聴いた新曲が次のアルバムに収録されたら、この夜のことを必ず思い出すだろう。だからライブではじめて新曲を聴くのは好きなのである。今回聴けた新曲は、レイモンドとノーマン1曲ずつ。どちらも力強く前向きな印象を受ける曲。ジェリーがいなくなって、バンドはバランスを失って崩壊するのではないか、と自分はひそかに恐れていた。これが最後の来日になってしまうんじゃないかと。でもその心配はなさそう。フロントが3人から2人になったが、ノーマンとレイモンドで対等に分け合うのではなく、5:3ぐらいのバランス。近年のTFCはレイモン度が高くなったとはいえ、あまり高すぎるとTFCとしてはバランスが崩れるのだ。そこはノーマンが頑張っていた。

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「It’s a Bad World」「Planets」(フランシスと自分が共作した曲だとノーマンの解説)「I Don’t Want Control of You」と、「Songs From Nothern Britain」からの曲が3連打。セットリスト全体でこのアルバムから5曲もやった(さらに、アルバム曲のシングルB面も1曲)。ノーザンブリテンの曲では、エイロスの確かな音程でしっかり前に出てくるコーラスがとても重要な役割を果たしていた。ライブで聴くと非常に気持ちいい。セットリストのノーザンブリテン度が高かったのはエイロスを生かした選曲だったのかな。

「Songs From Nothern Britain」からたくさんやった後は、現時点での最新作「Here」からレイモンドの「Hold On」。この曲、すごく好きなのである。前回来日でもやったし、今回もやってくれて嬉しい。「奴らの企みに惑わされず、自分の心をしっかりと持ち続けるんだ」という歌詞にとても励まされるし、ギターで弾いても気持ちのいい曲。今回、アルバムとは違ってキーが1音高いアレンジになっていたようだ(2フレット目にカポが付いていた)。キーが上がった分、サビでノーマンの張りのあるコーラスが前に出てくるようになって、全体にパワーアップしたライブバージョンに生まれ変わっていた。さらに、同じアルバムから代表曲「I’m in Love」。この曲もレイモンドのギターがいいし、何といっても潔い終わり方が格好いい。ジャーーン、ジャッ!会場、大いに沸く。これだけキャリアの長いバンドが、近作を演奏してこんなに盛り上がるなんて凄いことだ。これも今後は不動の定番曲になるんだろう。尽きることのない名曲の泉、TFC。

ジェリーのいないTFCのステージを観ながら、彼の不在に胸を痛める一方で、2年前の前回来日公演で見た姿も自分は思い出していた。元々クールなキャラクターではあるが、ステージでの存在感が薄かったような、彼ひとりだけテンションが低くて孤立しているような、そんな感じがしてひそかに気になっていたのだ。まさか飛行機移動が理由で翌年にTFCを脱けることになるとは夢にも思わなかったが、あのときよほどしんどかったのかな、と脱退のニュースを知ったときまず思った。自分がとても楽しんだ来日公演でそんなことになっていたなんて、本当に複雑な気持ちだった。近年のジェリー曲の歌詞もよく読むと、平穏な生活を切望する内容だったり、出口なしの苦悩を訴えていたりと、今にして思えば暗示的なものがけっこうある。いかにも繊細そうなジェリー、かなり前から色々と悩んでいて、飛行機のことは最後の駄目押しだったんじゃないかと自分は思っている。ラスト・ストローというやつである。それは自分もよくわかる。ひとつの大きな問題がのしかかるのもきついが、小さな小さな問題の積み重ねもまたつらいのだ。

最後にファーストシングルの曲をやります、とノーマンが言って演奏を始めたのはもちろん「Everything Flows」。アンコールもあるだろうから、今回はこの曲で終わりではないのだな。サビは会場全体の大合唱。終盤のノイズの渦の中、幸福感に満たされる。終わっていったんメンバーは引っ込む。アンコール。

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再登場したTFCがまず演奏したのはレイモンドの「The Fall」。ライブでこうやって聴かせてもらうと、しみじみといい曲。会場もみな幸せそうに聴き入っている。ジョージ的ともいえる考え抜かれたフレーズのギターソロがとても格好いい。「Shadows」からやってくれたのも嬉しい。このアルバムにはもう1つ、「The Past」というレイモンドの慈愛と新境地を感じさせるとてもいい曲があって、これもライブでぜひ聴きたいと思っている。

そこから間髪入れずに「The Concept」が始まる。そうか、今回はこっちをクライマックスに持ってきたか。もちろん大合唱。レイモンドのギターソロ、これもまたロックギター史に永遠に残る名フレーズだなあ、とあらためて思う。いったんブレイクした後、90年代の若い彼らだったら「Satan」になだれ込んで激しくグランジーに終わるのが定番だったが、近年のTFCはあの美しいスローパートをしっかり最後まで演奏する。前回公演で自分はこれを生ではじめて聴き、大人になったTFCにとても感激したのだった。

しかし「The Concept」終盤の盛り上がりは何となく100%まで行ききる寸前にぶつっと終わった感じがした。じつは、これで終わりではなかったのだ。ノーマンが「最後にもう1曲やるよ」と言いながらアコギに持ち替え、コードストロークを始める。何度も繰り返されるシンプルな循環コード。この曲、どのアルバムに入ってたっけ……思い出せないまま歌が始まる。「Your heart has been broken again. It’s broken. It’s broken…」という歌詞の延々繰り返し。あとで調べたらシングル「Ain’t That Enough」のカップリングとしてのみ発表された「Broken」。いわゆるレア曲。どうして定番曲でクライマックスにせずに、こんなアンチクライマックスな曲を最後にやるのか。もちろん答えは明らか。ジェリー。ジェリー!彼らはやはり、ジェリーとの別れに痛んだ心を隠そうともごまかそうともしなかった。ステージでジェリーの名前を出すことは一度もなかった。ジェリーの曲を他のメンバーが歌うこともなかった。できるはずもない。そしてアンコールのラストに、ジェリー曲のシングルに入っている「Broken」を演奏して、音楽で表現した。壊れた心を最後にさらけ出して、ジェリーのいないTFCの最初の来日公演は終わった。壊れたのは、何十年も一緒にいた家族のようなバンドを離れざるを得なかったジェリーの心、ジェリーと別れても活動を続ける決断をしたメンバーの心、そして我々ファンの心。やはり、ジェリーのことはとてもつらい別れだった。この最後のシーンを思い出すだけで今でも鼻の頭がつーんとして涙があふれてくる。いつでも泣ける。

TFCがステージに登場する前に、曽我部恵一がありったけの声を張り上げ、弦を引きちぎらんばかりにギターをかき鳴らして歌った曲の一節も思い出される。正確な言い回しは違うかもしれないけど、「心が壊れそうになったとき、君の心に音楽は流れているかい」という歌詞だった。音楽、流れている、たぶん。生きている限り音楽は止まらない。つらい別れに壊れたたくさんの心を真正面から引き受けながら、TFCの旅はまだまだ続く。やはり生きていくのに必要なのは彼らのようなまっすぐな誠実さをもって、何かをずっと続けていくことなんだ。そうすれば、つらいことがあっても乗り越えられる。一番大切なのは誠実であること。そう思いながら会場を後にした。TFCは自分が進んでいく方角にいつも輝いてくれる気さくなガイディング・スター、これからもずっと。

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